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其の他

[ 気になる裁判官−山室恵 ]

『裁判官 Who'sWho 東京地裁・高裁編』(現代人文社/2002)には、東京地裁刑事5部の総括判事であった山室恵(めぐみ/♂/1948年3月8日生まれ/2004年6月30日退官)を紹介するページがあり、次のようなことが書かれている。

< 弁護士会に国選弁護の事件記録が回ってきても、この人の法廷にかかる事件はみんな取りたがらないことが多いという。被告・弁護側の話をなかなか聞いてもらえず苦い思いをすることが多いというのがその理由らしい。かなりクセのある人で、自己主張が強く、強権的でもある。傍聴人からの野次に対しては、「そろそろやるか」といった感じで余裕をもって威圧してから退廷させる。検察官、弁護人の双方にも厳しく、もたついたり、だらだらしていると文句を言う。検察官の脇で居眠りしていた司法修習生に対して、「何をやっているのか分かっているのか」と一喝し、法廷から追い出したことがある。その一方で、東京地裁のエース、切れ者との評判もあり、公判では何かひと言を付け加える“ひと言裁判官”としても有名である。>

刑事訴訟規則221条・・・裁判長は、判決の宣告をした後、被告人に対し、その将来について適当な訓戒をすることができる。
法律用語では「訓戒」と言うが、一般には「説諭」と呼ばれている。

ワイドショーでも取り上げられ、話題になった次のような「説諭」がある。

★2001年(平成13年)7月23日、東京地裁で、3人の少女買春をしたとして、児童買春・児童ポルノ禁止法違反の罪に問われた東京高裁判事のM(当時43歳)に対する初公判が開かれたが、この公判で裁判長を務めたのは山室恵判事だった。被告への補充質問で、山室裁判長は12年後輩のMを睨みつけ、「言葉は悪いが、単なるロリコン、単なるスケベおやじだったのではないのか」と言い、公判の最後で、「日本の司法の歴史の中でとんでもないことをしたというのは分かってますな」と問いかけ、とっさに何度も頭を下げるMに向かって、「まさかこういうことで裁判官を裁くとは思っていなかったよ」と言った。

8月27日の判決公判でMに対し、懲役2年・執行猶予5年(求刑・懲役2年)の判決が下った。11月28日、裁判官弾劾裁判所はMに対し罷免を言い渡した。不服申し立てはできず罷免が確定。Mは法曹資格を失い、5年間は資格回復を求めることができない。裁判官の罷免は20年ぶりで5人目。過去に罷免された裁判官4人のうち、3人は後に資格回復を申し立て、弁護士として再起したが、M判事は法曹界に戻るつもりはないと話した。

★2002年(平成14年)2月19日、東京地裁で、2001年(平成13年)4月28日、東急田園都市線の三軒茶屋駅で銀行員の牧顕(43歳)を殴って死亡させたとして、傷害致死罪に問われた神奈川県のとび職の少年と東京都の元専門学校生の少年の2人(ともに当時19歳)に対する判決公判が開かれ、求刑通り懲役3年以上5年以下の不定期刑を言い渡したが、このときの公判でも裁判長を務めたのは山室恵判事だった。判決を言い渡した後に、山室裁判長は「唐突だが(シンガー・ソングライターの)さだまさしの『償い』という歌を聴いたことがあるだろうか」と語りかけ、反省を促す説諭をした。

「償い」は、交通事故で男性を死なせた若者が償いのため男性の妻に少ない給料から送金を続け、7年目に妻から「あなたの優しい気持ちはとてもよく分かりました」という手紙を受け取る内容。山室裁判長は「歌詞だけでも読めば、君たちの反省の言葉がなぜ心を打たないか分かるだろう」と述べた。少年はうつむいたまま、裁判長の言葉を聞き、遺族に謝罪するとともに「一生かけて償いたい」「私という人間を根本から変えていきたい」などと述べた。

判決翌日、とび職の少年の叔母がさだまさしのCDから『償い』の歌詞を書き写した手紙を少年が収監されている東京拘置所宛てに送り、少年の元に届けた。歌詞はもう1人の元専門学校生にも関係者を通じて伝わったという。

3月6日、少年側は控訴せず、懲役3年以上5年以下の不定期刑の実刑が確定した。

償い

作詩・作曲:さだまさし

月末になるとゆうちゃんは薄い給料袋の封も切らずに
必ず横町の角にある郵便局へとび込んでゆくのだった
仲間はそんな彼をみてみんな貯金が趣味のしみったれた奴だと
飲んだ勢いで嘲笑ってもゆうちゃんはニコニコ笑うばかり

僕だけが知っているのだ彼はここへ来る前にたった一度だけ
たった一度だけ哀しい誤ちを犯してしまったのだ
配達帰りの雨の夜横断歩道の人影に
ブレーキが間にあわなかった彼はその日とても疲れてた

人殺しあんたを許さないと彼をののしった
被害者の奥さんの涙の足元で
彼はひたすら大声で泣き乍ら
ただ頭を床にこすりつけるだけだった
 
それから彼は人が変わった何もかも
忘れて働いて働いて
償いきれるはずもないがせめてもと
毎月あの人に仕送りをしている


今日ゆうちゃんが僕の部屋へ泣き乍ら走り込んで来た
しゃくりあげ乍ら彼は一通の手紙を抱きしめていた
それは事件から数えてようやく七年目に初めて
あの奥さんから初めて彼宛に届いた便り

「ありがとうあなたの優しい気持ちはとてもよくわかりました
だからどうぞ送金はやめて下さいあなたの文字を見る度に
主人を思い出して辛いのですあなたの気持ちはわかるけど
それよりどうかもうあなたご自身の人生をもとに戻してあげて欲しい」
 
手紙の中身はどうでもよかったそれよりも
償いきれるはずもないあの人から
返事が来たのがありがたくてありがたくて
ありがたくて ありがたくて ありがたくて
 
神様って思わず僕は叫んでいた
彼は許されたと思っていいのですか
来月も郵便局へ通うはずの
やさしい人を許してくれてありがとう
 
人間って哀しいねだってみんなやさしい
それが傷つけあってかばいあって
何だかもらい泣きの涙がとまらなくて
とまらなくて とまらなくて とまらなくて

参考文献・・・
『裁判官 Who'sWho 東京地裁・高裁編』(現代人文社/2002)
『毎日新聞』(2001年7月23日付/2001年8月27日付/2002年2月19日付/2002年3月6日付/2004年6月30日付)
山室恵の著書に『刑事尋問技術』(ぎょうせい/2000) / 『アメリカの刑事手続き』(有斐閣/1987)がある。

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