ハンナ講座 やさしい社会問題 

第36回(2023年5月13日)まとめ

「格差の問題から今の社会や人間のあり方について考える」

ゴールデンウイークが終わり、新緑がきれいな季節となりました。コロナが2類から5類へと感染症法上で指定変更され、少し警戒心が緩んできた気もしますが、いつも通り、36回目の講座をおこないました。

 

Uさん

①通販生活の時事エッセイ「こんなことを言っても得することはないんですけども・・中村文則」という記事を紹介。

ロシアとウクライナの戦争が続いている。ロシアも米・EUも間違っている。ウクライナの人々が気の毒だが、ウクライナ政府が親欧米へと舵をきったことでロシアの理不尽な侵攻を招いた面もある。理不尽な政治をする大国の隣国は、間違っている相手から被害を受けないよう注意深く外交をする必要がある。ロシアとの間に北方領土問題を抱える日本でも、領土を外交でなく武力で取り戻す意志を示し、北方領土奪回の軍事演習を米と繰り返せば、ロシアの侵攻を招くかもしれない。中国との緊張が続く台湾でも、今の政権も世論も現状維持だが、独立を前面に出す政権になれば、戦争になりかねない。米は対立をあおるが、中国との全面戦争を避けるため日本を利用し、日本が中国との戦争の矢おもてに立つ可能性がある。つまり、台湾の選挙次第で日本の国運が決まることになる。「戦争プロパガンダ10の法則(アンヌ・モレリ著)」という本では、昔から使われ続ける、国民を戦争へと向かわせる巧妙な戦争宣伝の法則が並べられている。歴史は繰り返す。戦争は巧妙だ。冷静にならなければ悲劇しかない。でも冷静になるのは難しいから、今後も人は戦争をし続ける。

米タイム誌に掲載された、岸田首相は軍事大国を望んでいる、という記事について、日本の外務省が題名と記事の中身が異なると異議を伝えた」という記事を紹介。

滋賀県が、今秋、令和の大調査として安土城天守台周辺の発掘調査を行う」という記事を紹介。発掘されると予想される遺物などによって天守の形状などが明らかになり、城の「見える化」が進む可能性があるという。

 

Hさん

①「わくわくの旅に出るみなさんへ  梨木香歩」という記事を紹介。

昔は、生活の経験値が高く知識の宝庫であった目上を敬う気持ちもあったが、新しい情報が飛び交う現代では若い人に教えを乞うことが多い。今は、大人は理不尽なことばかりしていて、若い人のモデルにならない。昔の家父長制的な価値観は崩れ、新たな時代を迎えている。「龍の子太郎」という話では、とうてい動かないと思っていた山をお母さん龍が体当たりして動かしてしまう。同じようなことが、単身で性被害を告発した伊藤詩織さんやLGBTの人々に言える。「こんな世の中であっていいわけがない」という信念と行動で、岩盤のようだったこの国の価値基準も揺らぎ始めている。

「先をゆくモデルのない時代だが、あなたは人類が生まれてこの方、どんな世代も経験したことのなかった

新しい時代を切り拓いていかなければならない。苦しみを上回る喜びが、悲しみを塗り替える幸福がみなさんの人生に待っていますように。わくわくする冒険の旅の醍醐味が味わえますように」と、伊藤さんは若い読者にエールを送る。

②「差別(キム・ジウン/キム・ドヒ監督)」という映画の紹介。

2010年より施行中の日本政府の高校無償化政策から唯一対象外とされている朝鮮高級学校。5つの朝鮮高級学校が2013年に日本政府を相手取って損害賠償請求を起こした。在日コリアンと朝鮮学校の生徒たち、弁護士、支援する人たちの話に耳を傾け、差別に耐え自らのアイデンティティを貫いていこうとする在日朝鮮人の生を描く。大阪・シネ・ヌーヴォXで5月20日よりアンコール上映中。

 

Mさん

①「沖縄思う町 不屈の意見書」という記事を紹介。

沖縄戦の戦没者の遺骨を含む土砂を埋め立て工事に使わないでと求める意見書が、大阪府島本町議会で全会一致で可決された。「島本・沖縄戦戦没者の尊厳を守る会」代表の宮里幸雄さんたちは、2年前に意見書を提出したが否決された。しかし、あきらめず、今回、町民の30分の1にあたる署名を添えた意見書を議会に提出した結果、全会派の賛成で可決された。町民の共感、町議の理解。そして「尊厳を守る会」の不屈さ。一つでも欠けたら可決はなかった。小さな町の町民の意思表明は大切なことである。

②「ウエルビーイングな未来へ 主役は人間、時代は転換点に」という記事を紹介。

慶応大学教授でウエルビーイングアワード審査委員長の前野隆司さんに、現在、企業などで進められているウエルビーイングの取り組みについて聞いた。ウエルビーイングとは健康も幸せも福祉もすべてを包み込む概念であり、誰一人取り残さない社会を目指していく活動だと前野さんは言う。アワードでは、「モノ・サービス部門」「活動・アクション部門」「組織・チーム部門」の三つの部門でウエルビーイングな取り組みをした企業を表彰した。授賞式後のシンポジウムでは、「企業が株主の短期利益だけを追求する時代は終わり、つながり・信頼をつくることが企業プランディングの主軸になる」「世界は競争の時代を経て共創へと向かっている。この共創の先に未来がある」というウエルビーイングの理念が確認された。

③「<私>は肥大化 いま作る新しい<公> 経済思想家 斎藤幸平さん」 の記事を紹介。

以前にもUさんなどが何回か紹介した斎藤幸平さんに関する記事。<私>が肥大化しすぎて格差が広がり環境にも負荷がかかっている今日、大きくなりすぎた<私>を縮小し、コモン<公>の領域を広げ、水など生活に不可欠なものの再公営化が必要だと斎藤さんは言う。以前のような閉鎖的な共同性とは違う新しい共同性、新しい公共こそが、地球環境が悪化した「人新生」の時代には必要だと斉藤さんは強調する。

 

Fさん

「東京工業大学未来の人類研究センター主催 利他学会議VOL2 司会中島岳志さん」を紹介。

東大の吉村有司さんが「スーパーシティ・バルセロナのまちづくりに学ぶ思想と実践」というテーマで話をした。バルセロナでは、人生における幸せとは何かを社会全体で考える文化が根付いており、市民運動出身のアダ・クラウ市長による、困っている人々を取りこぼさない政策がおこなわれている。また、カタルーニャ地方伝統のレンガ積み工法「カタラン・ボールト」は、みんなが参加しやすい仕事であり、みんなが簡単に参加できる仕組みがポイント。ガウディも、サグラダファミリアで働く職人の子どもたちのために造られた学校でこの方法を取り入れた。イタリアやスペインは、貧乏だけどみんながやれる仕事をさがし、その中で幸せを追求してきた国で、これからの日本はモデルにするべきではないかという意見。

あと、「ちゃぶ台トーク」とうフリートークでは、「くじ引き民主主義」や伊藤亜紗さんの「利他」のしくみと制度作りなどの話も出された。

 

今回も、紹介された新聞記事などをもとに、「戦争や軍事のこと」「協働社会」「民主主義と公共性」などについていろいろな意見が出されました。

 

次の講座は6月10日(土)です。