ハンナ講座 やさしい社会問題 

第38回(2023年7月8日)まとめ

「格差の問題から今の社会や人間のあり方について考える」

梅雨の蒸し暑さと不安定な天候とコロナの懸念も続く中、講座を開催しました。

 

Mさん、SEさん、SIさん

6月24日〜25日に、鉄道に造詣が深いKさんの案内で「尾小屋鉄道の残影を巡る旅」と題して、石川県小松市に一泊で行ってきた旅行の報告と感想を、参加した3人の方に簡単に言ってもらいました。

天候にも恵まれ、Kさんの比較的ゆったりした計画のもと、和気あいあいの楽しい旅行でした。尾小屋鉄道の跡地や残されている車両などの見学や、尾小屋鉱山の資料館や坑道跡のトロッコに乗っての見学のほかに、那谷寺や安宅関跡、一向一揆の里資料館なども見て、盛りだくさんの充実した旅となりました。ハンナでの講座だけでなく、外に出かけるフィールドワークや小旅行的なものも、今後、また機会があればできればと思います。

 

●Nさん

「ジャニーズ前社長による性虐待の記事」を紹介。

ジャニーズ事務所の創業者、故ジャニー喜多川氏(2019年死去)による所属タレントへの性虐待問題で、イギリスのBBCのドキュメンタリー報道をきっかけに、被害の告発が元ジャニーズジュニアから相次いでいる。ジャニーズ事務所は記者会見を開くことなく、公式サイトに現社長の動画と書面を公開したものの、その中で、現社長は被害の事実認定をせず、一連の疑惑についても知らなかったと述べた。喜多川氏によるセクハラ行為を告発した文春とジャニーズ事務所との裁判は2004年に文春側の勝訴で終わっているが、その後も被害は続いていた。マスコミもその後、大きく取り上げることはなかった。芸能事務所とマスコミが癒着し、マスコミによる特別扱いの結果、被害が拡大再生産してきた。被害者も事務所の圧力で被害を訴えられなかった。今回を契機に性被害を訴えられる環境ができ、性被害が無くなればと、元文春記者の中村氏や実名告発した橋田さんたちは願っている。

 

●Hさん

「JCASTニュースに載った自身の経験」を紹介。

京都の鴨川沿いに丸太一つのベンチが置かれている。そこに座ってお弁当を食べようとしたHさんは、落ち着かなかったので、通常の背もたれと平らな座面のベンチにしてほしいとツイッターに投稿した。共感する声が多数だったが、別の場所で食べればいいという声もあった。京都土木事務所は、丸太のベンチはホームレスの人が長く滞在できないようにというホームレス対策だと説明した。鴨川沿いには他の通常のベンチもあり、丸太のベンチを変更する予定はないという。ホームレス対策という、人権感覚の希薄な京都市の対応に対して、Hさんとその娘さんが用事で訪れた滋賀県野洲市の対応は対照的だった。駅に寝泊まりしているホームレスの人を見て、Hさんの娘さんが野洲市役所に支援してほしい旨を伝えた所、すでに市役所では把握しており、本人の意向に沿って見守っているとのこと。その後、そのホームレスの人は駅からいなくなったので、市の支援の結果だろうとHさんは思った。今回のことを通じて、困難な人への支援が当たり前にできる行政であってほしいとHさんは思ったが、ネットへの何気ない投稿(ベンチを居心地よくしてほしいという普通の希望)がこんな大きな波紋を呼んだことにも驚いている。

 

●SIさん

三つの新聞記事を紹介。

 祇園まつりで196年ぶりに復興した鷹山のイベントに参加した大原千鶴さんは、長い視点でものごとを見る京都スタイルが、今の日本には必要なのではと感じた。防衛の問題とか経済成長の問題とか、政治や経済の問題にしても、短い期間で拙速に成果を考えるのではなく、長い目でものを見る京都スタイルの視点を持ってみれば、もっと違う、より良い解決策が見つかるのではないかと大原さんは思う。

 「少子化の原因は男女不平等にある」という記事を紹介。

先進国では、ジェンダー格差と出生率の間に関連性があることがOECDの調査で明らかになっている。

日本の少子化の原因が世界でも最低レベルのジェンダー不平等にあることは間違いない。女性の不安定雇用や賃金格差などが、安心して子どもを育てる環境を阻害している。男女不平等の日本から平等な海外に移住する女性も増えている。日本社会に深く根付く男女不平等の慣習や考え、制度や社会構造などにメスを入れ、女性も男性も将来に希望を持ち、安心して働きながら子どもを育てる環境を早急に整えなければ、少子化は止まらず、社会の活性化は望めない。

 思想家の小坂井敏晶さんの著書「神の亡霊」を用いた東京大学の設問についての記事を紹介。

「神の亡霊」は、「近現代における主体という概念は、遺伝・環境・偶然という外因の相互作用が生み出した虚構であり、中世の神が姿を変えた亡霊のようなものだ」という考えをベースにして、臓器移植、死、裁判、規範論といったテーマごとに考察したもので、入試で問われたのは、このうち「近代の原罪」と題された一説。教育制度の平等性は錯覚で、実のところ親世代の格差を子世代で再生産してしまっていること。教育現場で浸透しているメリトクラシーがごまかしに満ちていることを批判的に論じている。

設問はこの内容をもとに、「機会の平等のもとで生まれる格差は正当で自己責任だという能力主義の考えの是非」「筆者が自己責任の根拠はないとしている理由」「メリトクラシーの詭弁の説明」「近代は人間に自由と平等をもたらしたのではなく、不平等を隠蔽し正当化する論理が変わっただけだとの記述の意味」などを記述式で答えるもの。常識的な考えにメスをいれた極論とも言える内容を入試問題に取り入れたのはさすが東大というべきか?

 

●Mさん

三上智恵監督新作「沖縄、再び戦場へ(仮題)」に向けてのスピンオフ作品上映と沖縄軍事基地の今〜写真パネル展」の紹介。沖縄の今の危機的な状況について、沖縄県外に住む我々こそが、しっかり考えていかなくてはならない。

 

 

今回も多様なテーマについて、紹介された資料をもとに活発な意見交換がありました。特に、最近目に余るマスコミの偏向やジェンダー不平等に対する是正の弱さなどについて関心が高かったと思います。小坂井敏晶さんの「神の亡霊」の「近代社会と主体・自由意志・能力主義などの問題」については、次回以降も、引き続きテーマとして考えていく予定です。

次回は、9月9日(土)の予定です。

 

新聞記事の紹介に関連して、「政府の政策に批判的な書物の発行を上司に止められた革新系の新聞の記者のこと」「マスコミの政府追随の姿勢が強まっていることへの懸念」「虚言やフェイクニュースなどに惑わされず真実を知る努力が大切」「認知症の人に対する理解やと共に生きる社会を創っていくことの大切さ」など、今の社会のあり方についての意見や感想が多く出されましたが、詳細は割愛します。

 

次回は、7月8日(土)の予定です。