【世相】

◎懲りない業者がまた現れた

 強欲と商道徳のなさを、またも見せ付けられた。
 ブランド牛の飛騨牛の表示と中国産ウナギの産地偽装事件である。倒産してしまったが、飛騨牛を騙った高級料亭「船場吉兆」、普通の地鶏を比内鶏と偽った秋田県の食肉業者の話は、ついこの前の事件である。

 昨年暮れ、2007年の世相を表す漢字は「偽」だと「亥年を振り返る」に書いた。
 北海道の「ひき肉」「白い恋人」、そして三重県の「赤福」、船場吉兆。いずれも手広く商売をし、旅行客には格好の土産品としても人気があった。
 食品大手、老舗の偽装があれほど問題になったことを目の当たりにしながら、飛騨牛、中国産ウナギの偽装事件が行われていたのだ。

 大阪の水産物販売会社などが中国産ウナギを「愛知県三河一色産」と偽って販売していたウナギ偽装は、中国産の毒ギョウザ事件で売れなくなった大量の在庫を処分するために、取引業者に数千万円もの現金を渡して「口止め」をしようとした、悪質極まりないやり口である。
 残念ながら、昨年暮れに心配したとおり「偽」は今年も続いているということだ。興味のある方は【亥年を振り返る】「そんなの関係ねぇ」では困る(「エッセー・雑感」)を読み返すようお薦めする。

 なぜ、こんなに「偽」が横行するのだろう。商道徳が地に堕ちてしまったとまで言い切ることもできないが、消費者が手軽さ、値段の安さを求めることをいいことに、「安かろう・悪かろう」を何のてらいもなくやってしまう始末の悪い業者が一部いるということだ。良心的な業者が多数いることを信じたい。
 安い輸入野菜や食材がなくてはならないほど私たちの食生活に「輸入もの」が入り込んでいる。それなくしては商売ができないと業者は訴え、家庭の食生活も輸入食材に頼り切ったような現状に対する反省がようやく聞かれるようになった。
 安心して口にできるのは、やはり地元で取れた食材だ。
 「地産地消」に消費者の関心が高まったのは、皮肉にも「安くて便利な中国製のギョウザ」への恐怖からだが、食に対する安心安全が、自らの生活スタイルへの教訓だったことをよくよく考えたらどうだろうか。


 世界の穀物高騰の影響が原油価格の暴騰と相まって私たちの生活を脅かし始めている。
 日本の食料自給率の低さが真剣に考えられるようになったのも、元はといえば「国内でつくらなくても、安く輸入できるものは輸入すればいい」といった安易な考えが、消費者だけでなく行政の責任者の頭にあったからだ。
 カネで何でも買えると思うほど能天気なことはない。買おうと思っても買えなくなる、値段は高くなる一方では、一番困るのは無資源国の日本であることは目に見えている。
 飽食を反省し、食べ残して捨てられる膨大な量の食い残しに無神経な生活スタイルは、どこかで必ず破綻する。50代以上の年代なら誰もが経験した物不足、空腹は、今では「死語」である。

世界的な食糧争奪は始まっている。資源に限りのあるエネルギー、食料、水は戦略商品として位置づけられている。政治や行政に頼るまでもなく、個人ができることをやるべき時期にきている。

08627日)