ハンナ講座 やさしい社会問題 

第18回(2021年4月3日)まとめ

 

「格差の問題から今の社会や人間のあり方について考える」

 

●コーディネーターMさん

前回、UさんとSIさんから、斎藤幸平さんの、「マルクスの思想を新たな観点から見直し、地球環境問題とポスト資本主義や脱成長コミュニズムについて考える」ということについてのレポートがあった。とても丁寧でわかりやすいレポートで、脱成長コミュニズムなどについての理解を深めることができた。今後の講座に生かしていければと思う。今日はまた、具体的な社会問題について新聞記事などをもとに考えていきたい。

「シリア終わらぬ人道危機」と「五輪初の100メートル連覇は・・」の2つの新聞記事を紹介。

一つ目の記事は、民族や宗教、国際政治などが複雑に絡み合ったシリア内戦によって、多くの人が難民となり、国内でも内戦の犠牲者が38万人を超して「今世紀最悪の人道危機」といわれるシリアの現状について。

二つ目は、1964年の東京五輪と68年のメキシコ五輪の陸上女子100メートルで五輪史上初となる2大会連続金メダルを達成した米国のワイオミア・タイアスさんのインタビュー記事。偉業を成し遂げたのに、女性で黒人だからと、話題にもならず、「OK」と言われてそれでおしまい。ソウル五輪でのカール・ルイスの100メートル連覇が人類史上初の連覇と報道されて驚いた。当時、スポーツ選手が差別への抗議をしても反響はなかったが、今、BLMの運動もあり、50年を経て、スポーツ選手の差別への抗議が注目を浴びるようになった。変化を生む流れが速まっていくことを願っているとタイアスさんは言う。現在、大坂なおみさんなどのスポーツ選手が差別反対の行動をしているが、タイアスさんはその先駆的な存在で、そうした歴史をきちんと知ることは大切だと思う。

 

●Uさん

前回、斎藤幸平さんの本のレポートをして、自分の考えが少し変わったように思う。マルクスの思想の新解釈に基づく斉藤さんの考えは、環境問題だけでなく、今の生活や労働、働き方など現在のあらゆる問題に関わるものだと思う。これまで、自分は、お金をもうけている人も別に悪いわけでなくまあ仕方がないかなと思っていた。「働かざる者食うべからず」というような考えも肯定していたように思う。しかし、この講座で勉強させてもらって、格差の問題や働きたくても働けない人もいるということを知り、考えが変わってきたように思う。生活保護の裁判などもあるが、どんな人も最低限の生活は守られるべきだと思う。今、コロナ禍の中での厳しい現状をみると、菅総理など政治家にあまり理念がないように思う。夫婦別姓の問題とか、他の問題に対する姿勢などみても、支持率だけ考えて、きちんとした理念がないと思う。

BunshunWoman2021春号の斎藤幸平さんとヤマザキマリさんの対談記事を紹介。

 

●Mさん

最低限の生活保障とか「働かざるもの食うべからず」といった価値観の見直しなどは、ベーシックインカムの考えとも共通するものがある。

 

●Nさん

政府の言うベーシックインカムは、本当かと疑ってしまうが、、、。

 

●Sさん

(政府の政策顧問の)竹中平蔵氏のベーシックインカム論は、山森亮さんたちの考えとは異なり、社会保障費を削減することが大きな目的だと思う。最低限のお金を渡すかわりに、今の社会保障費をなくして、あとは自分たちでやっていけという、経済や財政優先の考え。

 

●Mさん

山森さんたちの考えは、すべての人の生きる権利を優先する考えで、竹中さんたちの考えとは全く異なると思う。竹中さんなどは、ベーシックインカムに名を借りて、生活保護の打ち切りなども言っており、とんでもないと思う。

 

●SIさん

朝日新聞編集委員の福島申二さんの記事を読む。以下要旨。

まどみちおさんの「春の訪れ」という詩がある。自然への畏敬を歌うが、後半で、自分が自然そのものでありながらそれを忘れている人間のことばから、自然はもはや遠い存在なのだという警句に転じる。まどさんが憂えた人間の営みの肥大ぶりを示す数字がある。地球上の人工物の総量が生物量を上まったという数字だ。地球の大きさは変わらないのに、今、人間は、地球が数個分必要な生活をしている。私たちは地球を食いつぶしている。土壌はほとんどの動植物を養ってくれているが、しかし、地球上のすべての土を集めて地表に敷きつめると、厚さは18センチにしかならない。土だけでなく、あらゆるものの有限性を深刻に受け止めるべきだろう。現実に地球はただ1個しかないのだから。茨木のり子さんの詩に、「人類はもうどうしようもない老いぼれでしょうか それともまだとびきりの若さでしょうか 誰にも答えられそうにない問い」というのがある。人類はまだ若い、そう答えるためにも未来に向けての賢さが今ほど試されているときはない。

高知カツオ県民会議会長の山崎道生さんの記事を読む。以下要旨。

カツオの漁獲量が減っている。20年前の半分以下の水準。カツオ資源が減る理由をきちんと解析し今後のことを考えなけばならない。県の補助を受けカツオの親魚を集めて人口ふ化の研究をしている。カツオの国だから資源量を死守する必要がある。私が会長を務める高知カツオ県民会議では、製造業や建設業の人など魚には関係のない人も入って「高知の将来どこに持っていこう」と話し合っている。私は高知をみんなが楽しく生きられる場所にしたい。近視眼的な経済効果だけで考えるのでなく、もっと長い目で見ながら、人類がどこを目指すのか、何が幸せなのかという論点が大切だ。私たちは、世界の強欲と貧困の中で、高知としてどう訴え、日本として紳士的にどう振る舞うのかを提案していきたい。

 

(SIさん)政治の場で、山崎さんのような考えが語られない。コロナ禍の中で、目先のことをどうするかだけが優先されている。将来のことや社会全体のことをどうするか考えていくことが必要だと思う。

 

長岡義幸さんの「『働く人のための協同組合』法案成立までの軌跡」(潮2月号連載)の論考の紹介。以下要旨。

昨年12月臨時国会で「労働者協同組合法」が成立した。働き手自らが出資し、経営にも携わる労働者協同組合(労協)に法的根拠を与えるものだ。コロナ禍で雇用への不安が増大する中、「働く意味」を問い直すきっかけにと期待が寄せられる。労協は各組合員が出資し、経営に参画する。経営者と従業員、出資者が一体となる構図だ。会社員でもフリーランスでもない第三の働き方が法的に位置づけられる。ヨーロッパでは1990年代に労協の関連法が成立したが、、日本では法律の整備が遅れた。労働者イコール賃労働者の構図を前提とした日本の法体系では、誰もが対等な立場である労協のような働き方が理解されにくかったのが理由だ。しかいこの10年で状況は変わった。格差拡大や貧困問題が深刻化し、多くの人が金銭を得ること以外に仕事の意味を見いだせなくなっている。働き甲斐のある仕事を作り、それを通して生み出された富を地域に還元する労協の必要性を政府も意識せざるを得なくなった。働くことの意味を問う協働労働が法律で認められたのは、社会の価値観を再考する上でも有意義だ。協同労働とは対話的な協同を通して常に働く関係を編み直すプロセスだ。そこに携わる人々がどれだけ主体的に新たな協同を紡ぎ広げていくかが問われる。

 

(SIさん)労協のことはよく知らなかったが、労働の意味や働き方などについての新しい考えを示すものとして興味がわいた。今よく目にする、いわゆる「生協」とはまた違う形態。

 

●Mさん

私も興味がある。次回、労協に関する資料や本などあれば、ぜひ紹介をしてほしい。

 

あと、SIさんから、新電力の設立や都市電力の自給率などについての新聞記事の簡単な紹介があり、それについて少し意見交換する。

 

●Fさん

前回、Uさんのレポートにあった「3・5%の人が本気で立ち上がれば社会は変わる」ということに関連して、これまでこの講座でやってきたことを何か形にして、ハンナの6周年の記念品に盛り込み、発信するようなことができないかと考えている。それで、その基盤になるものとして、自分の中で、以前からずっと大事に温めてきた内容の新聞記事があるので紹介したい。

元世界銀行副総裁の西水美恵子さんの新聞記事を読む。以下要旨。

「幸福追求の経営理念」と題した記事を書いて以来、エコノミストなのになぜ人の幸せにこだわるのかと問われる。不幸な人々ばかりでは、住み心地の良い社会や働き甲斐のある企業などを作ることは無理、だから、エコノミストとして人の幸せにこだわりたいと思ってきたが、幸せの理由は人さまざまで、普遍的な根拠はないというのが社会の常識。幸福の根拠が個々別々なら政策や経営には役立たず。エコノミスト失格である。その常識をくつがえす研究成果が発表された。多くの人の人生の様々な側面を約75年間にわたって追跡調査してきた「ハーバード成人発達研究」の研究発表では、何がいい人生を創るかという問いに対して「いい人間関係に尽きる」という結論が出された。家族や友人、地域社会の人々などとの「信頼度の高い」関係が幸せな人生の根拠だと判明したのだ。

ふり返ってみると、若い時、ブータンの先代国王の「いつの世も不幸な民が国を滅ぼすと世界史が教える」という言葉にヒントを得て、国家政治がそうならば企業組織でも人の幸せは重要だと考え、当時勤めていた世界銀行の組織改革にその考えを応用した。目的は職員とその家族の幸せ。それを妨げる規則や慣習などを皆で力を合わせて変える参加型プロセスの改革をおこなった。目的とプロセスを話し合い、皆が納得したとたんに改革が加速。仕事の量と質も飛躍的に上昇した。それは、参加型プロセスが必然的に生む「信頼度の高い」人間関係が理由だったわけだが、その時は思いもよらず、今回のハーバード大の発表を聞いて、自分の中で明確になった。社会のさまざまな問題はみな、人間関係とその信頼度に関わるのだと。

 

 

Fさんの提案を受けて、次回、ハンナ6周年に向けて、この講座として発信したいものを、一人ひとりが考えてくることになりました。ハンナでの6年の講座の内容とみんなの関係を振り返りながら、3.5%の立ち上がりを目指して、何か発信できるものが考えられればいいなと思います。