ハンナ講座 やさしい社会問題 

第33回(2023年2月25日)まとめ

「格差の問題から今の社会や人間のあり方について考える」

コロナ感染数が少し減少しつつあるとはいえど、なお警戒が必要ということで、マスクや換気などをして、今年最初の講座を開催しました。 

Nさん地球環境問題に関する三つの新聞記事を紹介。

 温暖化未来を予測 〜21世紀末、世界人口の3割超に未曾有の熱波や豪雨被害のリスク〜

深刻化する地球温暖化によって豪雨や熱波、干ばつが増え、さまざまな健康被害、山火事、洪水などの被害をもたらし、世界の人々の命と暮らしを脅かしている。東京大学の沖大幹教授らは、気候変動によって将来、未曾有の気象リスクにさらされる地域とそこに住む人口の推計に取り組み、未来シナリオを作成した。その結果、温室効果ガス排出削減などの温暖化対策をしない場合のシナリオでは、今世紀末までに、世界人口の34.2%にあたる約25億2000万人が気候リスク境界を超え、これまで経験したことがない熱波や豪雨のリスクにさらされると推計。また、温暖化対策で21世紀末までの気温上昇を2度未満に抑えるシナリオでも、世界人口の16.3%にあたる約11億人が未曾有の気候リスクにさらされると推計した。今後の対策として、沖さんは、すでに深刻な気象リスクにさらされている地域からの適切な知識と経験の移転や変化する気候に即した治水や農業の普及など、気候変動に対する適応策の共有化や技術移転等の多国間の連携が大切だと言う。

 山岳氷河の3分の2、今世紀中にも消滅か

現在予測されているように地球温暖化が進むと、今世紀末までに山岳氷河の3分の2が消滅する可能性があると米カーネギーメロン大学などの研究グループが発表した。消滅するとされる氷河は小規模なものが多く、質量は全体の32%程度だが、氷河が存在する地域では水の循環や観光などで大きな影響を受けると指摘されている。

 海を汚すプラごみ、毎年2%がナノ化か

海を汚染しているプラスチックごみは、太陽の紫外線によって1年あたり2%弱が目に見えないナノメートル(10憶分の1メートル)サイズにばらばらにされている可能性があると、オランダ王立海洋研究所などの研究グループが発表した。ナノ化することで、海洋生物の食物連鎖を支える微小生物に取り込まれやすくなるなど、海洋プラスチック問題がいっそう深刻化することが予想される

Uさん

<「税の取られ損」感じるわけは 〜公共心 政府への信頼が鍵>という新聞記事を紹介

一橋大学准教授の竹内さんは、元高級官僚の企業の役員から「どうして日本人は税を『取られ損』と感じてしまうのか、公共心が足りないのではないか」と問われた。ごみ処理などの身の回りの公共サービスや社会保障政策、文化財保護など、税は広く公共のために使われており、社会を支えるための拠出金なのだから、納税者にその認識があれば、「取られ損」とは感じないのではないか、というわけである。

日本人には公共心がないのか?よそ者をあらかじめ排除する集団主義に慣れたせいか、他人に裏切られるリスク回避的な傾向が強いからか、日本人は他人を信頼できない。「世界中のほとんどの人は信頼できる」という質問への回答でも、日本人は「そう思う」の割合がかなり低い。他人への信頼が弱く非協力的な傾向が強いことが、日本人が税を「取られ損」と感じる要因なのかもしれない。しかし、現代社会は大勢の他人で構成されており、他人どうしの信頼と協力は不可欠だ。他人どうしの信頼と協力を作るための鍵は「互恵性」だ。お互いに与え与えられる関係によって、他人への信頼と協力が生まれ、公共心が育まれる。しかし、社会のなかの信頼だけでなく、税を支出する政府に対する信頼がなければ、「取られ損」感覚はなくならない。日本は、OECDの政府への信頼度調査で、37か国中23位である。高福祉・高負担の北欧諸国では政府への高い信頼がある。政府への信頼度が厚い人ほど納税意識は高い。「自分の要望が行政に活かされている」というOECD調査の問いに同意した人の割合で日本は最下位だった。日本では、汚職や利権をめぐるスキャンダルが絶えない議員・政府・官僚への信頼度は低い。納税者の公共心より、議員や官僚の公共心こそ問われるべきだろう。

 

SEさん

立命館大学教授・斉藤真緒氏による講演「ヤングケアラーを知っていますか 〜地域での支援を考える

・2001年、「嫁」が父母を介護する割合は31%だったが、2019年には13%になった。男性の介護者も増えてきている。しかし、介護はまだ個人・家族レベルが多く、未成年の介護者も多いのが実情

・いわゆるヤングケアラーと呼ばれる中学生は、17人に1人。Fさんという学生の事例を紹介。家庭の事情で祖母の介護を引き受け、心身とも疲弊するが、相談する相手もなく、一人で苦しむ。大津の、兄による妹殺害事件など、孤立して追い込まれる子どもも多くいる。愛情だけで介護はのりきれない

・ヤングケアラーとは、「本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的におこなっている(18才未満の)子ども

・「ケア」と「お手伝い」の違いは、「保護者の見守りがあるか」「他の活動を選択できるか」「今日はやりたくないが実現できているか」「自分のことを後回しにし続けているか」「自分の人生の土台造りに時間とエネルギーをかけられているか」など。

・ヤングケアラーの子どもの相談の有無については、「誰かと相談するほどの悩みでない」「家族以外に相談する悩みでない」が合わせて約90%。「誰に相談するのがよいかわからない11%」「相談しても状況が変わると思わない24%」など。

・「家族思いのいい子」「がんばってるね」など家族ケアの美化によって、子どもは本音が言えなくなっている。

・ヤングケアラーの相談に際しては、まず雑談から初め、何でも話せる関係をつくっていくことが大事。その先に本音がでてくるかもしれない。ヤングケアラーは何をしてほしいのかがわからないので、家族以外に身近で信頼できる大人を増やしていくことが大事。地域で支えていく体制をつくる。

・支援には、多機関・他職種連携が重要。ヤングケアラーが生じる背景を共通理解し、家族を責めることなく、家族全体を支援することを目指す。

・自治体でも、「ケアラー支援条例」制定が広がっている(現在14自治体)

・川崎市の子どもの権利条約報告市民集会で呼びかけられた言葉「まず大人が幸せでいてほしい。大人が幸せでないと虐待や体罰がおきる。家庭や学校、地域の中で大人が幸せでいてほしい。子どもはそういう中で、安心して生きることができる」

・「ケアがない世界」がいいわけではない。ケアが「負担」としてしか語られない社会が問題であり貧困な社会。今こそ、「いのち」と「ケア」が大切な社会(ケアフルな社会)への転換が必要。問題解決の単位を「個人・家族」から「社会」へ。

 

SIさん

三つの新聞記事を紹介。
 対話する宗教か閉ざされたカルトか(政治学者 姜尚中さん)

姜さんは、1980年代にキリスト教の洗礼を受け、父や長男を亡くした時も、洗礼から学んだ「不幸があるがゆえに、より強く生きがいを感じ、生きることの意味を深く詮索できる」という考えに救われたと語る。人生の目標は幸福の追求ではなく、自分の生まれてきたことの意味を見つけ出すことだと言う。宗教は知性を犠牲にし、集団を構成して不寛容や排他性、偽善などがはびこる危険性がある。一方、宗教を信じず科学や資本主義を信奉する人は戦争や格差や富の独占などをもたらす。今、戦前のようなナショナリズムの危険が迫る中で、宗教に求められるのは、国家的な価値を相対化する「あいまいさに耐える力」だという。また、宗教は、人種・民族・男女・貧困といった個別的なアイデンティティを超え、真の意味でのグローバル化を実現できる。ただ、それができるのは対話する宗教であり、閉じられているカルトにはできない。

 解は一つ。処遇改善すなわち賃上げ 「ウイメンズアクションネットワーク理事長・上野千鶴子さん

深刻なケアワーカー不足の要因の一つは、待遇の改善が進まないこと。背景にジェンダーの問題がからむことを上野さんは指摘する。ひとり暮らしの人が自宅で最後を迎える「在宅ひとり死」ができる制度であり続けるためには、介護報酬引き上げが必須だと上野さんは言う。介護労働の低賃金の背景には「女のただ働き」という、これまでの介護への意識が背景にある。介護保険制度によって、家族介護から、介護の社会化・脱家族化が進められ、「在宅ひとり死」も可能になってきた。しかし、介護保険の改悪や労働者不足が進んで、利用が制限されれば、介護は家族に押し戻され、「再家族化」が起きる。介護労働者の賃金を上げて雇用を増やすことで公的制度は維持できる。国はそれをやらずに外国人材やICTの活用など現状を糊塗する政策ばかりしている。介護労働者の賃上げをしていくことが本質的なことだ。

 公認心理士 心の問題にどう対応  

カウンセラーなどの心理職を国家資格化する公認心理士制度が法制施行から5年。さまざまな分野で求められる心のケアの問題に、新しい職種はどう対応していっくのか、信田さよこさんと上野千鶴子さんに聞いた。

信田さん「いろいろな場面で心理士が活躍することで、心の健康を損ねる前に、けがをしたら血を止めるような現実的な対応が可能になる。心の問題を深刻化させない大きな予防効果が期待できる。

ただ、危惧するのは心への注目や現実的な対応に終始することで、歴史的・構造的な視点が抜けてしまうこと。自分が支援している問題が、大きな社会の流れの中でどいういう位置にあるのかを鋭く見ていかないといけない。公認心理士が補完的で小手先の仕事に甘んじるだけの存在になってはいけない」

上野さん「問題は心にあるんじゃなくて、社会や制度や環境にある。例えば、困難女性といわれる人々は、メンタル面の相談をする前にさまざまな複合的な問題が積み重なっている。メンタル面の問題はメンタルだけでは解決できないということはもうわかっている。日本に必要なのは公認心理士よりもソーシャルワーカーであり、公認心理士には、心のケアだけでなく、制度リテラシーを持ったソーシャルワーカー機能を果たしてほしい」

Mさん

二つの新聞記事と二つの資料を紹介

 「女性ゼロワン」が地方議会の4割。50歳未満の女性 議員の2.9

全国の1788地方議会のうち、女性議員ゼロの議会が256(14.3%)あることが朝日新聞の全国アンケートでわかった。女性が一人だけの議会も436(24.4%)で、両方をあわせた「女性ゼロワン議会」は約4割に上る。50歳未満の女性議員は全体のわずか2・9%。地方議会の構成は、男性に著しく偏り、若年層の女性がほぼいないといういびつさが続いている。

 「新しい戦前」になるのか 危うい岸田流リアリズム

昨年暮れのテレビ朝日系の番組「徹子の部屋」で、タレントのタモリさんが、「来年はどんな年になりますかね」と問われ、「誰も予測できないですよね。でも、なんて言うか、新しい戦前になるんじゃないですかね」と答えて、ネットなどで大きな反響を呼んだ

ロシアによるウクライナ侵攻や米中対立の先鋭化、北朝鮮による度重なるミサイル発射、そして、日本では、そうした国際情勢を背景として、国会での丁寧な議論を経ることなく、「反撃能力」という名の敵基地攻撃能力の保有を宣言したり、防衛費倍増のための増税を打ち出したりなど、岸田内閣が戦後日本の「禁じ手」に手をつけたことが、「新しい戦前」に現実味を与えた。岸田氏は、首相就任以来、「新時代リアリズム」を掲げている。「新時代」が戦後日本の分岐点だとするなら、まさに「新しい戦前」にしないための看板であるはずだが、実際の政策は逆行する内容であり、自身の権力基盤を維持するための、内向きの(自民党内の)リアリズムではないかとの疑問がわく

コロナ対策で政治と国民の間に深い溝が刻まれたように、少なくとも政策転換に際し国民の納得感を高める説明ができなければ、混乱の原因になるだけだ。無謀な戦争に突き進んだ先の「戦前」は、政治の混迷が深まった時代であった。

 

 高槻市議会議員・高木りゅうた氏の選挙公約と漫画を紹介。

「公共」の責任、地元の食・農、子どもの権利、福祉、脱原発、平和憲法維持などを公約に掲げる市民派。防衛費増額や自衛隊の違法性の高い隊員募集などを批判した自作の漫画も公表している。

  ウトロ平和祈念館を知るための通信「UTOROLetter

ウトロ平和祈念館の紹介とウトロ地区ヘイトクライム裁判京都地裁シンポなどの記事を掲載。

 

各新聞記事などの紹介に対して、いくつか意見や感想なども出されましたが、記録不十分なため割愛します。どの記事・講演内容も、今の社会の危急の問題を扱っているものばかりで、考えさせらる内容に富んだものでした。次回は、3月25日に開催します。