【サミット閉幕】

G8の時代は終わった

 喧騒のうちに洞爺湖サミットが終わった。
 サミット取材の経験があるせいか、私も何となく取材の渦中にあるような気がした3日間だった。現場で直接取材に当たった記者たちは、さぞ苦労が多い取材だったことだろうと思っている。
 今回のサミットほど、重大な課題がそろった首脳会議はなかった。地球温暖化、原油、食糧は、どれ一つを取っても世界的規模での緊急課題だ。「横綱級」のテーマに加えて、毎年討議議題となる「世界経済」「南北問題」も俎上に上げられたのだが、これらも緊急課題と切り離すことができなかった。
 こんな重大な問題を引っさげたサミットだったが、終わってみれば問題の難しさを共有するだけで終わってしまった。

 サミットの構成メンバーである8カ国(G8)の首脳宣言は、最大の難問だった「地球温暖化」対策で2050年までに世界全体の温室効果ガス排出量を50%削減することを全世界に求めるとした。
 ところが、中国やインド、オーストラリアなど主要排出国(MEM)を加えた宣言では数値目標は消え、今後「世界全体の長期目標を採択することが望ましい」とするにとどまった。
 「第3次石油危機」とも言われる原油価格の暴騰は、穀物価格の高騰と連動している。産油国が増産を打ち出したところで、投機筋を抑制することができない現状に、各首脳は省エネや新エネルギーの開発が大事だと言うだけだった。
 鬼っ子のような投機筋を押さえ込もうにも、市場を動かすのは至難の業だ。
 バイオエネルギー推進路線を高らかに宣言した米国のエネルギー戦略で堰を切った原油、穀物問題の混迷は、サミットをあざ笑うがごとく独り歩きしているのである。

今回のサミットは、G8だけで問題解決ができず、MEM諸国やアフリカ各国がオブザーバーとして参加した。アフリカ諸国にとって食糧問題は深刻だ。ところが、先進各国は「今日明日」の食糧不足に明確に応えられない。
 温室効果ガスについても、新興国や発展途上国は産業革命以来の先進国の責任を問う。大量の温室効果ガスを排出する先進国が、排出抑制を求めても、途上国からすれば、まず率先して削減すべきは先進各国と反論するから、もとより合意などできるはずもない。
 サミットが成功だったか、あるいはそうではなかったかの鍵を握るのは開催国、つまり今回の議長国日本の福田首相の指導力、説得力、調整力だった。
 多岐にわたる問題の難しさはあるとしても、首相の懸命な働きにもかかわらず、各国が自国の利益を優先させるバラバラな結論だった。議長声明を読んでも問題の共通認識はわかるし、各国首脳の評価も決して低くはない。
 だが、そのことは裏を返せば具体的な目標がなかったことの表れでもある。

北朝鮮による拉致被害について議長総括は初めて「拉致」を盛り込み、速やかな行動を要請した。
 拉致問題の深刻さを考えれば当然なのだが、米国はサミットに先立って、北朝鮮に押していた「テロ支援国家」の烙印を外す決定を下し、北朝鮮問題をめぐる6カ国協議も米朝の雪解けが感じられる。
 政権末期のブッシュ大統領の実績づくりであることは疑いようもない。
 「拉致問題は決して忘れたわけではない」と大統領が釈明しても、拉致被害家族は誰一人信用していない。逆に米政府の裏切りをなじっている。

 この「拉致」と「温室効果ガスの排出規制」に微妙な関係が見えるような気がする。
 米国は、温室効果ガス排出の数値目標に最後まで強硬に反対した。その米国が歩み寄ったあいまいな首脳宣言と議長総括に盛られた「拉致」の文言に、日米の取り引きがあったと見ることもできないわけではない。

08711日)