ハンナ講座 やさしい社会問題 

第28回(2022年6月25日)まとめ

「格差の問題から今の社会や人間のあり方について考える」

コロナ感染は少し落ち着く気配を見せていますが、夏の猛暑が早くもやってきて、エアコンと扇風機をつけての講座となりました。前回同様、新聞・雑誌の記事や本の紹介をして意見交流しました。

 

●Fさん

ムーレックさんから紹介があった「23才で戦死した天性の詩人竹内浩三の世界を謡い続ける五月女ナオミ歌を届ける旅in京都(7月10日PM2時中京区エルスタジオ)」というコンサートの案内。ムーレックでの竹内浩三の紹介展示(7月1日〜9日)と「語りと詩の朗読で綴る竹内浩三の世界(7月9日)」も。

 

●Hさん

京都宇治市ウトロに「ウトロ平和祈念館」がオープンした。立ち退き問題や差別に直面した歴史を振り返り、共生の未来へ発信する役割を目指している。未来への希望を感じさせる展示内容になっていると思う。
また、昨夏にウトロで起きた放火事件の現場に野菜畑を作った在日2世の女性がいる。「殺伐とした焼け跡を見るたびに嫌な思い出と憤りがよみがえる。心が和む緑を植えて、いい思い出に変えたい」と女性は語る。憎しみではなく、畑の作物を振る舞い一緒に食べて話すことで、愛が育まれると信じている。

私は、ムーレックさんとの出会いで、自分が知らないことをたくさん教えてもらった。戦争や差別のことも学校であまり習った記憶がなく、こわいというイメージが強かったが、これからもっといろいろと知っていきたいと思う。

●SIさん

戦争や差別をこわいという思いはわかるが、やはり正しく知ることが大事だと思う。最近、「わたしのはなし部落のはなし」という映画を見た。差別と直面してきた人々へのインタビューを中心としているが、自然体の語りのなかに、これからの社会や人間への希望を見出せる内容だと思う。 

●Uさん

参議院議員選挙が近づいてきて、選挙制度のことに改めて関心を持ったので、いくつかの新聞記事をコピーしてきた。今の選挙制度は本当に民主主義を体現しているのか考える必要があると思った。ベルギーでは、義務投票制を取り入れ、政治参加を義務化することで市民への政治教育の役割を果たしている。だれもが投票に行くことで社会的な少数者の意見を政治に反映させる効果もある。

一方、政治への信頼度が低い日本では義務制で投票率を上げることには課題が多いという意見もある。強制ではなく、自覚的に政治を分析し判断する能動的な市民を増やしていいくことが大切だという。投票義務化が自由な意思の行使としての選挙参加をどれほど促進することになるのか、慎重に検討すべきだという識者もいる。

また、くじ引きで議員を選ぶ制度を導入したうえで、参議院を「市民院」に改組しようという意見もある。無作為に選ばれた多様な市民のほうが今の政治家より各分野での専門性が高く、女性議員も増えて多様性のある議会がつくられ、市民の意見が反映されやすくなるという。

選挙制度を根幹とする民主主義は、低投票率などの問題により危機に陥り、世界の多くの国では権威主義が台頭してきているという現実もある。しかし、民主主義の良さは目に見えずわかりにくいが、データの上からは民主主義のほうが権威主義よりも国民の利益が大きいという結果が出ている。何より、民主主義には批判や意見を自由に言える本質的な価値があり、民主主義が守られるべき大きな理由となっている。

民主主義と選挙制度のことについて今後ともいろいろと考えていければと思う。

このあと、投票義務制やくじ引きでの議員選び、選挙制度や民主主義のあり方、今回の選挙の動向などについて、色々と意見が出されました。(内容については、正確な記録がとれなかったので、割愛します)

●SEさん

京都大学人文科学研究所の藤原辰史さんの「ビジネスチャンスとしてのウクライナ侵攻」という記事を紹介。これまでの近代以降の戦争がそうであったように、ウクライナ侵攻が蜜の滴るような投資先になっている。正義の味方ゼレンスキーが悪のプーチンを倒すという物語ができたため、大手を振って軍拡に投資できるようになった。世界でも日本でも、軍需産業の利益が増え、防衛戦争肯定の世論が大手をふって支持者を増やしている。そもそも、西側と言われる欧米諸国や日本は発展途上の国々から資源を絞りとり、奴隷のような労働を現地の人々に強要して利益を得ている。そして今、西側諸国は、ロシア(東側)悪という敵を仮定し、自らを正義とすることで、構造的な暴力に目を向けさせず、荒稼ぎをしている。今回のロシアのウクライナ侵攻は末代まで残る蛮行だが、そのような蛮行に便乗して進められる「西側」の荒稼ぎもまた後世を生きる若者たちに顔向けできない私たちの卑しさの象徴である。

 Mさん

「同志少女よ敵を撃て(逢坂冬馬著 早川書房)」という本を紹介。前回紹介した「戦争は女の顔をしていない(S・アレクシエーヴィチ)」などの、第二次世界大戦の独ソ戦での旧ソ連女性兵士についての文献を参考に書き下ろした小説で、苛酷な戦争に否応なく参加せざるをえなかった女性たちの思いや葛藤、悲惨な戦場の様子などを丁寧に描いている。終盤、主人公の女性狙撃兵にとって「敵」とは、ドイツ兵のことだけでなく、ドイツの民間女性を暴行するソ連兵のことでもあることが明らかにされる。苛酷な戦争の中でも、敵と味方とは何か、人としての本来のありよう、博愛的な精神のあり方などを問い、戦争と平和について深く考えさせられる秀作である。

あと、戦争と平和に関連して、「戦場で見出した博愛主義:トルストイ・戦争と平和」の記事、「ウクライナ政府の、昭和天皇とヒトラーを並べた動画についての3人の識者の意見:日本の抗議理解できるが(橋詰大三郎)不快な現実直視できたか(高橋哲哉)歴史修正誤解与えかねず(K・グラック)」の記事を紹介。

今回、差別の問題や戦争と平和について、新聞記事などをもとに、活発な意見交流ができたことは良かったと思います。正しい事実を知ることの大切さも全員で共有できたかと思います。ロシアによるウクライナ侵攻についても、許せない蛮行ではあるが、一面的な知識だけでなく、事実に基づく多面的な見方も必要との意見を共有できたと思います。

次回は、7月23日(土)です。