ハンナ講座 やさしい社会問題 

第34回(2023年3月25日)まとめ

「格差の問題から今の社会や人間のあり方について考える」

新型コロナがそろそろと収束に向かうきざしが感じられ、桜の満開も近いという、少し明るい雰囲気の中で、それでも、マスクと換気は継続しながら、講座を開催しました。

 

Mさん

ハンナ講座参加者の一人であるKさんの父親が書いた「孫に語る従軍記」の読後感想。普通の自由主義的な考えの日本人として先の戦争に従軍した時の様子を、感情に流されず、事実に即して淡々と綴った貴重な体験記で、戦争のありのままの姿がよくわかる記述になっている。軍医という立場からか、戦争初期の少し牧歌的な記述(中国の名所見学など)や侵略戦争に参加しているという意識の弱さもあるように思うが、当時の一般的な日本人としては、極端な軍国主義的な考えも持たず、正直に真摯に戦争という望まない現実と向き合った希少な体験記であると思う。後半の、生死をかけて軍務にあたる姿や悲惨な戦争に向き合う姿勢には感動を覚えた。(今後、講座参加メンバーで順番に読み、それぞれが、簡単に感想を書こうということになりました。)

 

SEさん

二つの新聞記事を紹介。

 「斉藤幸平の分岐点、その先へ」という記事。

東京五輪で、都営住宅を解体して国立競技場が作られたが、その競技場は、いまや、公費20億円の投入が必要な負の遺産となっている。そして、さらに、周辺の神宮外苑の再開発が進められ、多くの樹木が伐採される予定だ。樹木を伐採し、まだ使える野球場やラグビー場を破壊し、自然を破壊して商業施設が作られる。他の公園も再開発される可能性がある。行き詰った現代資本主義はもはや社会の富を破壊することによってしか利潤を生めなくなっている。公園のような社会の富としての「コモン」は利潤を生まない。資本の論理から「コモン」を守るには市民が反対の声をあげるしかない。斉藤さんは神宮外苑再開発の差し止めを要求する原告の一人になることを決意した。もうこれ以上沈黙したくないとの思いからだ。

 「松尾貴史のちょっと違和感 緊急事態条項 国の権限強化は悪い冗談」という記事。

先日亡くなった大江健三郎さんは「憲法9条こそが日本の安全保障である」と言っていた。今、国会では、ナチスドイツが利用して世界の惨状を招いた悪法「全権委任法」と同質の「緊急事態条項」を憲法に新設する話が進行している。緊急事態条項というのは、国家緊急権に基づいて、戦争、災害、恐慌などに対応するため、国家権力を特別に強化させるというものだ。緊急事態の宣言が発せられた時には、国民それぞれの基本的人権は奪われ、公権力による非人道的なことが日常的に行われる恐れがある。これは、憲法改正でなく、憲法を大きく後退・劣化させる憲法改悪だ。

 

Nさん

NHKのドキュメンタリー番組「地球を揺るがす北極圏」の内容を紹介。

北半球の陸地の4分の1をしめる永久凍土が融解しつつある。そして、凍土の中で凍っていた有機物が溶け、中の炭素が微生物により分解され、メタンガスと二酸化炭素となって大気中に放出されている。凍土の中の炭素は大気中の2倍あると言われている。

ロシア北部のヤマル半島では、メタンガスの爆発によってできたクレーターが8つも発見された。アラスカでも、湖からメタンがわきあがったり、凍土の融解による地盤沈下などが起きている。北極圏では、この数十年の間に表面近くの凍土の30〜70%が失われると言われている。北極圏では、溶けた凍土から出た水で湖が増え、その湖の水が凍土を溶かし、メタンが放出されるという悪循環が続いている。国際的にどの程度メタンが放出されているか把握できておらず、国際協定でも、メタンの放出が過少に評価され、対策が行われていないのが現状。永久凍土の融解とメタン放出の現状を知り、融解と放出をどう防いでいくかは、地球温暖化を考える上で緊急の課題といえる。

 

Mさん

二つの新聞記事を紹介。

 「水俣は今も問う〜公害の原点 判決50年」という記事。

公害の原点とされる水俣病を巡る最初の訴訟の判決から今年で50年となった。加害企業チッソの責任を断罪した判決は、患者への補償制度につながり、その後の一連の裁判では国の責任も認められた。しかし、症状に苦しみ、患者認定を求める被害者たちの裁判は今も各地で続く。73年に熊本地裁で出された患者勝訴の判決で、裁判長は「裁判は当該紛争の解決だけを目的とするので限界がある。企業とこれを指導監督すべき行政・政治による誠意ある努力なしには根本的な解決はあり得ない」とのコメントを出した。

しかし、その後、国は認定条件を厳しくしたり、認定を難しくする新たな要件を加えたりして、中軽症患者に救済の手が及ばず、患者認定を求める訴訟は現在まで続いている。弁護団は「被害を限定的にしかとらえない国の姿勢が問題を長引かせている」と指摘する。また、「化学工場の排水は危険であり、排水の分析や排水後の汚染状況の監視など、万全の注意をはらう義務が企業にはある」という「水俣病研究会」の考えは、「予防原則」として地球サミットの宣言にも盛り込まれたが、日本国内の司法の場では定着していない。水俣病訴訟が提起した問題はまだ解決されたとは言えない現状がある。

 「海外脱出 夢と現実」という記事。

沈みゆく経済、性や年齢による差別、脅かされる思想表現の自由、その環境で子どもを育てる不安など、様々な理由で「日本脱出」を考える人たちがいる。しかし、海外での生活や移住には、語学力や生活習慣の違い、厳しい就業など、多くの壁がある。

  メルボルン大学の大石奈々さんは、「海外には日本にない魅力もある一方、長期であて、短期であれ、移住にはリスクがつきものです。事前にできる限り現地情報を入手し、一定レベルの語学力をつけておくとことが望まれます」と言う。

  また、関西学院大学の鈴木謙介さんは「海外に行くこと自体は否定しない。しかし、海外でグローバルエリートを目指すのは決して簡単なことではないし、国内でもオンラインでの仕事が増えたり、国内でフローバルな活動ができる機会は増えている。内なるグローバル化を基盤に多様な人で協力して国内全体の底を上げる方向に力を注ぐのがいいのではないか」と言う。そして、若い人たちの生き方として「自分の居場所をこじ開けることに情熱を持てるなら、海外で活動するだけでなく、国内の環境を変えることだってできるでしょう。自分の世界を変えられる人こそ、社会全体を変える人になるのではないか」と言う。グローバル化の進展の中、問われているのは、国内、海外にとらわれない生き方かもしれない。

 

個々の新聞記事の紹介のあと、地球環境問題や今の政治の状況などについて、いくつかの意見や感想も出されましたが、記録が不十分なため、割愛します。

 

 

次の講座は4月22日(土)です。