ハンナ講座 やさしい社会問題 

第26回(2022年3月26日)まとめ

「格差の問題から今の社会や人間のあり方について考える」

新型コロナウイルスの第6次感染拡大で、昨年12月以来、約3か月ぶりの開催となりました。これまで同様、マスクや換気などの感染対策をして行いました。新聞・雑誌の記事や本の紹介をして意見交流しました。

 

●Nさん

新聞記事①と雑誌のインタビュー記事②を紹介。

①匿名のツイッターアカウント「Dappi」の投稿で名誉を傷つけられたとして立憲民主党の参議院議員2人が起こした損害賠償請求訴訟。被告の「ワンズクエスト」側は、投稿者が同社従業員だと認めたものの、投稿は従業員が私的に投稿したものので会社は被害者だと主張。しかし、メディア専門家は個人での投稿は物理的に無理で、会社の関与は否定できないと言う。

②霊長類学者でゴリラ研究の第一人者である山極壽一さん(総合地球環境学研究所所長で前京都大学総長)へのインタビュー記事。ゴリラとの比較で人間社会の由来や問題点についても研究し、様々なメディアで発信されている。今回、「人間の子どもだけが親以外の他者からも教えられて育つ」「学校は公共財でありコモンズ」「言葉は考える道具であり、コミュニケーションとしては不完全」「コロナを制圧するのではなく、共に生きる視点が大切」「これからの時代は、お金中心の社会からコモンズとシェアの時代」など、コロナと共生する時代に一層大切になる「共助」「人と人とのコミュニケーション」「学校の役割」について多くの示唆に富むお話を聞くことができた。

●Fさん

言葉でなく、具体的な行動やスキンシップが大事だと思う。言葉かけだけでなく抱きしめてあげることが大事だと思う。

●Sさん

山極さんは好きな学者さんの一人。ゴリラと比較して、人間は、他を思いやる気持ちが強いというのが、人間に対して希望が持てるし、印象に残った。

●Uさん

「佐藤優が読み解くプーチンの戦争」と題する雑誌記事を紹介。

ロシアによるウクライナ侵攻が続いており、マスコミは連日ロシア批判とウクライナの厳しい現状を伝えている。もちろん、ロシアによる侵攻は国際法違反であり許されるものではないが、しかし、ウクライナ側の情報や論理しか伝えられてない現状は危険だ。双方向的な情報と正しいロシア観を持つことが大切だ。ソ連が崩壊し、ウクライナなどが独立したあと、ロシア人の心の中には大きなロシア帝国を復活したいという感情があり、プーチンはロシア国民の望むことをやっているにすぎないという見方がある。

また、ウクライナ国内の、政府と新ロシア派勢力との内紛をウクライナの主権のもとで解決するためのミンスク合意をゼレンスキー大統領が守らなかったのがロシア侵攻の原因だとする見方もある。ロシアは国境を線でなく面で考え、国境線の外側にNATOに対する緩衝地帯を求めており、ウクライナが緩衝地帯でなくなることは絶対に避けたいという思いがある。このように、ロシアにはロシアの論理があり、それが欧米の論理と対立することで、他国への侵攻や戦争が現実的になってきた。戦争を避けるためには、相手の論理を含めて相手を知ることが大切だ。

●Uさん

歴史は繰り返すというが、昔、大きな戦争があって、また同じような戦争の景色を見ている。愚かなことだと思うが、なぜ戦争を繰り返してしまうのか?自分に不利益なことも少しはがまんしていく必要があると思うができない。戦争はダメだとわかっているのにできない。むなしいなと思う。領土問題とか、ロシアがなぜ戦争をはじめたのかも含めて、お互い相手の立場にたって考える必要があると思う。

●SIさん

ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、北方領土や中国・北朝鮮も念頭においてと思うが、軍備増強とか、防衛力強化とかが話題になっている。軍備増強だと、戦争をしているロシアと同じ次元になってしまう。

戦争を終わらせ平和をめざすために、国際的に日本の役割というものがあると思う。

●Hさん

「コーヒー店、妻夫の願い」の新聞記事を紹介。京都府大山崎町の「大山崎COFFEE ROASTERS」の中村まゆみさんと中村佳太さんは雑誌などで名前を掲載する時は「中村まゆみ・中村佳太」の順でお願いしている。従来の「夫が主で、妻が従」というステレオタイプにあらがい、身の回りからジェンダーギャップを減らそうとしている。男性がメインだという構造を助長したくない。自分が差別をしないだけでなく差別に反対しないといけないと二人は話す。

●Hさん

私がハンナに来るきっかけになったのが、ムーレックさんとの関わりとこの大山崎コーヒーさんとの関わりだった。中村さんがこの取り組みを始めた時、コーヒー屋は政治的なことなど言わずコーヒーだけつくってたらいいんやと批判されたと聞いた。でも、そうした批判にも負けず、このジェンダーの取り組みをしておられるのはすごいなと思う。

●Fさん

中村さんの妻夫の順はそれほど気にしていなかった。まゆみさんがこのように思っているとは考えてなかった。

●Uさん

ジェンダーの問題だけど、冬季オリンピックなどで、美人選手とか、女性の容姿について言いすぎだと思う。

●SEさん

加藤陽子の近代史の扉「武力をたのむ国は自滅する」の記事を紹介。

今のロシアのウクライナ侵攻は、1930年代の日本の満州侵略と重なる。相手に対する軽視や慢心からの認識不足に起因した短期決戦の失敗は共通する。中国・胡適の長期戦構想によって、日本は泥沼の長期戦を強いられ、米英との戦争に突入して自滅していく。ロシアも同じ道を歩み、自滅していくだろう。

●SIさん

5つの新聞記事を紹介。

①「アイヌ民族の心 芸術に」

詩人・古布絵作家の宇梶静江さんは北海道浦河町の貧しい家で育ち、家の手伝いに学校には行けなかった。20才で中学校に入り、東京で働きながら定時制高校に通い、結婚したあと、詩作を始めた。子ども時代の差別体験をもとに、同胞に呼びかけ東京ウタリ会を設立したがうまくいかず、布を使った絵の展示会を見たのをきっかけに独自の「古布絵」を描き始めた。個展を開き、アイヌ神話を描いた絵本も刊行、芸術によるアイヌの復権を目指している。

②元外務事務次官の藪中三十二さんの「外交不在の世界」という記事を紹介。ロシアのウクライナ侵攻にあたって、米国などはウクライナのNATO加入を棚上げにするなど、外交の力で軍事侵攻を思いとどまらせることはできなかったのか、外交の力とは何かを考えさせられる。

③財政再建より積極財政で経済再生を優先させるべきで、国債は借金ではなく、償還不能になることはなく財政破綻はしないという持論を述べる自民党財政政策検討本部の西田本部長の記事を紹介。

④鷲田清一の折々のことば「ヒューマニズムは自分と関係のない場合にだけ熱く語られる」

⑤「ロシアによるウクライナ侵攻どう考える」の二つの新聞記事を紹介。

竜谷大教授廣瀬純さん「戦争によって被害にあうのはいつも住民。住民どうしが、西と東どちらにも与せず、対立を超えて戦争国家に抗う国際連帯を求めていくことが大切」

歴史家山室信一さん「今回のロシアによるウクライナ侵攻は過去の日本の満州事変と論理や行動が二重写しになる。過去には国家によって情報が統制されていたが、今はSNSによって個人が情報を掴み、戦争に抵抗できることが可能になっている。今の世界は一部の指導者によって核戦争の危険にさらされている。核戦争を止めるには、一人ひとりが声をあげ力を結集していくことが大切」

●SIさん

Uさんの紹介された佐藤優さんの記事や廣瀬さんの記事で思ったが、ロシアの侵攻はもちろん悪いが、でも、ゼレンスキーさんの演説がすべて正しいとかウクライナがすべて善だという考え方はやはりおかしいと思う。一方的な偏った知識や情報でなく、正しい情報を知り、考えていくことが大事だと思う。

●Mさん

新聞記事を紹介。

ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を生き延びた男性が自らの体験を語るドキュメンタリー映画「ユダヤ人の私」が公開された。20世紀最大の人道犯罪を加害と被害の両面から問いかける。

●Mさん

映画は視覚に訴える点で強烈だが、書籍ではフランクル「夜と霧」、レーヴィー「溺れるものと救われるもの」、シリュルニク「憎むのでもなく、許すのでもなく」などがホロコーストの記録として印象的。

現代でも、このホロコーストの問題は存在し続けている。問題は、この人道犯罪が、理性や民主主義が発達したドイツ(ヨーロッパ)で起きたということであり、そのことを問い続けた、私が関心を持つ哲学者・思想家が3人いる。アドルノ、アレント、レヴィナスだ。共通するのは、西洋文明そのものの中に、暴力的人道犯罪を生み出す土壌が存在しており、それは全体性・同一性の思考だという点。その克服へ、アドルノは「非同一性」を、アレントは「新たな公共性」を、レヴィナスは「全体性に包摂されない無限(他者)」を提示している。

●Mさん

3冊の本とそれを紹介した新聞記事を紹介。

①シェル・シルヴァスタイン 絵本「おおきな木」

一人の少年に与え続けて最後は切株となってしまうりんごの木の話。今、他者の幸福や利益に目配りする「贈与」や「利他」に関心が高まる中、1964年に出版された本書が改めて注目されている。与える喜びや自他のつながりの喜びの一方で、エゴや自己陶酔、せつなさ、寂しさ、ほろ苦さなどもにじませ、利他について深く考えさせられる一冊。

②田中世紀「やさしくない国ニッポンの政治経済学〜日本人は困っている人を助けないのか」(講談社)

日本は、人を助けたり慈善活動に寄付したりボランティア活動をしたりする人が少なく、114か国中で最下位。助け合うより個人主義の傾向が強くなっている。この背景には、自助や自己責任、人に迷惑かけたくないという意識があると思われる。人と人との距離を縮め、他人と社会参加をする場を増やすことが、他人を助けない国を脱する一つの方策かもしれない。

③松村圭一郎「くらしのアナキズム」(ミシマ社)

国家とはなんのためにあるのか?ほんとうに必要なのか?エチオピアの農村などでの経験をもとに、自分たちのことは自分たちで解決していく社会、国家なき社会のありようについて、くらし・生活者の視点から考える一冊。「多数決によらない究極のコミュニケーションに基づく民主主義」「ささいな日常のコミュニケーションに政治と経済がある」など、今の国と社会、私たちの生き方について考えさせられるヒントが多くある。

●Fさん

先日、以前にここで講演をして下さった藤田さんから「ムクウエゲ」という映画のことを教えてもらった。

「コンゴでは鉱物資源(レアメタル)を得るために多くの女性が性暴力を受けており、ムクウェゲさんはその治療にあたっている。そのドキュメンタリー映画の最後に利他という言葉が紹介されていた」

とのお話を聞いてムクウェゲさんのことはNHK番組「こころの時代」にも紹介されていた事を思い出した。。また、音楽プロデューサー小林武史さんが年末のNHK番組で、「ap bank」(創立者、小林武史さん、桜井和寿さん、坂本龍一さん)の活動や東京工業大学の伊藤亜紗さんとの対談で「利他」について語られていた事を思い出した。

今回、藤田さんのお話をきっかけに「利他」について調べていくと、東京工業大学では「利他プロジェクト」を立ち上げ研究していることがわかった。これから「利他」について注目していきたいと思っている。

 

今回は、ロシアのウクライナ侵攻のことが大きなテーマとなりましたが、利他と他者との共生など、これからの社会を考える上での大きな問題も話題となりました。今後とも、考えていきたいと思います。