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西巣鴨子ども置き去り事件

1988年(昭和63年)7月17日、東京都豊島区西巣鴨のマンションの一室の家賃が4ヶ月も滞納になっており、住居人の女性の姿が見せないことから大家が巣鴨署に通報した。到着した署員が大家とともに203号室に一歩足を踏み入れた途端、汗とホコリと糞尿が入り混じったような強烈な悪臭に思わず吐き気を催した。

そこで床に敷いた毛布にくるまっていた長女(当時6歳)と次女(当時3歳)の女の子を発見した。骨と皮だけのやせ細った体は衰弱しきって、立つことさえできない状態だった。

部屋一面には汚れた衣類や食べ残しがそのままの食器類が散乱し、電気炊飯器の中にはひからびたご飯、電気洗濯機の中には変色した衣類、開けっ放しのトイレのドアの前には垂れ流しの大便が大量にあった。

前年の9月、女性が入居してきたとき、「息子と2人で暮していて、私は三越に勤め、14歳の息子は立教中学に通っています」と大家には説明していたから大家が2人の女の子が誰なのか分からなかった。

と、そこへパジャマ姿の長男(当時14歳)が現れ、「この2人は預かっていて僕が面倒を見ているんで大丈夫です」と言い、母親のことを訊かれると、「母は大阪で洋服会社に勤めていてデパートにいます。でも入院したので連絡が取れない」と答えた。

署員は児童相談所に行くことを勧めたが、男の子は「僕は大丈夫です」と言うので、とりあえずこの日は姉妹だけを保護した。数日後、男の子は児童相談所を訪れ、預けている2人の姉妹を自分の妹であることを明かした。

7月22日、マンションの押入れから次男(乳児)の遺体が発見された。

翌23日、母親(当時40歳)が保護者遺棄の疑いで逮捕された。母親は当時、デパートで派遣社員として働いていたが、浦安市の自営業者の愛人ができると、現金20万円を残して姿を消した。その後は、月に3、4万円現金書留を送るだけで、半年余りマンションに戻らなかった。

母親は乳児の死体については「昭和58年に生んだ子で翌年の2月、仕事から帰ったら冷たくなっていたので今のマンションに引っ越すとき運び込んで、そのまま押入れに入れていた」と答えた。他に、2歳の三女がいたが、4月、長男が中学生の友人2人とともに折檻して死なせ、秩父の山中に埋めていたことが分かった。

折檻した理由は三女がカップ麺を黙って食べたとか大便をもらしたからということだが、長男がそのことで殴ったり蹴ったりし始め、友人たちが、三女を押入れの布団に押し込み、そこから落とすということを10回くらい繰り返した。気づいたときにはぐったりしていた。慌てた長男は人工呼吸をしたり、マッサージをしたが、だめだった。

母親がいなくなってからの生活はなんとかできていたが、やがてお金が底をつき、料金未払いのため、ガスと電話が止められ、食べものは電熱器で味噌汁や卵焼き、野菜炒めなどを作っていたが、その後、電気や水道も止められ、生米や生肉も食べたという。

母親は20歳のころ、男と付き合うようになり、やがて長男を生んだが、その付き合っていた男が20万円の借金を母親の両親に肩代わりさせ、蒸発した。次の男とも関係して子どもを生んだ。だが、その男とも別れ、結局、5人の男と関係して、5人の子を生んでいた。子どもの父親とはいずれも内縁関係で、他人の目が怖かったからという理由で、子どもたちの出生届けも出さず、学校にも行かせていなかった。そのため子どもたちには戸籍も住民票もなかった。

長男は傷害致死、死体遺棄罪で逮捕された後、養護施設に引き取られ、2人の妹も別の養護施設へ送られた。

10月、東京地裁は母親に対し、懲役3年・執行猶予4年の判決を言い渡した。母親が浦安市の同棲相手(事件後、妻と離婚)と結婚して子どもを引き取ると誓約したため、温情判決となった。

刑法218条(保護責任者遺棄等)・・・老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったときは、3月以上5年以下の懲役に処する。

刑法25条(執行猶予)・・・次に掲げる者が3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間、その執行を猶予することができる。
 1 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
 2 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者

この事件をモデルに製作された映画に『誰も知らない』(監督・是枝裕和/長男役・柳楽優弥、母親役・YOU/2004)がある。主役の柳楽(やぎら)優弥が2004年度のカンヌ国際映画祭で史上最年少の14歳かつ日本人として初めての最優秀男優賞を受賞したことで話題になった。また、この作品はキネマ旬報やフランダース国際映画祭の最優秀作品賞や国内外の映画賞を受賞した。

『誰も知らない』(DVD/2005) / 『「誰も知らない」ができるまで』(DVD/2004)

参考文献・・・
『新潮45』(2006年8月号)
『20世紀にっぽん殺人事典』(社会思想社/福田洋/2001)

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