10「天山遯」(とん)

逃げるときにはさっさと逃げろ

三十六計逃げるに如かずー逃げるということも立派な戦術です。如何にも不利であることが明らかなときに、なにも無理して負け戦をすることはありません。易にも書いてあります、

遯(のがれ)て亭(とおる)なり。遯の時義、大いなるかな。

前に行くことばかり考えてはだめ、逃れることで道が開けることもあるのです。
逃れるべき時を知り、その意義を知ることは誠に大切であります。
ところが、この「逃げる」というのがなかなか難しい。人から笑われるのではないか、とか、無責任と思われないか、とか種々思い悩んで、逃げると決断するのが難しいし、逃げると決めた後もあれだけ片付けて逃げよう、これを持って逃げよう、とかぐずぐずしているうちに逃げ遅れ、それが命取りになるのです。

遯尾なり。危うし。

逃げる豚の尻尾のようになったら危ないぞ。
何故豚の尻尾が危ないか。豚は(豚に限らず、犬も馬も、大抵の動物がそうですが、)逃げるときは頭から逃げる、と、尻尾は一番最後になる、で、逃げ遅れた尻尾は掴まれたり、被害を受ける、だから逃げる尻尾は危ないのです。
逃げると決めたらさっさと逃げることです。

ゆたかに遯(のがれ)る、よろしからざるなし。

悠々と退くのが、悪かろう筈がない。
ところで「遯」は、逃げるという行動だけでなく、ある立場や地位からわが身を引く、退く、という意味もあります。未練がましくポストにしがみ付かずに身を引く、うまくいかない計画に固執せず撤回する、これ皆「遯の時義大いなるかな」であります。

なお、「遯」という字でありますが、豚はトンという音を表わすだけで、豚が特段に逃げ足が速いから、という訳では必ずしも無いようです。豚の名誉のために一言。


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