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女子高生校門圧死事件

1990年(平成2年)7月6日午前8時半ころ、神戸市西区美賀多台の兵庫県立神戸高塚高校で、登校の門限時刻になったため、担当の細井敏彦教諭(当時39歳)が校門のレール式鉄製門扉(高さ1.2メートル、長さ5メートル)を閉め始めたところ、登校中の生徒約30人が隙間に殺到した。このとき、1年生の石田僚子(15歳)が門扉とコンクリートの門柱に挟まれた。そのときの様子を目撃した男子生徒によると、細井敏彦教諭がかなりの勢いで門扉を押して閉め、僚子が驚いてかがむような姿勢になり、メリッというような音がして僚子の耳と口から血が噴き出したという。その後、僚子は病院に運ばれたが、午前10時25分、死亡した。

神戸高塚高校では毎朝、通用門付近に3人の教諭が立ち、登校してくる生徒らの指導にあたっていた。チャイムが鳴るのは午前8時半。その3分前から2人の教諭が門の外でハンドマイクを持ち、「あと3分、2分」「1分しかないぞ。早く走れ」などと時間を知らせ、この声にせかされた生徒らが門内に駆け込む。そして残りの1人の教諭がチャイムが鳴ると同時に門扉を閉めるのである。入ることができなかった生徒には遅刻の罰として、1周400メートルのグラウンドを2周走らされる。

11月16日、学校側は安全管理上の過失を全面的に認め、兵庫県は僚子の遺族に賠償額6000万円を支払うことで示談が成立した。県教委によると賠償金の内訳は学校事故で死亡した場合に支払われる日本体育・学校健康センター保険の死亡見舞金1400万円に、他府県の事例を参考に算定した慰謝料、葬祭費など4600万円を加算した。

1993年(平成5年)2月10日、神戸地裁は、業務上過失致死罪に問われた細井敏彦教諭に対し検察側主張(求刑は禁錮1年)をほぼ認めて、校門指導を危険性の伴う業務と認定、「被告が注意を怠ったために起きた」として、禁錮1年・執行猶予3年を言い渡した。

事故の背景にあるとされた管理教育には、量刑理由で「被告の刑事責任とは別に、学校として生徒の登校の安全に関する配慮が足りなかった」と指摘。学校側にも方法面で責任があると言及、執行猶予の理由としたが、是非に関しては司法判断を避けた。生活指導中の教師の過失責任が認定されたのは初めてであった。

公判は、細井敏彦教諭が門扉を閉めて、僚子を死亡させた事実関係の争いはなく、安全確認についての過失と校門指導の業務性が最大の争点だった。

判決はまず業務性について「反復継続し、門扉と門壁に挟むなどして生命身体に危害を及ぼす恐れがある行為」として刑法上の業務にあたると判断した。

危険の予見可能性の有無も検討し、(1)門扉の大きさ、構造からして、頭でなくても死亡の結果を生じうる。(2)被告は過去に生徒に門扉を押し戻されたことがある。(3)遅刻者に対しグラウンドを走らせる制裁があり、試験の日も制裁があるため生徒が閉まりかけた門に向かって走ることは予想できた、と指摘した。

その上で注意義務違反について「教員の間では、安全確認などの役割分担はなく、当日、作業分担の打ち合わせもなかった。他の教員が危険防止のため、門の外に待機していることは期待できなかった」と述べ、弁護側主張の「信頼の原則(門の外にいた他の2人の教師が生徒を制止すると思った)」は適用できないと退けた。

これらを踏まえ「被告が生徒の動静を十分確認する注意義務があるのに、これを怠り、生徒が一瞬途切れたのを見て、もはや門に入ってくる生徒はいないと軽信し、門扉を後方から押して閉鎖した」と断定。「被告の行為は教育に対する社会の不信を生じかねないもので結果は重大」とした。

教師が教育活動で業務上の過失責任に問われたケースはあるが、いずれも授業やクラブ活動での事故に限られ、監督責任を認定したもの。生活指導中の死亡事故がほとんどないこともあり、こうしたケースで業務上の過失責任が問われたことはなかった。

裁判長は、「門扉を閉鎖して遅刻指導をすることを決めた際、危険性に十分注意が及ばず、門扉の閉め方や危険防止の作業分担を決めず、担当教師の裁量に任せていた。これは被告人の刑事責任とは別に学校として生徒の安全に関する配慮が足りなかったことを示す」と指摘。学校側も門扉の閉鎖や安全確認の方法などを十分話し合って実施すべきだったとした。

この点などを踏まえ執行猶予の理由とはしたが、結局、管理教育に対する独自の判断は加えなかった。

細井敏彦教諭は控訴せず有罪が確定し教員免許の取り消しと不服申し立てをしている兵庫県教委による懲戒免職処分が決定した。

細井敏彦元教諭の著書に 『校門の時計だけが知っている 私の[校門圧死事件] 』(草思社/1993)がある。

参考文献など・・・
『読売新聞』(1990年7月6日付/1990年11月17日付/1993年2月10日付/1993年2月23日付)

『校門を閉めたのは教師か 神戸高塚高校校門圧殺事件』(駒草出版/外山恒一&はやしたけし/1990)
『神戸発!「親バカ」奮戦記 「校門圧死事件」から「親の教育権」を求めて』(光陽出版社/神戸高塚高校事件を考える会/1996)
『先生、その門を閉めないで 告発・兵庫県立神戸高塚高校圧死事件』(労働教育センター/保坂展人&トーキング・キッズ/1990)
『教育の日 女子高生校門圧死事件』(リーベル出版/熊坂崇/1993)

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