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埼玉愛犬家連続殺人事件

埼玉県大里郡江南町(現・熊谷市)に<犬 猫 狼>と大きく書かれた看板が目立つペットショップ「アフリカケンネル」があった。犬猫繁殖販売業者の関根元(せきねげん/当時53歳)とペット販売会社の風間博子(当時38歳)の2人は夫婦の関係だったが、仕事をする上で便宜を図る目的で書類上、離婚した。「アフリカケンネル」は風間の母親が資金を出して「アフリカケンネル」を建設したため、登記上の代表は風間博子になっている。だが、実質的な経営者は関根で風間はそのサポート役だった。

関根は愛犬雑誌に「アフリカケンネル」の広告を大きく出し、そこに自ら何度も登場していたこともあって、ブリーダー(犬の繁殖家)業界では目立つ存在だった。「アフリカケンネル」では主にアラスカ産の猟犬種であるアラスカン・マラミュートやアフリカでライオン、カバ、ゾウなどの猛獣狩りに使われたといわれるローデシアン・リッジバックを扱い、アラスカン・マラミュートのブリーダーとしても有名だった。一時期、日本で大ブームになったことがあったシベリアン・ハスキーを日本に持ち込んだのも関根という話もある。

シベリアン・ハスキーの大ブーム・・・佐々木倫子による少女漫画『動物のお医者さん』[1987年(昭和62年)〜1993年(平成5年)、白泉社『花とゆめ』に連載。全119話/単行本は、花とゆめCOMICSで全12巻、白泉社文庫版では全8巻] 2000万部以上の売り上げを記録し、2003年にはテレビドラマ化された。主人公の飼い犬であるシベリアン・ハスキーの「チョビ」はシベリアン・ハスキーブームを巻き起こし、同時にH大のモデルである北海道大学獣医学部の志望者数が跳ね上がるなど、社会現象も巻き起こした。

『動物のお医者さん 全12巻 完結セット』

シベリアン・ハスキーのブームが終わると関根はアラスカン・マラミュートに目をつけ、愛犬雑誌に「アフリカケンネル」の広告を出し続け、『愛しのアラスカン・マラミュート』(アフリカケンネル/風間博子/1992)という写真集まで出版している。

『愛しのアラスカン・マラミュート』

また、ドッグショーにも毎回のように出場していたため、関根と面識のあった関係者は多かった。1992年(平成4年)、群馬県利根郡片品村でブルドッグの繁殖販売をしていたY(当時38歳)がドッグショーで関根と出会い、「アフリカケンネル」の役員にならないかと誘われ、役員に就任した。だが、役員とは名ばかりで実際には関根の下で働く従業員でしかなかった。

関根はシベリアン・ハスキーのブームで大儲けしたが、その後、犬の繁殖場の建設で1億4000万円の負債を抱え、返済に窮した。そこで、関根は犬を本来の価格よりも何百倍にも上乗せして高値で売るという単純なやり方で販売した。

産廃処理会社経営の川崎明男が「アフリカケンネル」で「繁殖をやれば、この犬は日本に1頭もいないから必ず儲かる」と関根に勧められて、雌雄1組のローデシアン・リッジバックを購入することを決め、代金の1100万円を渡した。

1993年(平成5年)3月、川崎が先に着いたメス犬を受け取るが、そのメス犬が川崎宅から逃げ出して行方不明になった。川崎はこのことで警察犬訓練学校を営む知人に相談するが、そこでローデシアン・リッジバックの相場が20〜30万円であることを知る。さらに、渡されたメス犬は5歳で繁殖に適した年齢を過ぎており、10万円ほどであることが分かった。川崎は関根に受け取っていないオス犬についてキャンセルを申し出て、関根に返金を要求した。関根は現金650万円と車で返すと約束した。

4月20日、川崎明男(39歳)が行方不明になる。

川崎の家族が事件性を訴えたことで、マスコミが連日、関根を追うようになり、「アフリカケンネル」と関根は広く世間に知れ渡るようになった。

5月中旬、川崎の家族と関根の家で話し合いがもたれることになり、関根、風間、Yが応対することになった。このとき、関根側の仲裁役として暴力団幹部の遠藤安亘(やすのぶ)が同席した。川崎の家族の追及に関根側は知らぬ存ぜぬを貫き通し、遠藤の「この人たちが知らないと言うんだから・・・」のひと言で川崎の家族はその場を引き取った。だが、この一件で遠藤は関根が川崎を殺害したことに気付く。遠藤は関根から仲裁料として100万円受け取っていたが、それでも足りずに関根を強請(ゆす)った。

7月21日、遠藤安亘(51歳)とその運転手の和久井奨(すすむ/21歳)が関根の元を訪れたのを最後に行方不明になる。

関根は横暴な販売を続けていたため、このころには販売価格についてのトラブルが続出していた。「アフリカケンネル」の男性従業員の母の関口光江もそうしたトラブルをかかえていた。関根は関口に犬の繁殖による儲け話を持ち掛け、4頭の雌雄の外国犬を900万円で売りつけていた。それをきっかけに2人は性関係を持つようになった。さらに、関根は関口に300万円出して「アフリカケンネル」の株主になれば、多額の配当を出すとウソの出資話で金をだまし取った。

8月26日、関口光江(54歳)が行方不明になる。

殺害方法は極めて簡単だった。犬を安楽死させるための硝酸ストリキニーネ(筋弛緩剤の一種で心停止を引き起こす)を栄養ドリンクと偽って飲ませていたのだ。5グラムの硝酸ストリキニーネは知人の獣医から「大型犬を安楽死させたい」と頼んで分けてもらったもので人間50人を殺害できる量だった。

「人一人殺すのなんてわけない」が口癖の男は4ヶ月の間に4人を殺害した。

殺害された被害者は群馬県片品村の山崎の自宅に運ばれ、風呂場で関根と風間の2人によって解体された。関根は関口に対しては屍姦までしている。遺体切断には牛刀が使われた。大まかに切り離した後、姿が分からなくなるまで肉片をサイコロ大にカットした。関根も風間も鼻歌交じりで作業を続けた。ここにこの夫婦の異常性がある。

残った骨はドラム缶に入れて使用済みのエンジンオイルをかけて燃やし続け、灰にして近くの山林へ運んで蒔いた。こうして「ボディは透明」になった。これも関根の口癖だった。

1995年(平成7年)1月5日、関根元が殺人と死体損壊・遺棄容疑で逮捕された。風間博子とYも死体損壊・遺棄容疑で逮捕された。

1998年(平成10年)8月28日、共犯で元役員のYは3年の刑を終えて出所。

2001年(平成13年)3月21日、浦和地裁(現・さいたま地裁)は関根と風間の両被告に対し死刑を言い渡した。両被告は控訴した。

2001年(平成13年)5月1日、浦和市、大宮市、与野市が合併して人口約103万人の「さいたま市」が誕生した。同日、「浦和地裁」も「さいたま地裁」に名称変更された。

2005年(平成17年)7月11日、東京高裁で関根と風間の両被告に対し控訴を棄却。即日上告。

2009年(平成21年)6月5日、最高裁で上告棄却で関根と風間の2人の死刑が確定した。

風間博子は戦後では12人目の女性死刑確定囚になる。

2015年(平成27年)9月に刊行された 『迷宮の飛翔』(河出書房新社/蜷川泰司)に風間博子の16枚の絵が挿絵として掲載された。大道寺幸子基金(昨2014年、大道寺幸子−赤堀政夫基金と改名)による「死刑囚表現展」に風間は絵画を出展し続け、2014年には表現賞を受賞している。死刑囚の絵の展覧会は京都の東本願寺や広島県福山市の鞆の津ミュージアムなどで開かれてきた。蜷川泰司はそこで風間の絵に出会ったという。

『迷宮の飛翔』

2016年(平成28年)11月、関根元が収容先の東京拘置所で心臓発作を起こして倒れ、外部の病院で処置を受けた後、拘置所の中にある病室で治療を続けていたが、2017年(平成29年)3月27日朝、多臓器不全で死亡した。75歳だった。

共犯のYによる著書に 『共犯者』(新潮社/1999)がある。翌2000年(平成12年)、志麻永幸のペンネームで角川書店から文庫本として 『愛犬家連続殺人』と改題し刊行。さらに、2003年(平成14年)、Yのゴースト・ライターとして執筆した作家の蓮見圭一が 『悪魔を憐れむ歌』(幻冬舎)と改題の上、大幅に加筆訂正して刊行した。

事件の被害者は上記の4人だが、共犯のYは「関根とかかわりのあった群馬と埼玉の行方不明者はたぶん全員消されている」と語っている。

この埼玉愛犬家連続殺人事件や他の猟奇殺人事件からヒントを得て制作された映画作品に『冷たい熱帯魚』(DVD/監督・園子温/出演・吹越満&でんでん他/2011)がある。

参考文献・・・
『なぜ、バラバラ殺人事件は起きるのか?』(辰巳出版/佐田明/2007)
『女性死刑囚 十三人の黒い履歴書』(鹿砦社/深笛 義也/2011)
『罠 埼玉愛犬家殺人事件は日本犯罪史上最大級の大量殺人だった!』(サイゾー/深笛義也/2017)
『仁義の報復 元ヤクザの親分が語る埼玉愛犬家殺人事件の真実』(竹書房/高田燿山/2017)
『毎日新聞』(2017年3月27日付)

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