【アメだけで有権者は動かない】

◎反省を忘れた政府、与党=山口2区補選


(注)「政治と行政」兼用

 4月27日投開票された衆院山口2区の補欠選挙は、民主党の平岡秀夫氏が、自民新顔で公明が推薦した国交省OBの山本繁太郎氏を大差で下した。
 この補欠選挙は、日本の政治の現況を如実にあらわしたと言える。政治の現況とは、政治に課せられた国を治める理念ともいえる「経綸」が問われていることである。

 この補選が注目されたのは、「道路」「年金」問題で支持率が下りっぱなしの福田内閣が態勢立て直しができるかを占うと同時に、悪評高い後期高齢者医療制度で有権者がどのような判断を示すかかだった。
 福田内閣が発足して初の国政選挙となった補選は、「3点セット」の逆風が予想以上に強く自公の予想外の大敗となった。国民の不満を汲み上げることをしなかった政府、与党の政権運営に「ノー」を突き付けたのである。
 「消えた」「浮いた」年金をどうするのか。そして、デタラメの限りを尽くした道路特定財源を、性懲りもなく維持しようとした内閣と、これを支えた自民、公明両党の場当たり的な対応が白日の下にさらされた。
 福田首相は緊急記者会見で、道路特定財源を09年度から一般財源化すると表明(3月27日)したが、自民党執行部や道路族議員は「首相の考えを示しただけ」と、歯牙にも懸けない受け止めだった。
 仮にも、一国の首相が記者会見までして国民に約束した内容を、事もあろうに与党の幹部がそろいもそろって、水を掛けるような反応を見せることなどあり得ない話だ。
 自分たちが数を頼んで選んだ首相なのに、「使い捨て」とも思わせる自民党とは、一体どんな政党なのか。
 次々と明るみに出る特定財源の不正使用で道路問題に対する世論の反発が激しさを増し、さすがに与党執行部も首相の方針を了承することになった。
 ところが道路族は「白旗」を挙げたわけではない。「必要な道路は造る」ことを銘記させて道路整備事業の根幹を譲らない政府、与党合意をつくってしまった。
 つまり、現在の道路整備事業を少しは手直しするが、制度そのものは堅持するとした合意である。無駄遣いに大ナタを振るうことなくして何が改革かということだ。
 こんな場当たり的な対応に加えて国民、とりわけ高齢者の気持ちを逆なでしたのが「後期高齢者医療制度」である。

 これくらい悪材料がそろった山口2区の補欠選挙だ。「3点セット」を争点にしたら自公与党の推す山本氏に勝ち目がないことは分かりきっている。そこで政府、与党が持ち出したのが「地域振興」を前面に押し立てた「争点外し」である。
 山本氏は前内閣官房地域活性化統合事務局長だ。小泉改革以来、全国に広がった格差の解消と地域活性化を主導する官邸で政府の活性化策を取りまとめる実質的な指揮官。その山本氏が担ぎ出された。
 確かに官邸の地域活性化の指揮官を担ぎ出し、野党の攻勢をはぐらかす作戦に見えるが、山本氏の「本籍」は国交省だ。住宅局長を務めた大物官僚で道路特定財源と直接かかわりはないとはいえ、野党の攻撃材料になりやすい。
 そして、決定的だったのは国民の間に充満する国政不信の中で、中央直結の地域活性化を有権者に臆面もなく訴えたことだ。説得力などあろうはずがない。与党の矛盾である。
 国政不信と国主導の地域活性化を結びつける、現状認識のお粗末さを政府、与党は自覚できなかった。地元を喜ばせる「アメ」を用意すれば、地域活性化を求める声が集まってくると踏んだのか。あまりにも戦略なき戦いとしか言いようがない。
 
 山口2区の補選は、今年2月の岩国市長選に現職の自民党衆院議員が出たため、空白となった議席を争う選挙だ。在日米軍再編を巡って厚木基地(神奈川県)から岩国基地(山口県)への空母艦載機部隊の移転が争点となった市長選は、移転容認の新人が当選した。
 市長選は、米軍再編問題が争点だったが、同時に地域振興問題が陰の主役だった。移転に反対した前市長は僅差で敗れたが、結局は国の経済振興の誘導に負けたと言った方が正確だ。
 自民、公明が「岩国市長選の再現」ができなかったのは、有権者が国民の生活に直結する問題を考え、国政選挙では岩国市という限られた地域の首長選と違った選択をしたということだ。
 敗れた国交省OB官僚の山本氏は「有権者に説明する時間が足りなかった」と語ったが、問題は「時間のあるなし」ではない。
 国政への不信が有権者離れを起こしている現実に目を向けないで、地域振興という地元が飛びつきそうなアメをぶら下げて有権者の歓心を取り付けようという選挙技術が通用しなかったのは間違いない。自公の選挙戦術は、もはや、素人目にも下手な選挙だったとしか言いようがない。
(08年4月29日)