ハンナ講座 やさしい社会問題 

第30回(2022年10月22日)まとめ

「格差の問題から今の社会や人間のあり方について考える」

ウイズコロナの風潮が広がる中、マスクや換気などの感染防止策を継続しつつ、講座を開催しました。今回も、新聞記事や本の紹介などを中心に交流をしました。

 

●Sさん

「死刑について 宇野啓一郎著 岩波書店」の書評の新聞記事を紹介。

日本はOECD加盟国の中で唯一死刑を執行している国である。日本で死刑が支持されている理由を著者は、他者への共感を重視する感情教育に求める。社会制度の設計を共感という感情に委ねてしまうことには危険がある。共感できない相手に対しては差別も暴力も歯止めがなくなる。それは個人の生よりも全体の利益を優先する全体主義の発想につながる。共感できないもの、共感が見えなくしてしまうもののためにこそ、誰にも冒すことのできないものとしての人権が意味を持つ。それは憎しみで連帯する社会ではなく、優しさと知恵によって困難を乗り越える社会を目指すということである。様々な分断が進む現代社会において、加害者と被害者という究極の分断を超えて、他者とどうやったら共に生きることができるかを考えることは私たちの喫緊の課題である。

 

このあと、死刑制度について、少し意見交換をしました。いろいろな意見が出ましたが、死刑制度が、国家や政治の在り方にも関わる日本社会の大きな課題であるという意見が多く出されました。

・人の命は等価であり、人の命を奪えば自分の命で償うしかないという思いもあるが、犯罪をした人には厳しい生い立ちや背景があり、犯罪が起こる環境を是正していくことが大事だと思う。

・秋葉原事件などの死刑囚は動機や事件の背景などが十分解明されないまま死刑が執行されており、社会的に抹殺して終わりという感じで、犯罪事件の根本的な解決にはならないと思う。

・重大な事件ほどさっと死刑にして終わりにしようとする。加害者を社会的に抹殺しようという政治的意図を感じる。死刑は犯罪の抑制にはならないことは、世界的に研究によって明らかになっているのに、死刑制度を維持することは恣意的・強権的な政治を容認することであり、社会の弱さであり、全体主義にも通じると思う。

・日本は犯罪被害者へのフォローが少なく、それが加害者への心情にも影響している。また、えん罪事件なども多く、誤って死刑執行された例もある。死刑や裁判のあり方、被害者救済などで、日本は遅れていると思う。

・死刑などの厳罰化によって犯罪は減らないと思う。国家が個人から命や能力を奪い取るという制度はおかしい。今、死刑確定からの死刑執行の期間が早くなっているが、国が加害者を早く社会的に抹殺しようとしているように思う。

 

●Sさん

「まつりごとに酔ったツケ〜安倍氏の政治と経済運営」という新聞記事を紹介。

安倍氏の政治は「誰かをみこしに担いで皆で祭り上げる」という「まつりごとの政治」であった。皆を祭

り上げに巻き込んで異論を封じる政治手法ほど権力側にとって有効なものはない。そして、祭り上げる側

は、祭り上げることに陶酔し、祭り上げたみこしがどっちの方向に向かうかにはあまり関心がない。

しかし、経済運営をまつりごとでやってしまった結果、GDPは大きく落ち込み、円安やインフレが加速

し国民生活はひっ迫しているのに、祭りに酔っていた者はその自覚に乏しい。経済運営にまつりごとを持

ち込むのはこれで最後にしてほしい。

 

●Uさん

朝日地球会議2022「つながる世界 危機が危機を呼ぶ マルクス・ガブリエル」「新秩序へ インド

というおもり エマニュエル・トッド」の二つのインタビュー記事を紹介。

ガブリエル氏は、現在、民主主義・気候・資本主義・西洋・自由主義・教育・家族などが危機に瀕して

いると言い、それを入子型の危機と呼ぶ。危機の中に別の危機が埋め込まれ、それらが輪のように連な

っている。氏はこの危機を脱するために人類を結ぶ普遍的な道徳的価値を見いだすプロジェクトを始め

ており、資本主義と倫理を両立させ、危機を脱する「倫理資本主義」という価値観を模索している。

トッド氏は、現在、世界に、リベラル寡頭制や強いリーダーを信奉するポピュリズムが広がり、民主主

義は縮小し、米中含めてすべての国が力を落とし、世界秩序は混乱している。そういう中で振興・途上

国が重要な役割を果たす存在となってきている。とりわけインドの存在は大きい。欧米と中ロの対立の

バランスをとる新興国という「おもり」が存在することで、世界の新秩序が作られるかもしれない。

 

●SIさん

4つの新聞記事を紹介。

 「人口革命」の著者・平野克己さんの記事。

今世紀中に世界の人口の半分がアフリカ人になる。アフリカは農業の生産様式や一夫多妻制などによって人口増加が止まらず、増えた人口は移民として世界中に広がる。その結果、私たちとは全く異なる価値観が国際社会で大きな影響を持つようになるかもしれない。

 朝日新聞論説主幹代理・沢村互さんの「場を共に 暴力にあらがう」の記事。

世界中で民主主義への不信感が広がり、政治的権威や暴力を肯定する風潮も広がる。政治的暴力に抗するためには、「場」を共にすることが大切だ。在日コリアンが暮らす宇治市のウトロ地区の平和祈念館の入り口には「ウトロで出会う」と書かれている。オープンな場での出会いが対立や暴力をなくしていく第一歩ではないかと祈念館の館長は言う。

 「小さな声 社会で大切に〜多様性認め支え合う」山梨学院大学・藤原快瑤さんの記事。

「大半の人が車椅子を使う国で、立って歩く人がどんな困難に直面するか」という、立場を変える逆転の発想で、誰もが生きやすい社会について考える。多数の人が持つ自覚してない特権について考え、少数者の意見や小さな声の中に社会を変える力がある。また、少数者が社会の中で生きにくいという問題が個人にあると考えるのではなく、生きにくい仕組みや社会を変える視点を持つことが大切だと藤原さんは言う。

 オウム真理教のドキュメンタリー「A」で知られる映画監督の森達也さんが長編小説「千代田区一番一号のラビリンス」を刊行したという記事。

退位前の上皇夫妻を主人公にその素顔を描く冒険ファンタジー。「明仁さん、美智子さんへのラブレターです」と森さんは言う。戦後、国民に替わって戦争の罪を背負おうとした上皇夫妻の姿を、古来、人の穢れや罪を引き受け浄めてくれる身代わりの人形(ひとがた)「カタシロ」に重ね、戦後の浄化に苦しんだ二人の姿を描く。ただ、天皇制がはらむ危険性は厳しく指摘する。天皇は政治的な意思が示せず、施政者に利用される危険性や、個人の幸福より集団の秩序を優先する日本の社会意識の象徴である天皇制の構造も戦前と変わっていないと言う。

 

●Fさん

「くらしのアナキズム」を読んだ感想。

「国家」とは何かということに以前から関心があったが、この本を読んで、より関心が高まった。

国家は国民のために作られたわけではなく、国民から富を収奪するために作られた。国家が国民を守ってくれるわけではない。国家がなくても生活はしていける。未開といわれる民は国家に頼らない生活をしてきた。国家を拒否して生活してきたともいえる。

他にも、この本では、「市場の交易と資本主義は違う」「贈与によってリーダーはその地位を維持し、社会の安定が保たれている」など、多くの示唆に富む内容があった。

 

●Sさん

「くらしのアナキズム」は私も読んだが、「嫌なことには不真面目になろう」という言葉が印象に残っている。

 

●Mさん

「ロシアを読み解く 廣岡正久著 講談社現代新書 1995年」という本を紹介。

ロシアによる理不尽なウクライナ侵略が、民衆の悲惨な状況の中で長期化している現在、ロシアという国の歴史的・精神的な背景を読み解こうとする一冊として、以前に読んだ本だが、改めて読み直してみた。出版時期はソ連崩壊直後と古いが、歴史・政治・文化・宗教など多方面からロシアを分析していて、「大ロシア主義」「スラブ民族主義」など、ウクライナ侵略の背景思想も含めて、ロシアを理解するための一冊だと思う。「スラブ人とロシア人」「国家と権力」「民族と民族意識」「ロシア地政学とユーラシア国家」などの章がとりわけ興味深い。

 

 

今回も、これからの社会のあり方に関わる資料の紹介が多かったと思います。死刑制度については、国民の間で意見の分かれている問題でもあり、少し意見交換しましたが、今後とも考えていければと思います。

次回は11月26日(土)の予定です。