ハンナ講座 やさしい社会問題 

第19回(2021年5月22日)まとめ

 

「格差の問題から今の社会や人間のあり方について考える」

 

今回、第三回目のコロナ非常事態宣言の中での講座開催ということと、前回(4月3日)から少し間隔が空いていたので、最初に、コロナ禍の中でのお互いの近況交流をしてから講座を始めました。ハンナのお店もコロナ禍の休業要請や支援策などについての影響を受けており、そういう中での開催ということを改めて考えながらの今回の講座でした。

 

前回、SIさんが紹介してくれた「労働者協同組合」について、より詳しい内容を知りたいという要望がMさんからあり、今回、SIさんが、フリーランス記者の長岡義幸さんが雑誌「潮」に掲載した、2回連載の「『働く人のための協同組合』法案成立までの軌跡」の記事をコピーして持ってきてくれた。1回目の記事をSIさんに読んでもらった。以下要約。

 

昨年(2020年)12月の国会で「労働者協同組合法」が成立し、2年以内に施行されることになった。

法律の第一条では、労働者協同組合を、「組合員が出資し、それぞれの意見を反映して組合の事業が行われ、及び、組合員自らが事業に従事することを基本原理とする組織」と規定する。また、「多様な就労の機会を創出し、地域における多様な需要に応じた事業に取り組み、持続可能で活力ある地域社会の実現に資する」という目的も掲げられた。社員として働くのでも、フリーランスなどの独立自営で働くのでもない、社会的に意義のある仕事や事業に取り組むのにふさわしい、いわば第三の働き方が法的に位置づけられたと言える。

労働者協同組合は、一言で言うと、働く人自身が資金を出し合い、事業を担い経営に携わる「労働・経営・資本」が一体となった組織である。農協や生協のような一般的な協同組合と同じく、組合員総会の議決は、出資比率を基準にするのではなく、一人一票制であり、直接民主主義的な運営を原則とする。

他の協同組合と異なる労働者協同組合の最大の特徴は、組合員自身が働き手となることだ。他の協同組合が「労働」と「経営・出資」を別にしたり、株式会社などの企業が「労働・経営・資本」を分離しているのとは異なる形態だ。

もともと労働者協同組合は、欧米を中心に発達し、日本ではあまり知られていなかったが、ここ40年ほどで全国に広がった。ワーカーズコープやワーカーズコレクティブという呼称も定着し、「協同労働」という用語も発案された。ワーカーズには、全日本自由労働組合(全日自労)を発祥にする「日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会(労協連)」と生活クラブ生協が母体となった「ワーカーズコープコレクティブネットワークジャパン(WNJ)」の二つがある。

労協連に所属する事業体で働く人は10万人、事業規模は1000億円に達するという。WNJには500団体が加盟し、事業高は125億円だ。

今、ワーカーズに注目が集まり、事業体が増えている背景には社会の激変がある。少子高齢化、過疎化、孤立化による無縁社会、非正規労働の増加などによる働き方の変化などだ。労協連は様々なつらさを抱えてきた人々とともに働き場所を作ってきた。障害を持つ人や生活保護を受けている人の働き場所ともなっている。ワーカーズ方式で行われている事業は、公園清掃、ビルメンテナンス、若者サポート、保育園、農業、太陽光発電、家事援助、介護ヘルパー、自然食販売、リサイクルショップ、レストランなど、多岐にわたる。これまでは、ワーカーズ事業には法的裏付けがなく任意団体として運営されていたが、今回の立法により、協同労働に法的な裏付けがなされることになる。

労働者協同組合の事業例として、筆者が取材した「あぐりーんTOKYO」は、ニートやひきこもりの人々への支援事業をきっかけにして、廃食油を集めて加工したバイオディーゼル燃料を生産・販売する工場をたちあげ、ワーカーズセンター事業団のバイオマス地域福祉事業所として運営されている。所長は、「課題もあるが、時間をかけてお互いをわかりあいながら働き、お金という物差しだけではない価値観を世の中に定着させたい」と意欲を語った。

今回の法案成立には、公明党の議員の働きかけがあった。自民党の提案した一億総活躍プランや地方創生の考えを背景に、多様な働き方を前提にした就労環境の整備の必要性を訴え、議員立法にこぎつけた。

法案づくりでは、「雇用関係のない働き方」がネックとなった。労働者保護という観点から、例えば、ブラック企業がチープレイバー(低賃金労働者)として使うのではないかという懸念があった。そこで、理事長以外は最低賃金を順守し、労働法に守られるしくみを法律に明記するようにした。労働者が守られない労働者協同組合などありえないということだ。今後、労働者協同組合法が、社会支援、社会連携の輪を広げる運動の一環になっていければと思う。

 

●SIさん

今回の労働者協同組合のことは、以前、Uさんが詳しく紹介してくれた斎藤藤幸平さんの「人新生の資本論」の中にある、スペインのバルセロナ市のミュニシバリズム(地域自治体主義)の取り組みの基盤となる「労働者協同組合(ワーカーズコープ)による参加型社会」の内容と深くつながっており、改めて当該箇所(人新生の資本論P328〜P343)をコピーしてきたので、読んでおいてほしい。

また、労働者協同組合の理念は、社会的弱者への支援や働き方の見直し、社会連携など、ベーシックインカムの考えとも共通するものがあると思ったので、朝日新聞2020年12月の「オピニオン&フォーラム ベーシックインカム考(山森亮さん、宮本太郎さん)」の記事もコピーしてきたので、参考にしてほしい。日本維新の会の公約にベーシックインカムが載るということを聞いたこともあり、社会的な関心も高まると思うので、今後とも、考えていければと思う。

あと、「菅政権と国会―不誠実な答弁を暴くには」「保育の質保てる給与制度―ケアの価値高める転機」

「どう思いますか されど公共交通・バスにまつわる投稿」「PSOで官の責任明確に」の新聞記事もコピーしてきたので、また読んでおいてほしい。特に、関西大の宇都宮浄人さんによるPSO(public service obligation(公共サービス義務))の理念の紹介・説明は、コモンズや脱成長コミュニズムの理念とも共通するものがあり、これからの社会を考える上で、重要だと思う。(記事の詳しい内容は割愛します)

 

●Mさん

労働者協同組合は、これからの社会経済活動や協同労働、働き方、社会的弱者への支援など、いろいろな面で大きな可能性と有効性を持っていると思う。欧米では一般的になっているが、日本での周知度はまだ低いので、法成立をきっかけに、今後大きく周知され、広がっていく可能性もある。

ただ、現在の会社や生協などとどう違うのか、「労働・経営・資本が一体」というのは、過去の共産主義の理念や実践とも共通するものだが、現在の資本主義という社会体制のもとで、どのような役割と意味があるのか、歴史が異なる欧米の実践例が日本にあてはまるか、など考えるべき課題も多くあるような気がする。大事なテーマなので、今後も、また、考えていければと思う。

あと、「ジェンダー言葉見つめ直す(辞書の、ジェンダー関連の言葉の解釈の見直しを中心にした記事)」「ジェンダーと言葉のモヤモヤ(ジェンダーに関する言葉についての投稿記事)」「フォーラム・差別をなくしたい(性的差別や人種差別などを受けたアスリートたちの声を取り上げた記事)」を紹介。(記事の詳しい内容は割愛します)

 

 

今回は、緊急事態宣言下でもあり、いつもより少し早めに終了しました。次回は、宣言が解除され、コロナ感染も減っていることを願って、当初予定より遅らせて6月26日の開催予定となりました。