沢水困  ーー坎下、兌上
「臥薪嘗胆の時。水漏れする容器。」
沢に水の無い状態のように、それぞれところを得ず、故に困難窮まるとき。
陰が陽を覆い、小人が君子を覆うように、正論が通らず、自分は正しくても艱難辛苦を強いられる。禍や障害の多い時。隠忍自重、時を待つこと。


常用字解(白川静)によれば、困という字は口の形の枠の中に木をはめて、出入りを止める門限のことで、門の出入りを禁止することから進退に「こまる、くるしむ」の意味となる、とあります。
また、木が囲われて自由に伸びることが出来ず苦しんでいる姿、という見方もあります。
いずれにしろ、自分の側の問題ではなく、誰かに邪魔をされて、或いは何かに邪魔をされて困難に陥り、進退に苦しむ状態です。
この卦は四大難卦の一つで、大変苦しく、何をしてもうまくいかない状況です。窮状を訴えても見苦しい思いをするだけです。我慢です。
(概説)
「願いごと」ーかなわず。時を待て。
「商ごと」ー不首尾。時を待つべし。
「相場」ー低迷。
「受験」ー不成績。
「病気」ー重症。養生し回復を待て。
「就職」ー当面望みなし。
「恋愛」ー反対多く不首尾。
「天気」ー悪い。
「旅行」ー災難の象。見合わすべし。
「開業」ー見合わすべし。
「転業、移転」ー見合わすべし。
「失物」ー出ず。
「方角」ー西、北。

「初爻変爻」の場合:
  困難に、つい何とかしようと動きたくなりますがうまくいきません。我慢です。

「二爻変爻」の場合:
  なかなか困難な状態から抜け出せません。酒でも飲んでいるうちに状況が好転するかもしれません。

「三爻変爻」の場合:
  進むに進めず、止まることも出来ず、とにかく苦しい時です。何とかこれより悪くならない様にするだけです。

「四爻変爻」の場合:
  好転したように思えても安心出来ません。まだまだ状況は甘く有りません。

「五爻変爻」の場合:
  危険は有りますが困難な状況打開の為の方策を講じるときです。

「六爻変爻」の場合:
  行動して悔いることが有っても行動することで脱出できるでしょう。


困は享る。貞なれば大人は吉にして咎め無し。云うこと有るも信ぜられず。

彖に曰く、困は剛おおわるるなり。険をもってよろこび、苦しみてそのとおるところを失わず、それただ君子のみか。
貞なれば大人は吉とは、剛中をもってなり。云うこと有るも信ぜられずとは、口をたっとべばすなはち窮すなり

象に曰く、沢の水無きは困なり。君子はもって命を致し志を遂ぐ。

初六。臀株木(しゅぼく)に困(くる)しむ。幽谷に入りて、三歳までみず。
   象に曰く、幽谷に入るとは、幽にして明らかならざればなり。
九二。酒食(しゅし)に困しむ。朱ふつまさに来たらんとす。もって享祀するに利(よ)ろし。征(ゆ)くときは凶なり。咎なし。
   象に曰く、酒食に困しむとは、中にして慶(よろこび)あるなり。
六三。石に困しみ、しつりに拠(よ)る。その宮に入りて、その妻を見ず。凶なり。
  象に曰く、しつりに拠るときは、剛に乗るなり。その宮に入りて、その妻を見ずとは、不祥なるなり。
九四。来ること徐徐たり。金車に困しむ。吝なれども終りあり。
   象に曰く、来ること徐徐たりとは、志下にあるなり。位に当たらずといえども、与(くみ)するものあるなり。
九五。鼻切られ足切られ、赤ふつに困しむ。すなはち徐(おもむろ)に説(よろこび)あり。もって祭祀するに利ろし。
   象に曰く、鼻切られ足切らるとは、志いまだ得ざるなり。すなはち徐に説ありとは、中直なるをもってなり。
   もって祭祀するに利ろしとは、福を受くるなり。
上六。葛るいにげつごつに困しむ。ここに動けば悔あり。悔ゆることありて征けば吉なり。
   象に曰く、葛るいに困しむとは、いまだ当たらざるなり。動けば悔あり、悔ゆることあれば吉なりとは、行けばなり。


(解説)
「剛覆わるるなり。言うことあるも信ぜられず。口を尚(たっと)べばすなはち窮するなり。」
能力の有るものが馬鹿どもの陰謀に邪魔されているのです。正義が邪悪に覆われているのです。あなたが悪い訳ではないのです。こんなとき、いくら正論を叫んでも通らず、ますます窮地に陥るだけです。頼りと思っていたものも味方になってくれません。しばらくは臥薪嘗胆、じっと我慢するしかありません。でも、あなたにはそれしか道はないのか。

「「かつるい」に「げつごつ」に苦しむ。ここに動けば悔い有り。悔いることありて行けば吉なり。」 「かつるい(刺だらけの蔓草)」にからまれ、「げつごつ(心臓がギイギイ泣くほど)」に苦しんでいる状態です。動けば傷だらけになる。しかしここでじっとしたままくたばってしまうのは、敵の思う壷です。あなたは、こうなった経緯を反省し、冷静に状況判断をした上で、ダイ・ハードの主人公の如く、少々の怪我は覚悟の上で、いや腕一本位は失う覚悟で、敢然と脱出するのです。そうすれば窮地は開けます。しかし、あなたに出来ますかな?

「困(くる)しみてその亭(とお)るところを失わざるは、ただ君子のみか。」
困難の中にあっても、正しい道を踏み外さずに進むことが出来るのは、君子だけではないかと、易には書かれています。


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