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Posted Nov. 21, 2015

On Taiwan: An Option between Total War and Withdrawal for the U.S.

The Author: Lieutenant Commander Noriya Nakazawa, Japan Maritime Self-Defense Force

訳者前書

InPEC Magazineで拾ったテキストを端折って訳すだけの簡単なお仕事。

訳題 「台湾: 全面戦争と撤退の間にある米国の選択肢」
執筆者は中澤憲弥3等海佐。掲載当時は海上自衛隊幹部学校職員で米Tufts大学 Flecther School留学中。

画像とキャプションは割愛。

海自幹部学校ウェブサイトで公開されている海幹校戦略研究第5巻第2号掲載の中澤3佐が執筆した海洋安全保障における台湾周辺海域の戦略的意義 - 米中台の軍事バランス変化による影響を中心に -の併読を推奨。

同じく海幹校のコラム コラム073 防衛駐在官の見た中国(その24) - 中台は今も「敵対状態」にある -の併読も推奨。

Typo, 誤訳の指摘は歓迎。- E-mail

目次

I. 台湾に視線を向ける時

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近年、中国と台湾の文化的・経済的関係が発展しているにもかかわらず、両国も強まる軍事的対抗の中にある。6月、中国人民解放軍(中国軍)は台湾攻撃のシミュレーションを実施した。[01] これに対し、台湾は直ちに防衛演習を実施している。[02] 民主進歩党(民進党)は、2016年の国政選挙で勝利すると見られており、独立を基本方針として掲げ、明らかに台中関係を緊張させるだろう。[03] 武力紛争が発生した場合、米国は台湾周辺での航行の自由に支障を来すだけではなく、台湾を見捨てるか否かの選択を迫られる。

半世紀以上の間、米国は中台の武力行使の抑止に貢献してきた。2004年、京都大学の客員研究員(呉春宜)は、米軍は、中国の台湾侵攻を抑止する日本の周辺事態法(1999年)に支えられていたと述べた。[04] しかしながら、2015年の国際安全保障環境は、既に変わってしまった。今日、中国は地域覇権を確立しようとし、これによって中国と米国間の二国間対立をもたらしている。[05] 事実、現在中国の接近阻止/エリア拒否(A2/AD)の範囲にある台湾周辺の安保環境の変化によって、米国が既に容易に空母を同地域に展開できないことが明らかである。これはエスカレーションが懸念されていることによる。ではあるが、米国は東アジア安定を維持するための台湾へのコミットメントを保持しなくてならない。台湾に対するコミットメントから手を引くことは、中国に威圧される各国で地域の軍拡競争のような多くの負の結果を引き起こすだろう。

米国が台湾を軍事的に支援し続けるべきシチュエーション、また限定戦争の範囲で最低でも台湾東岸で中国を退ける米軍の態勢を維持するためのパレート最適を探り出すには、一口で言えば米国の戦略の曖昧性を今少し明確にする必要がある。

II. 中国の反国家分裂法

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2000年に陳水扁が総統に就任した後、中国は台湾への武力行使をちらつかせて陳に対する圧力を増した。[06] これに対応して、陳は台湾が台湾人のものだという事実に疑いの余地はないとの声明を出し、2003年から翌年にかけては市民の独立機運が高まった。[07] そうした中台間の政治的やり取りの後に、中国は2005年に反国家分裂法を制定した。[08] 同法は台湾との統一は中国の内部問題であり、外国勢力の干渉も受けないと規定している。さらに、同法は台湾に武力行使する中国の権利を明記している。[09]

第8条 「台独」分裂勢力がいかなる名目、いかなる方式であれ台湾を中国から切り離す事実をつくり、台湾の中国からの分離をもたらしかねない重大な事変が発生し、または平和統一の可能性が完全に失われたとき、国は非平和的方式その他必要な措置を講じて、国家の主権と領土保全を守ることができる。

これにより2005年以来、中国は、台湾が独立に向けた意志や動きを見せた場合に備えて台湾攻撃を採るべき進路の可能性として机上に置いているのである。

* 反国家分裂法の訳文は人民網から転載 - 反国家分裂法(全条文訳)

III. 中国優位の対台軍事バランス

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ますます増しつつある中台間の軍事ギャップは、両国間の将来の軍事紛争に影響する変数になるだろう。中国の兵力に関しては、中国が毎年増強していることが明らかである。HIS Jane International defense reviewは、2015年は中国の国防予算を1,416億ドルに達すると予想している、これは前年比で10.1%増であり、2008年と比較すると倍額である。[10] 米国防省の議会への年次報告書は、中国の軍拡は第一に台湾との軍事紛争への備えることと結論付けている。[11] その一方で、台湾は2017年1月までに全志願制軍隊に移行する国防方針により、徐々に軍の規模を漸減している。[12]

2005年、台湾陸軍には200,000名の兵力を有し、台湾海峡を挟んで中国陸軍375,000名と相対していた。海軍の戦闘艦艇は27隻対47隻、空軍の戦闘機は420機対1,500機であった。[13]

10年後(2015)の両軍の軍事部門の規模を比較すると、そのギャップが中国にさらに有利に広がっていることに気付く。台湾陸軍130,000名に対し中国軍400,000名、戦闘艦艇27隻に対し67隻、戦闘機は388機に対して1,700機となっている。[14] このギャップが将来も増すのであれば、中国の台湾の軍事侵攻にかかる機会コストは減ることになる。台湾侵攻のコストが減れば同国への武力行使のハードルが下がるため、中国の台湾に対する武力行使の可能性が上がるだろう。

IV. 中国の武力行使基準と台湾国内の民意の変化

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中国は、台湾統一は重要だとしている。一方、中国は平和的統一が最善の選択肢だと反国家分裂法で強調している。2つの事実から、中国の武力行使による台湾統一は熟慮の上になるだろう。

米国防省の議会への年次報告は、中国の台湾に対する武力行使に対する検討を分析している。同報告書は、中国は台湾独立に関する公式決定、台湾独立に向けた不特定の動き、台湾の国内不穏、台湾の核兵器取得、統一に関する両岸対話再開の理由不明の遅延、台湾の国内事情に対する外国の干渉、外国軍の台湾駐留のいずれかで台湾を攻撃すると述べている。[15]

今後、台湾がいずれかの状況になれば、中国は上記の分析通りに台湾を攻撃ないし武力行使するであろう。1995年と1996年の第三次台湾海峡危機での例のように、状況が中国の武力行使を許すと見た中国は実際に台湾に対する軍事攻撃の可能性を誇示した。この危機において、中国は李登輝の訪米を台湾の2つの中国政策に向けたステップと見なし、台湾に脅威を与える軍事的手段をとることを決定した。[16]

台湾市民の選択に注目すると、状況の1つが満たされつつある。指標は2014年の地方選挙である、台湾国民は、投票者の47.5%が独立を支持する民進党賛成に回り、1つの中国を支持する中国国民党(国民党)は40.7%で敗北した。[17] さらに2015年4月の調査では、台湾国民の89.3%が自身を中国人とは考えておらず、また68%の台湾国民は台湾が独立主権国家と考えていることが明らかになった。[18]

2016年の台湾国政選挙の後に、台湾が独立路線をとるか否かは不明である。[19] 現時点では、民進党主席の蔡英文が現在の中国との二国間関係を維持することを公式に表明している。仮に民進党が勝利しても、台湾新政権は台湾独立を宣言しないだろう。[20] それでも、民進党のリーダーシップによる学生運動が牽引する新たな独立派の市民運動の危険がある。

近年、反中感情による学生運動があった。2014年3月のひまわり学生運動(太陽花學運)である。この運動中、馬英九総統の親中政策に反発した学生らが台湾を席巻した。[21]

東京外国語大学の井尻秀憲教授は、ひまわり学生運動の反中要素を苺世代と呼ばれる若い世代の特徴の説明と共に指摘する。[22] ひまわり学生運動の公式アナウンスには、この運動が台湾の民主主義を中国から守ること、また台湾は中国の願望にかかわらず、民族自決権の追求を続けなくてはならないと明記されている。[23]

将来の運動が独立や騒乱に繋がる際限ない活動になるのであれば、中国が台湾に対する武力行使を決定するだろう。その可能性は低くはない、若い世代と連帯した市民運動はしばしば予測不可能なエネルギーを見せる。中国も1989年6月4日の天安門でそうした運動を経験した。つまり、台湾の際限ない市民運動を恐れ、国内法を根拠に攻撃するとしても筋が通る。

V. 米国のリバランス戦略と台湾

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東アジアにおける米国のプレゼンスの観点から、米リバランス戦略が各地域で明瞭に機能している。とはいえ、台湾周辺では不明である。より良い理解のためには、東アジアを1) 日本、朝鮮半島及び周辺 2) 南シナ海 3) 台湾周辺海域の3つのパートに分けて分析するのが合理的である。1つ目の地域は、米リバランス戦略が良く機能している。米国はこの地域に強大で能率的な軍事力を維持している、また日韓双方と同盟関係にある。[24] さらに、米軍事力の増強が検討されている。特に2015年4月27日の日米安全保障協議委員会の共同発表を基盤に同盟抑止力を強化するため、日本駐留の軍事アセット増強を検討している。[25] それらの増強は、日本周辺の米軍部隊を、また韓国は中国に対する米抑止力を、米国の意志や能力を強化するだろう。

2つ目の地域の南シナ海では、米国が一度は失ったプレゼンスを再展開しつつあり、米国と同盟及び友好国家との軍事作戦が増え、関係が強化されている。従って、米国が中国に対してリバランスしていることは明らかである。冷戦後、米軍は1991年にSubic海軍基地から、1992年にはClark空軍基地から撤収した。[26] 南シナ海での米国のプレゼンスや抑止力が低下したため、同地域で中国のプレゼンスが伸張することになった。例としては、Spratly諸島のMischief礁を1994年に占領してプレゼンスを増強している。[27] M. Taylor Fravelは、中国が他に大きな脅威を抱えていないとしても、彼らが係争中の島嶼に関する外交方針を軟化する事はないと指摘している。[28] 彼が説明するように、中国は東シナ海での攻撃的な外交方針や活動を維持している、中国が既に米国の干渉を恐れていないからである。米国は南シナ海でのプレゼンスを取り戻すことの重要性に着目している。現在、米国は同地域に軍を送りこみ、関係国の中国への態度の足並みを揃わせることで中国に対する抑止力の向上を図っている。[29]

言うまでもなく、米国が台湾周辺でやろうとしていることは依然として不明瞭である。管見の限りでは、現在の米国のリバランス戦略では台湾の記述が不明瞭である。

VI. 米戦略の曖昧性

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台湾関係法(1979年制定)は、台湾に対する米戦略の曖昧性の観点で言うと一役買った。

1978年、米国は中華人民共和国が中国を代表する唯一の国家だと認めていた。1979年12月、米国は台湾との米華相互防衛条約を破棄した。その一方、米国は台湾国民の人権保護のために台湾関係法を制定した。同法には、米国は台湾が中国から自国を守るための防衛的装備品を提供することが明記されている。さらに台湾への米国の軍事的保護が意味するところは不明瞭ではあるが、同法には、”台湾人民の安全または社会、経済の制度に危害を与えるいかなる武力行使または他の強制的な方式にも対抗しうる合衆国の能力を維持する。”と明記されている。[30]

* 台湾関係法の訳は東京大学東洋文化研究所のデータベースから転載 - 台湾関係法

米国の台湾保護の2つの責任に関して言うと、米国は中国の強い抗議にもかかわらず、防衛的装備品を台湾にきちんと提供している。[31] 2014年11月4日、米海軍作戦部長Jonathan Greenert大将は台湾関係法に基づく責任をこのように強調した。”台湾に関しては、米国には台湾との条約に基づく責任がある。米国はそうした責任を履行し、米国務省と作業し、台湾を支援する装備品提供を実施している。” [32] その後の2014年12月、米国は4隻のOliver Hazard級ミサイルフリゲートの台湾への売却を決定した。

他方、米国は過去の危機において空母を台湾周辺に送り込んだように、中台軍事紛争を抑止するために米軍部隊を展開することはもうないだろう。本稿で詳細を後述するが、米国の軍事介入の可能性が低い理由の1つは、中国が大規模かつ精確な奇襲攻撃を好むことと米国に対するA2/AD能力にある。[33] 2つの中国の軍事的将来が、米国の台湾周辺での戦力投射能力や、かつては中国に対して有効だった米国の懲罰的・拒否的抑止力を減じた。それゆえに米国は台湾に軍を送り込むことは出来ないだろう。

Greenertは米国の台湾に対する責任を強調したが、台湾関係法は台湾防衛の為に米軍部隊を展開する責任を明確にしてはいない。政治的決定が最終的に台湾での米国の軍事作戦を決定するかは判らない。もしそうなれば、多数の戦死者を出すであろう強い中国に対する軍事介入を決断することは米国の指導者にとって難しいことになる。

VII. 不明瞭な米国の台湾防衛の意志

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米国は、自国の安保戦略において台湾が戦略的に重要だと考えたはずである。米国は1950年に朝鮮戦争が終わるまで、台湾の重要性を認識していなかった。実際、米国は朝鮮戦争勃発までは極東の米防衛区域に台湾を含めていなかった。[34] しかしながら、Harry Trumanが米第7艦隊に対して、台湾を中国から防衛し、台湾の中国攻撃停止を監視するよう命令を出した”朝鮮の状況に関する大統領声明”の後、米国は台湾と強く連携してきた。[35] 今日、米国は台湾関係法に基づいて、台湾との実際的関係を有している。

米台の歴史的関係にもかかわらず、管見の限りでは、米国の公式戦略文書には台湾防衛に関する具体的の方針がない。例えば、南シナ海には航行の自由(FON)の権利の維持のような問題があるが、”国家安全保障戦略2015”は台湾防衛について懸念していない。[36] さらに、米海軍・海兵隊・沿岸警備隊による” 21世紀の海軍力のための協力戦略”は台湾について何も触れていない。[37]

* 21世紀の海軍力のための協力戦略は、日英対比を用意してあるからぁっ!

しかしながら、何人かの研究者が台湾に対する米戦略は間接的アプローチだと指摘する。California大学Santa Barbara校で教えるDean Chenは米国の政策を議論している。Chenは、米国が民主主義のため、また中国に対する立場を変えずに台湾への装備品提供を継続しており、中国を刺激せず例えば中国に台湾独立を断定させることがないよう説得しながら、台湾と行動していると説明している。[38]

台湾の中国に対する立場の維持に焦点を当てると、例えば、米シンクタンクの戦略予算評価センター(CSBA)による“Hard ROC 2.0: Taiwan and Deterrence Through Protraction”は、米軍による台湾保護ではなく、台湾の中国に対する位置を保持して台湾自身の拒否的抑止を増すことを示唆している。[39] これらの理由から、台湾に対する米戦略の1つは中国への台湾自身の抑止力を増すことだ。

台湾の中国抑止が失敗した場合に、台湾保護に米軍が出るかは依然として疑問がある。台湾防衛についての米国の方針はどうかと言えば、米国は台湾防衛の意向をはっきりと示していない。Center for the National Interest(CFNI)の米中タスクフォースのメンバーで、戦略国際問題研究所(CSIS)のシニアアソシエイトでもあるJoseph Boscoは、米国が台湾に関する戦略的曖昧性を放棄し、明確に台湾防衛の意志を表示せよと主張している。[40] 他方では、オーストラリア国立大学戦略防衛研究センターのHuge White教授(戦略研究)はが、米国にとって軍事的手段はコストがかかるので台湾を防衛する価値が一切ないとしている。[41] また、George Washington大学Elliott国際関係大学院(ESIA)及び政治学科のCharles Glaser教授は、米国は南シナ海や東シナ海での平和的解決策を、また東アジアでの将来の米国のプレゼンスについて中国の同意を確実にするためには中国と対峙する台湾を放棄すべきであると主張している。[42] 現今の武力行使に関する米国の曖昧性や台湾への低評価から、米国が台湾を軍事的手段によって保護するというもっともらしい結論に到達するのは難しい。

VIII. 台湾の潜在的な軍事的重要性

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軍事的戦略の観点で言えば、現在の台湾の価値は米国にとって必ずしも重要とは限らない。以下のパラグラフで、2つの視点から見た台湾の戦略的価値を検討する。1つ目は台湾が現状に浴しているケース、2つ目は台湾が中国の支配下となったケースである。2つの状況を分析すれば、中国と全面戦争するには台湾の価値がないことが明らかになる。

台湾が中国に対する現状を維持する限りは、米国はその抑止力を強化出来るだろう。Project 2049研究所エクゼクティブディレクターのMark Stokes, 同研究所上級研究員Russell Hsiaoは、台湾の戦術情報が、台湾が中国のA2/AD環境下にあるため米軍事作戦にとって重要であると主張している。[43] すなわち、台湾は多くの音響・電子・その他の情報を収集が可能で、米国が軍事作戦実施に重要な情報を得られるということである。例えば、米国が中国の対空警戒レーダーシステムの故障箇所を知っていれば、その小さな穴から中国に侵攻できる。さらに、Robert Kaplanは不沈空母として台湾を利用して戦力投射する米国にとっての台湾の地政学的重要性を指摘している。[44]

中国が台湾を統一していた場合、中国海軍は西太平洋深海域への容易なアクセスを求めたはずであり、米国の拒否的・懲罰的抑止力は有効性を減殺されていただろう。

この問題に関して、Boscoは中国の潜水艦は、母国の東岸にある基地から沖縄諸島のラインに至るまでシュノーケルを海面上に出す必要があるものの浅海域を通らずに深海に潜行出来ると指摘している。[45] 台湾東岸沿いの北緯24度30分以南の海では、沿岸から12海里以内は水深1,000m以上となり、場所によっては2,000m以上に到達する。仮に中国潜水艦が台湾東岸の基地から出航して深海に潜航した場合、そうした潜水艦を探知し、航行している可能性がある海域を特定するのは困難になる。結果として、米海軍アセットは中国潜水艦の奇襲の深刻な脅威に直面することになるだろう。そのような米国の中国潜水艦に対する脆弱性は、間違いなく米国の中国に対する抑止力を減殺する。特に、中国の戦略潜水艦が深海域に容易にアクセスを果たせたならば、中国の懲罰的抑止力は中国の核第二撃能力の生残性向上によって強化されただろう。

台湾の軍事的価値は、米国が台湾保護のために中国との直接的な軍事紛争に突入することを想像するほどではない。つまり、米国は西太平洋での米戦略の効力を維持していれば、中国から台湾を防衛するよりも理に適った選択が出来る。例をあげれば、米国は中国に対する米抑止力を向上するため在日・在比基地を使用・開発出来る。台湾が中国の一部となった場合は、日本とフィリピンは米兵の増派を歓迎するだろう、中国への懸念が増すからである。さらに、台湾が降伏した場合は、Michael Pillsburyが言うように米国は同盟を組んで中国を包囲し、また中国に対する米抑止力が維持されるだろう。[46] 従って、台湾防衛のための全面戦争は米国にとって良い選択肢ではない。

IX. 米軍事力による台湾防衛は困難

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軍事戦略レベルでの問題としては、熱核戦争を引き起こす危険の可能性があるため米国が中国に対する全面戦争を実施できないことだ。中国は3隻の晋級弾道ミサイル潜水艦を運用しているが、米国は2020年まで同級が8隻まで増加すると見ている。[47] 晋級が搭載するCSS-NX-14(JL-2)潜水艦発射弾道ミサイル(射程7,400km)は、中国の米国に対する核抑止力にとって重要な手段である。[48] それ以外にも、3隻の晋級を運用するということは、仮に中国が任務・訓練・メンテナンスのサイクルを維持しているならば最低でも1隻が洋上でパトロールしているということだ。すなわち、中国が米国のみならず核所有国に対する核第二撃能力の生残性を維持しているということである。さらに、中国は2015年の国防白書で核反撃の実施を明言した。[49] 中国は、抑止に重要な核能力と明確な意思の双方を有する。Robert Jervisは、核兵器は単独では平和を維持できないものの、核と権力の間で全面戦争を抑止するとしている。[50] Jervisの説に従えば、米国はエスカレーションの可能性を無視して中国との際限ない軍事作戦を実施出来ることになるだろう。いずれしても、仮に軍事作戦を開始することがあっても、米国は中国が限定戦争を限定戦争と認識出来る範囲で中国と交戦するべきであろう。限定戦争の範囲が意味するところは、通常兵器のみ、かつ限定地域での作戦ということである。そうした任務は厳しい制約をそれぞれの作戦に課し、朝鮮戦争やベトナム戦争で経験したような多くの戦死者を出す、従って、米国市民の反対の声が強まり、作戦成功の可能性は減少する。

作戦レベルでの問題は、米国が中国のA2/AD能力によって、台湾西部での航空・海上優勢の維持に問題を抱えるだろうということである。1991年の第一次湾岸戦争の結果に中国が衝撃を受けて以来、1999年に中国軍は非対称戦に注力して、その軍事力を発展させている。[51] 現在、中国は米国に対するA2/AD能力の発展に努力している。A2/AD能力は、電子戦(EW)・サイバー戦・長距離精密攻撃(弾道ミサイル・巡航ミサイル)・弾道ミサイル防衛・水上戦・水中戦・宇宙/対宇宙戦・第3勢力による中国の対台湾作戦への介入を抑止・封殺するための統合防空からなる。[52] 地政学的な面に関しては、中国は三層の防衛エリアを構築している。[53] 第一層は、中国本土から540から1,000海里を覆っている。概ね豊後水道から小笠原諸島まで広がる第一層では、中国は対艦弾道ミサイル及び潜水艦で攻撃してくる。第二層は、九州や沖縄諸島の大半が存在する270から540海里の間を覆う。このエリアには潜水艦や空母が展開するだろう。最後の第三層では、水上戦闘艦・空母・潜水艦が用いられる。この層は台湾や沖縄諸島西部を覆っている。従って、上述のように中国がA2/AD能力を強化しているため、米軍には台湾西部で中国軍を攻撃することで台湾を保護する軍事作戦を実施するのは難しいと思われる。

井尻は、台湾周辺に米空母が到達するまでの間、台湾が中国に対する降伏をかわし切れれば、台湾防衛の可能性はあると指摘する。[54] とはいえ、その発言が根拠充分とはいえない。井尻は、米軍部隊が台湾防衛に成功する必要がある状況について詳述していない。言い換えると、どのように・どこで米空母が中国に対する作戦を成功裏に実施するかは依然として不明ということである。そこで、本稿では米空母の作戦を軍事的見地から分析する。米国が中国の侵攻から台湾を保護するには、米軍部隊は台湾西岸での軍事的優勢を維持しなくてはならない。米空母の到着位置が、特に空母の打撃パッケージが台湾西部に到達可能になる位置ならば、F/A-18E/F戦闘機は中国の防空システムを突破しなくてはならない。[55] 中国の防衛網は対空ミサイル、SA-N-20艦対空ミサイル・S-400地対空ミサイル・地上基地及び空母からの迎撃機などで構成される。[56] F/A-18E/Fはステルス機ではないため、中国の衛星・地上レーダーや早期警戒機に探知されると思われる。従って、F/A-18E/Fが戦死者をあまり出さずに中国軍への攻撃を成功させることは難しい。また、F/A-18E/Fと中国のJ-11戦闘機を比較すると、戦闘レンジには大した差がない。[57] この事実から、米空母が台湾西部でその優勢を維持するために作戦中ならば、J-11にエスコートされたJH-7戦闘機・H-6K爆撃機がYJ-12対艦ミサイルで攻撃可能であり、米空母の成功の可能性を減じる。

台湾を防衛する米空母には他の深刻な問題がある、米空母打撃群への中国の攻撃は、空母搭載機のみではなく、水上戦闘艦・潜水艦・サイバー空間・宇宙からも来るからである。例えば宇宙からの中国の攻撃は米空母に大きな制約を課す。中国はDF-21D対艦弾道ミサイルを有し、その最も重要な効果は射程距離によって米空母からの距離を保てることである。[58] すなわち、米空母は中国本土から810海里以遠で作戦しなくてはならない。F/A-18E/Fの戦闘レンジは1,275海里で、空母から全くの他方向を経由して攻撃するような欺瞞が出来なくなる。[59] 中国が米空母の概算位置を割り出したのであれば、米打撃パッケージの推定攻撃ルートに沿ってアセットを集結させることは容易い。こうして増強される中国の防空アセットは米軍事作戦を困難にする。加えて、中国海軍艦艇や潜水艦が米空母を攻撃する。そうした厳しい敵対環境にあっては、米空母は常に台湾西部でその優勢維持を果たすことはできないだろう。(つまり)数十万の中国兵が台湾上陸を成功させる可能性は高い。

作戦・戦術レベルでの問題は、米軍部隊の作戦開始が間に合わないということである。言い換えると、部隊は中国兵が台湾侵攻を開始する前に台湾保護のために作戦エリアに到達出来そうにない。Arizona大学のAllen S. Whiting教授は、中国は武力行使の主導権をとることを好むので、先制攻撃の可能性があるとしている。[60] 実際、中国は奇襲攻撃のために1,100基を越える短射程弾道ミサイル・航空機・巡航ミサイル・サイバー攻撃・特殊部隊・内通者のサボタージュなどを繰り出すだろう。[61] 奇襲第一波に続いて中国の台湾上陸作戦があった場合に、米空母が距離の暴虐(tyranny of distance)に打ち勝って中国侵攻迎撃のために来るかはおぼつかない。米海軍大学のJames Holmes教授は、米国内での官僚的・政治的な手続きのために米軍部隊が早期に来ることはないと指摘している。[62] 中国が秘密裏に開戦準備を整え、突如台湾を攻撃したならば、米軍は台湾防衛のために早期に台湾周辺に到来することは出来ないだろう。これら各レベルでの3点の問題は米大戦略に影響を与え、米指導者が米軍部隊に台湾防衛を命じることを躊躇するだろう。それ故に現時点で、米国が積極的に台湾防衛作戦を実施する見込みはない。この事実は、台湾が現在中国の攻撃を抑止する役割を果たしているということでもある。言い換えると、米空母には台湾保護が難しいものの、台湾自身の拒否的抑止力が台湾周辺の安定を維持する最重要ファクターだということである。状況は揮発的なもので、台湾が中国の台湾や他国への武力行使を抑止出来るかどうかを答えられる者はいない。

X. 問題は何か?

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上述したような台湾のために米国は全面戦争をするべきではないし、出来ない。言うまでもなく、米国は台湾を見捨てる場合には問題に直面することになる。もし米国が少しも台湾を防衛しないのであれば、東アジアや東南アジアの諸国は中国抑止のために軍拡に走るだろう。Glaserは台湾放棄と見ているが、彼でさえ米同盟国からの意義の可能性に言及している。米国が台湾へのコミットメントを放棄することは、米国の他国防衛のコミットメントへの信用が失墜することになる。[63] Glaserはその懸念は大げさだとする。しかしながら、その立場には誤りがある。それが米国の防衛リアリストの、台湾周辺の視点から問題を見ていない視点でしかないからである。日本の視点で言えば、米国が台湾を放棄した場合に中国と手を結ぶために日本を見捨てるという将来の可能性を暗示しているということである。そうした場合、日本は核の恫喝の可能性に対処するためより有効な装備品の取得を考慮するだろう。米国が小さな民主国の台湾を現在の覇権主義的な中国から守らないのであれば、他国は東アジアの安保環境は純粋に現実主義的と認識するはずである。軍拡競争が直接的に米国を脅かすことはないだろうが、東アジアでの航行の自由を得るには抑止のコストに充分に投資しなければならない。つまり、台湾を見放すか、全面戦争をやるかの狭間でパレート最適解を選び出す必要がある。

XI. 鍵となる台湾の拒否的抑止力

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ポイントは、どのように米国が台湾の拒否的抑止力強化を支援するかである。台湾の懲罰的抑止は中国の攻撃を引き起こすだけではなく、中国の奇襲に対して無力だからである。懲罰的抑止に最善の装備は、核兵器である。但し、中国の攻撃を促進することになる。台湾が核兵器を入手した場合、中国は米海軍が考えるように台湾に侵攻するだろう。[64] くわえて、台湾の核兵器入手は中国に台湾との相互確証破壊(MAD)の中で暮らすことを強制するため、そうなった場合に限っては、中国が直ちに台湾を攻撃すると予想するのは自然なことである。つまり、手遅れになる前に台湾の軍事的能力が中国に破壊されるであろう。

他のアセット、大型水上艦や戦闘機は懲罰的抑止の強化に有益である。言うまでもないが、台湾の場合にはそうではない。中国の奇襲攻撃が高くつこうとも、それに対して台湾が脆弱であるためである。奇襲攻撃の点で最も重要なことは、台湾は近接する中国のサインを察知するのが難しいだろうということである。例えば、中国の短射程弾道ミサイルによる奇襲は台湾軍を壊滅に有効である。[65] 例をあげると中国が有するCSS-6短射程弾道ミサイル射程950km、半数必中界(CEP)は10-30mとなっている。[66] つまり、CSS-6を停泊中の台湾海軍のOliver Hazard Perry級水上戦闘艦(全長133.5m/全幅13.5m)に命中させられるということである。[67] 同じことは滑走路・戦闘機・レーダーサイト・他の重要施設にも言える。

懲罰的抑止用の大型アセットは、取得や維持が高コストであるにもかかわらず有益ではない。そこで、台湾は拒否的抑止の強化のために防衛力を高めるべきである。それでも、台湾単独では、そうした強固な抑止力は実現できない。中国に対して余りに小国であり、周囲を海に囲まれているからである。やはり、米国は台湾の抑止力向上に支援する必要がある。

XII. 台湾東岸の聖域設定

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米国は、台湾のゲリラ戦基地のために台湾東部を保護する必要がある。米国は中国に対する全面戦争にはコミットしていない、従って全面戦争の準備は抑止力の観点から言って効率的ではない。論理的には僅かでも全面戦争への意志を見せれば充分な抑止力を確保しない。それでも、軍事支援と中国に対する限定戦争のコンビネーションのような限定的選択肢はとれるだろう。また、米国は日本に多くは期待できない。日本には米国の台湾関係法に類する国内法がない上に、公式に(台湾海峡の)両岸問題にはタッチしない方針をとっている。従って、とり得る米国の選択肢は以下になる。1) 軍事支援のみ 2) 軍事支援及び限定戦争を戦う態勢の維持 3) 公式に台湾東岸を防衛するための条約を締結する。本稿は政治論文ではないので、それぞれの選択肢は概略とする。

最初の選択肢の軍事支援は、米国も台湾も軍事装備の支出に対して適切な利益を得られないため効率的な面で言うと疑わしい。軍事支援単独では、大型装備が持つ中国の奇襲攻撃に対する脆弱性から台湾の拒否的抑止力を高められない。大型装備が敗れた後は、台湾は小火器類の維持に努め、中国に対するゲリラ戦に用いることになるだろう。それでも、中国が全方向から台湾に侵攻してきた場合、台湾陸軍の残存部隊は島中央部の山岳エリアに退避しなくてはならない。退避部隊には小規模作戦が可能である。直後から台湾陸軍は、日本がフィリピン・他の東南アジアの戦場で経験したように食糧や装備類の不足に襲われるだろう。従って、米国からどれほど装備を受領したかは問題ではない、それでは台湾の拒否的抑止力を高められないのである。

第2の選択肢、軍事支援及び米国による台湾東部の保護関連は効率的である。米国は中国との完全対立は避けられる、また台湾の拒否的抑止力を高めつつも限定戦争の枠を維持出来る。米空母は、自身に対する中国の攻撃を回避することでエスカレーションを制御しつつ台湾東岸から台湾軍を支援出来る。さらに、米潜水艦は台湾東岸の深海域では中国の機雷をそれほど恐れる必要はない。限定的な米軍事作戦でも台湾部隊の強靭性や継続性に貢献出来るだろう。米台の台湾東岸での優越は、中国が同方角から攻撃する可能性を減じる、従って、中国に対する台湾の長期持久戦争の能力を強化する。米国の支援も台湾の士気を助けるだろう。言い換えると、対中国戦争の基盤となる台湾東岸を用いることで米軍部隊に対する北ベトナムのゲリラ戦のように台湾部隊は中国の侵略部隊を長期に渡って抑えられる。そうした基盤は、戦略予算評価センターが提示したように非対称戦や長期戦による台湾の拒否的抑止力を高める。

中国部隊が台湾西岸から来た場合、中国上陸部隊は台湾東部からのゲリラ戦部隊に対峙することになる。その場合、中国は米国がイラクで経験したように台湾部隊との長期戦を覚悟する必要があり、中国の台湾侵攻の機会コストは増加するだろう。増加したコストは中国指導者に台湾への武力行使に対して他の政治的解決策を模索することを迫るだろう。それ故に、米国の限定的軍事介入の可能性が増すことは、台湾の中国に対する拒否的抑止力を高め、また中国の台湾侵攻の可能性を減じる。つまり台湾周辺の安定は保たれる。この安定が東アジアでの軍拡競争の危険線も同様に減じることになる。米国が例え限定防衛作戦でも中台紛争軍事介入を暗示している限りは、他国は中国の攻勢に対する安心感を得られるし、高コストで危険な軍拡競争に走る必要がない。

第2の選択肢は、実際問題として米国内外の良い選択肢となる。米国の国内政治の観点では、この選択肢は台湾防衛の放棄よりは余程ありそうである、最低でも最後の手段として直接的に民主国を防衛する概念を有するからである。米国の国民も単純な軍事支援より好適なこの選択肢を支持するだろう。また、米国は明確な声明なしに台湾防衛の意志を暗示出来る可能性がある。米国が東アジアで台湾防衛のために特段の軍事能力を構築・開発したならば、中国は米国の意志に対応することになり、自国の意思決定プロセスにそれを含めることになる。米国及び同盟国により国際訓練は、米国の中国への関わりに貢献するだろう。従って、米国はその意志を明言せず、また中国と直接対峙することなく中国に米国が介入する可能性を負わせることが出来る。

第3の選択肢、米国の台湾保護の公式声明は、米中関係を確実に悪化させ、中台戦争の可能性を増してしまうため適切ではないと思われる。中国が台湾防衛の意志を表明した場合、中国が米国の声明を台湾独立への国外勢力の干渉と見なして、反国家分裂法に基づいて台湾に侵攻するかもしれない。この台湾に対する米戦略の目標は台湾周辺の安定維持であるが、その目標から中国の侵攻を遠ざけてしまう。故に、第3の選択肢は(目標の)適合性の観点から言うと相応しくない。

XIII. 新たな米戦略の曖昧性

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本稿で分析してきたように、米国が中国の上陸作戦から台湾を防衛することに成功する可能性は低い。呉は2004年、介入の可能性に関する米国の戦略的曖昧性が中台軍事紛争を抑止したことを指摘した。言うまでもないが、呉の定義は中国の軍事力増大によって変化した状況しており、もう適合しないことは明らかである。

本稿で述べた米国が台湾に対する限定的防衛作戦を実施する意味は、米国の戦略的曖昧性と同じ方針ではなく修正した方針のものである。新たな戦略的曖昧性に基づいて、米国は軍事能力を開発し、台湾東部の聖域を設定するために同盟国と連携を深めるべきである。さらに、米国は積極的にその意志を示唆し、中国に米国の軍事介入の可能性を恐れさせる必要がある。米国の中国関連軍事能力が低下して、米国には効率的な抑止力を維持するために明確に意志を固める必要がある。

本稿で述べた見解や意見は執筆者個人のものであり、必ずしも海上自衛隊及び日本防衛省を代表するものではありません。

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XIV. NOTES

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