【麻生内閣発足】

◎鳩山総務相と首相秘書官

 麻生太郎内閣が発足した。新首相が自ら閣僚名簿を発表し、選任の理由を簡単だがコメントした。異例の演出である。
 「今は平時ではない」。麻生首相はこう言った。「有事の宰相」と言うわけだが、内政、外交で難問が山積している。満足に施政もできない、その能力もない首相が、あたかも政治ゲームで突然登場・退場したこの2年だ。辞め方が、およそ民主国家とは言いがたいこんな内閣を演出したのは、自公連立政治そのものである。
 食の安全を根底から脅かした汚染米の流通、厚生年金の算定基準となる標準報酬月額を組織ぐるみで改ざんしたとしか言いようのない社会保険庁の新たな疑惑、後期高齢者医療制度の見直しといった内政の重要課題は、皮肉なことに「国民の目線での政治」を掲げた福田前首相の退陣表明後に表れたし、国際金融不安をさらに倍化させた米大手証券リーマン・ブラザーズの経営破たんも、福田氏の退陣表明を見透かしたように世界経済を震撼させた。

麻生首相が言うごとく、まさに「有事」である。
 ひな祭りの「冠者」ではない、と自ら閣僚人選の背景を説明した新首相の気負いは並みではない。そして、政敵の小沢民主党に対しては真正面から宣戦布告した。恒例の新大臣の抱負開陳も「総選挙モード」一色だった。
 だが、閣僚の顔ぶれはあまり評判は良くないようだ。総裁選の「論功行賞」だとか、仲良しを集めたとかといった具合だ。派閥の領袖さえも口を挟めなかった人事が、森元首相の一言で差し替えられた。派閥のボスの復活だが、弱小派閥の麻生派の弱みを浮き彫りにした。
 閣僚人事の中で総務相人事がどうなるか注目していたが、ふたを開けてみれば鳩山邦夫元法相の就任だった。「アルカイダの知人」「死刑執行」など、鳩山氏の法相在任中の言動は何度も物議を醸した。
 分権問題の専門家である増田前総務相から事務を引き継いだ鳩山氏は、道州制に積極的に取り組む意向を強調した。「分権の専門家から素人の私が引き継いだ」と語ったとおり、鳩山氏と分権問題をつなぐ糸は見つからない。分権改革は明日の国家像を描く大きな政治テーマであることを考えると、総務相人事の裏に何があったのか知りたい。

分権改革の指揮官に鳩山氏が就いたことへの不安は、総務省にも全国知事会など地方6団体にもある。鳩山氏の就任は、首相が鳩山氏の「政治力」を見込んでのこととも思えるが、全国の自治体の利害が錯綜する分権問題は、大臣に基本的な問題意識がなければ、逆に混乱に拍車をかけるだけだ。
 麻生首相は2003年秋から丸2年間、小泉内閣で総務相を務め、三位一体改革の下地をつくった。分権改革の難しさを体験している。ただでさえ激務の首相が、分権改革を自らのリーダーシップで展望を開くとは考えにくい。
 ただ「おやっ」と思ったのは、首相秘書官の数を1人増やし総務省から岡本全勝官房審議官を充てたことだ。財務、外務、経済産業、警察庁の4省庁の秘書官体制が崩してのスタッフ陣の強化である。
 岡本秘書官は、麻生氏が総務相時代に官房総務課長として三位一体改革の原案をつくり、麻生氏との関係を強めている。つまり、首相官邸に分権改革の専門家を常駐させた意味は小さくない。分権改革を鳩山総務相に任せっきりにはしない強い意思を示したということである。

解散・総選挙のシナリオが幾つか挙がっているが、早期解散は避け難い情勢だ。麻生内閣がどんな仕事をするのか見極めることは現状では難しい。ということは、霞が関官僚の「本気度」を量ることもできない。
 時局の重大さが声高に言われる一方で、懸案を置き去りにした政局の大きなうねりが動き出している。演出に惑わされない政治の変革が、今求められている。

08926日)