ハンナ講座 やさしい社会問題 

第24回(2021年11月27日)まとめ

「格差の問題から今の社会や人間のあり方について考える」

コロナ感染者はかなり減ってきていますが、これまで同様、マスクや換気などの感染対策をして行いました。今回は、NさんとMさんが新聞記事の紹介、UさんとMさんが書籍の紹介をし、それに関連した交流を行いました。

 

●Nさん

 いくつかの新聞記事を紹介。

<自民党と関連のある企業がウソ情報で野党攻撃のツイート>

政権を批判する野党やメディアを、ウソ情報で攻撃する投稿をしていたツイッターの匿名アカウント「Dappi」の運営に、個人でなく自民党と取引のある企業が関与していたという記事。この企業の社長は自民党本部の事務総長の親戚を名乗り、自民党本部や自民党都連に出入りし、都連のウエッブページ制作を行っていたとのこと。しかし、自民党も当該企業もこれについての質問に回答はない。これが事実なら、政権政党が企業に世論操作をさせていたということで、民主主義をゆるがす大きな問題だと弁護士は指摘する。

<「富岳」飛沫拡散を“見える”化>

新型コロナウイルス感染症の流行下、飛沫の感染シミュレーションの映像を公開してきた理化学研究所のスーパーコンピューター「富岳」による研究がスパコン最高峰賞を受賞した。さまざまな物理現象が複雑にからみあう現象をシミュレーションするためのソフトウエアを富岳で使えるよう調整作業を進めていた研究グループは、自動車エンジンの熱流動予測技術を応用して飛沫解析を行い、マスクの効果、会話時の飛沫の動き、電車や室内環境での飛沫などの飛散状況を再現するシミュレーション効果を公開した。

<気候変動の中、穀物収量が悪化>

地球温暖化に伴う豪雨や干ばつなどの気候変動が、世界の穀物収量に及ぼす影響について、国立環境研究所と農業・食品産業技術総合研究機構などの国際研究チームが最新の研究予測を発表した。それによれば、気温上昇などによる穀物収量の減少は想定より早く顕在化するということで、研究チームは今後、気候変動により予測される影響をどの程度まで軽減できるのか、開発途上国の増収技術の普及や種まき時期の移動などの対策効果の評価を進めていくとしている。

 

●Nさん

紹介した新聞記事の、企業と政権政党との癒着や世論操作、愛知県の大村知事リコール署名での不正に高須クリニックの院長が何でもないことだと発言したこと、森友問題での公文書改ざん事件や日大理事長の背任事件など、多くの権力の不正の問題を、マスコミは、(権力側に配慮してか)深く取りさげてないように思う。最近のいろいろな報道を見るにつけ、権力側に不利なことを隠すことが常態化しているように思い、民主主義の危機だと感じる。

●Uさん

Nさんの言うとおり、隠されていることばかりが多く、今回の衆議院選挙に行ったが、選挙ですら、何か裏で操作がされているのが隠されているのでないかという疑念を持つ。

●Nさん

今回のコロナ禍でも、飲食店や非正規の人などで年収100万以下しかない人で支援を受けられてない人がいると聞いた。莫大な費用で宇宙に行くとかいう人がいる一方で、生活困難な人が増えている。多くの人が食糧無償配布の列に並んだりして、食料さえままならない人がいるのに、オリンピックでは大量の食糧廃棄をしたとか聞くと、本当に理不尽だと感じる。生活困難な人を、政府が先頭にたって支援する社会にしていかなければと思うが、、、。

 

●Uさん

「時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか?国会議員に聞いてみた」(和田静香 著 左右社 2021年)を紹介。

和田静香さんは、相撲や音楽の分野を中心に評論などを書くフリーライター。生計のため、本業と並行して様々なバイトを経験してきた。そうした生活の中で、今の政治・経済・社会への関心や疑念が生じ、衆議院議員の小川淳也さんに質問・インタビューをして書いたのが本書。小川さんは、立憲民主党所属の5期目の衆議院議員で、ドキュメンタリー映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」(2020年大島新監督)に出演したり、今回の立憲民主党代表選挙にも立候補した、有志の人である。

本書に、以前、この講座で学習したベーシックインカムに関するところがあったので、その部分のコピーを参加者に配布して読む。以下、ポイントとなる箇所の要約。

(小川)

2020年度は、コロナ対策として国債100兆円を発行し、雇用調整助成金、持続化給付金、定額給付金などに使われた。100兆円は全国民に一人7万円を1年間支給できる金額で、そういう政策を取ろうと思えば取れた。今後、経済成長や雇用拡大が見込めない中、生活保障を担保することを理念としていきたい。今回の定額給付金によって、将来的なベーシックインカムへの道筋が少し見えた気がする。ベーシックインカムは社会保障を充実させたい人たちと行政コストを効率化したい人たちが共通して追い求めるパラドキシカルな政策だ。効率化したい人たちは、ベーシックインカムをやれば社会福祉を切り、年金も不要だというところに起点を置く。僕は、逆サイドで、経済成長と雇用拡大、賃金上昇に頼れない時代に入るから、生計保障、再分配を政府が担うべきだという福祉の向上の観点。給付は普遍的にして課税で公平さを回復する。ベーシックインカムは、経済成長に頼れない社会に、持続可能性を回復させる、土台を固めるための政策。

(和田)

コロナの時代はまだまだ続くかもしれず、すでに既存の社会保障は危機的状況だ。私たちは、苦しい中で助け合って生きていかなければならない。全員に最低限の生計が保障されたら、みんなが生きていける。私は基本的にはベーシックインカムに賛成だ。しかし、全員一律給付だと、世帯間で差が出る。以前のような多人数世帯は減り、私のような単身家庭(ソロ世帯)は20年後には全体の4割を占めるとも言われている。社会の安心感の底支えと平等の観点から単身者(ソロ世帯)への上乗せが欲しい。福祉は、家族単位ではなく個人単位で考える「脱家族化」という観点が大事だと思う。

(小川)

最初から7万円給付とせず、そこは目標とする。丁寧に理解と納得を大事にしながら、公平さと制度の持続可能性を旨とした改革を進めていきたい。

 

●Uさん

私も定額給付の10万円をもらったが、この10万円は他に使い道があったのではないか、もっと本当に困っている人に回すべきだったのではと思う。税金は、社会の中で困難な状況にある人への支援や本当に社会の役に立つことに使ってほしい。今の政府のやり方はそうではないようで、あまり信頼できない。

小川淳也さんは、この本や映画での印象では、対話を大事にする優しい人柄の人だと感じる。今回の代表選では勝てないかもしれないが、今後も、自分の信念をまげない活動をしていく人だと思う。

あと、この本のコラムで、「国民」という言葉は、「日本国籍を持つ人」という意味で、それ以外の日本に住む人を排除するということになるので、使わないほうがいいという趣旨のことが書いてあった。私も、「国民」ではなく、「日本社会に生きる人々」という言葉を使う方がいいと思う。

 

●Mさん

「カール・ポランニーの経済学入門〜ポスト新自由主義の思想」(若森みどり著 平凡社新書 2015年)を紹介。「目次」と「はじめに」の部分のコピーを参加者に配布して読む。

カール・ポランニーは、1886年、ハンガリーのユダヤ人家庭に生まれ、オーストリア、イギリス、アメリカなどで活躍した社会経済学者で、功利的な市場自由主義を批判し、人間を真の自由に導く「倫理的社会民主主義」を提唱した。以下、目次と「はじめに」の要約。

<目次>

第1章 カール・ポランニーの生涯と思想 第2章 市場社会の起源〜産業革命と自己調整的市場経済というユートピアの誕生 第3章 市場ユートピアという幻想〜経済的自由主義の欲望と社会の自己防衛 第4章 劣化する新自由主義〜繰り返される市場社会の危機、無力化される民主主義

第5章 市場社会を超えて、人間の経済へ 終章 人間の自由を求めて〜ポスト新自由主義のビジョン

<「はじめに」の要約>  

「今日の拡大する世界経済危機の中で、カール・ポランニーへの世界的な関心が復活している。2008年のリーマン・ショック以降のポランニーに対する関心の高さは、市場の不安定化と経済危機を生み出した市場原理主義的な経済社会改革を後押しした政策批判、および普通の人びとの暮らしや雇用への破壊的な影響を市場の安定性のやむなき犠牲として容認する市場原理主義への深い懐疑から生じているように思われる。ケインズ経済学を「赤字財政の経済学」と揶揄し、福祉国家の再分配政策を批判するところからその活力を存分に引き出してきた新自由主義。この新自由主義への対抗軸となりうる重要な思想的源泉の一つとして、ポランニーの意義がいま再評価されているのである。

ポランニーは問うた。経済的自由主義者の市場ユートピアの企画に従って社会をよりいっそう市場経済に従属させることで危機を乗り切るのか、それとも、市場経済を社会に埋め込み、普通の人々の生活の安定や回復を保障する諸制度の構想と実践をめざす方向に歩み出すべきなのか。主著「大転換」によれば、これは、繰り返される市場社会の危機のなかで、ファシズムや全体主義の出現を許した20世紀が直面した大きな難問なのである。2008年秋以降の世界金融危機を経験してもなお、市場ユートピアが支配する新自由主義時代を生きる現代人にとって、70年も前に書かれたポランニーの著作がなおもアクチュアリティを持っているのは、彼が経済的自由主義という考え方を徹底的に分析し、その起源を歴史的に明らかにしたことにあるだろう。

ポランニーの社会主義、あるいは良き産業社会は、自己調整的市場を民主政治に従属させる努力、および、複雑な社会を、「諸個人の人間的関係」すなわち、責任と義務への自由を担う諸個人からなる互酬的非契約的関係として構築された組織に変革しようとする努力を不可避とするものである。」

 

ポランニーの思想は、現在、新自由主義による格差が世界的に拡大している中で、格差縮小と経済的平等を実現するための一つの解決策を提示しており、今後、格差について考える上で大きな示唆を与えてくれるものと思う。

 

●Mさん

いくつかの新聞記事を紹介

<科学者の総意を直視し 前へ>

地球温暖化は、何万人もの気候科学の研究者による判断の総意だ。しかい、こうした総意の存在によって経済的な不利益を被る国、企業、人は、温暖化には科学者の間で論争があるという言説を広めている。

こうした動向に警鐘を鳴らし、地球温暖化の問題を真摯に考えさせる3つの本が紹介されている。

「シミュレート・ジ・アース 未来を予測する地球科学」(河宮未知生著 ベレ出版)「世界を騙しつづける科学者たち」(ナオミ・オレスケス、エリック・コンウェイ著 楽工社)「これがすべてを変える〜資本主義VS気候変動」(ナオミ・クライン著 岩波書店)

 

<脳はモザイク「女性的」も「男性的」も>

2021年前期の東京大学入試問題から「ヒトの性差を考える」。今回取り上げた問題は、男性脳・女性脳という分け方は非科学的で正しくなく、性は二者択一ではないというメッセージを発している。脳は性差ではなく個人差のほうが大きく、ひとりひとりに異なるパターンがあり多様である。また、社会的な行動が脳の機能の差に影響を及ぼしている可能性もある。多様な性のヒトが参加するモザイクな集団をつくることが、息苦しくない世界を作る方法ではないだろうか。

<融和と信頼 大リーグでも地域でも>

大谷翔平選手が所属する米大リーグエンゼルスのジョー・マドン監督は、出身地のペンシルベニア州ヘイズルトンで、友人とともに、移民の子どもたちを支援する「コミュニティ・センター」を運営している。幼稚園や学童保育、サマーキャンプのほか、大人向けの英語教室なども開いている。マドンさんにとって、異なる国や文化の人たちと共に生きることはプロ野球で長年実践してきたことだ。様々な国出身の選手を一つのチームとしてまとめる秘訣を、マドンさんは「関係を築くことだ」と言う。「互いのことを知る。それが第一だ。相手のことを知れば、互いを信頼するようになる。そうすれば、相手は私の話を聞いてくれるし、相手も私に考えを話してくれる」

<スカートが女性ものって、誰が決めた? 「すべての人にかっこいい」選択肢に>

兵庫教育大の准教授小川修史さんは、半年ほど前生まれて初めてスカートをはいた。小川さんは「スカートをはきたい人ははいていいい。はきたくない人ははかなくていい。私のテーマは、世の中に選択肢を増やす事。意味のない制約がなくなれば面白いと思う」

服装やファッションの世界にもボーダーレス、ジェンダーフリーがスタンダードになりつつある?

<気候変動と若者>

気候危機対策を求める若者の運動「フライデーズ・フォー・フューチャー(FFF)」のメンバーとして、英国で開かれたCOP26(国連気候変動枠組み条約締約国会議)に参加した高校2年生の原有穂さんは、グラスゴーで気候マーチに参加して衝撃を受けた。

「日本では、世代間の格差や石炭、再エネが話題になりがちですが、気候変動には、人種、ジェンダー、人権、地域格差と、あらゆる問題が含まれていることに気づかされました。そして、途上国から命の危険を冒して訴えに来ているのです。気候変動を解決することで貧困問題も解決できるかもしれません」

「渋谷COP」を立ち上げ、また世界の若者が開催した模擬COP「Mock COP26」のグローバルコーディネーターとして活動する研究者の佐座槙苗さんは言う。「若者だけで気候危機に立ち向かうことはできません。大人の世代の責任を追及する若者もいますが、それだけでは分断してしまいます。足りない経験や知恵を補ってもらい、若者と大人世代が一緒に取り組むことが必要です」

 

●Hさん

私は、格差のことに関心があってこの講座に参加しましたが、今日の話で、改めて格差の問題を考えてみたいと思いました。街を走っている自動車を見ても、外車が多く走っていて、昔はこんなに多くなかったのでは?と思い、昔に比べて格差は大きく広がっているのではないかと思います。ポランニーについては、知らなかったので、また勉強しようと思います。

●Fさん

若い人の目から見た日本と、年配の人の目から見た日本は違うのではないかと思う。若い人にとっては非常に厳しく大変な社会になっている。

 

このあと、今の社会のこと、民主主義や政治のことなどについて少し意見交流しましたが、記録が不十分なので割愛します。

 

今回、新たな参加者も加わり、いろいろな視点から交流ができたと思います。今後も、格差などの学習だけでなく、交流もさらに大切にしていきたいと思います。

次回は、12月11日(土)の予定です。