【在日米軍再編と自治体】
◎問題の本質隠した再編交付金
在日米軍再編問題が現実となった4年前、それまで基地問題といえば沖縄に集約された「地域的な問題」というのが、国民の安全保障問題での認識だった。
36年前の沖縄返還取材を経験して言えるのは、「基地の島」の実態は本質的に少しも変化がないということである。
基地問題は明らかに「地方自治」を問うのだが、自治の面から基地問題を論ずることはあまりない。在日米軍再編は国民に基地問題が身近な問題であることを知らしめたのだが、自治との関係で問題に向き合う自治体はあまりない。
逆に、国との関係で「現実的」な対応を志向する首長が多いようだ。
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米軍再編はブッシュ政権が発足して以来の世界的な規模での米軍の変革・再編計画であり、在日米軍についてもその一翼を担う東アジア、極東の核となる軍事機能の再配置という位置付けである。
沖縄には在日米軍の75%が駐留する、文字通り「太平洋の要石」だ。1996年4月の日米両国首脳による日米安保条約の再定義は、日米同盟を世界的規模での展開、機動力としての戦略的同盟関係に格上げした。
ところが、日米の防衛協力が緊密化する一方で、基地の島沖縄は、米軍に関係する地元住民が巻き込まれる事件・事故が相次ぐ現実があった。
住民が基地被害に泣く基地負担の軽減策として基地問題の象徴となっていた普天間飛行場の返還が日米間で合意した背景の一つに、そんな沖縄の実態があったのである。
在日米軍再編は、普天間返還と極東最大の米空軍基地の嘉手納飛行場の航空兵力を本土各地に移転することを柱とする。
再編対象とされた自治体はいずれも強く反発したが、政府が用意した再編交付金というカネと沖縄の基地負担を軽減するという説得が効を奏し、大部分の自治体は再編計画を受け入れた。
政府の再編交付金は、財政難にあえぐ自治体の心を揺さぶった。
米艦載機の移駐に反発した山口県岩国市の当時の市長が辞任、再選挙に臨んだが結局保守系の新人に負けた。岩国市の場合は米軍再編とは直接関係ない市庁舎建設の補助金が凍結され、地域振興にも影響が表れたとして、再編受け入れに前向きな現市長が当選した。
去る7月、神奈川県座間市が「在日米軍再編反対」から容認に転じた。これで、再編に関連する全国39市町村全部が再編を容認したことになる。政府はこれを受けて、凍結していた再編交付金の支給を決めている。
容認した市長は近く任期を終え引退する意向を表明している。市長から再編交付金への言及はないが、これまでの強硬な反対を変えたのは、既にキャンプ座間に米ワシントン州から陸軍第一軍団司令部が移駐済みであり、既成事実を前に市政の混乱を避けるため自分の任期中に決着させたということだろう。
ところで、再編問題の中心となる普天間飛行場の返還・移設は、沖縄県と政府の言い分が解け合わず解決の見通しが立っていない。
米海兵隊基地のキャンプ・シュワブがある名護市・辺野古崎をまたぐ「V字型」滑走路の建設計画は、沖縄県側が建設場所を海上に移動すべきだと主張、政府は日米合意を盾に移動は困難との考えで対立したままだ。
座間市の方針転換で、形の上では再編に関連する全自治体の了承をえたことになるが、再編の内実は普天間問題に見られるように、政府と地元の溝は深まるばかりだ。
万一、政府と沖縄県の調整が不調に終わるようだと、再編問題の前提がぐらつき日米間の深刻な外交問題となる可能性も高い。
在日米軍の再編問題は、安全保障という国家的な問題と地方自治体の自立的な行政の兼ね合いを問う問題でもある。
極めて国家的なテーマの外交・防衛問題が、再編交付金の「凍結」「支給」という本筋とは言えない手法で自治体の現実路線を引き出しているとすれば、国のあり方そのものが厳しく問われなければならない。
同時に、基地問題を直視してこなかった自治体も、基地と住民の関係を新たに行政の軸に据えて対応する必要に迫られるだろう。
それ故、住民自治の観点から基地問題に向き合い、政府に物言う存在へ自己改革が必要になる。
在日米軍基地と地域住民の関係は、問題処理を日米地位協定で住民の意思と無関係に日米両政府が方向付けすることがあってはならない。
基地問題での不必要な「対米配慮」は、沖縄での「基地公害」を再現することになることを忘れてはならない。
(08年8月9日)