【タレント知事】

◎たかがタレント、されどタレント

(注)「政治と行政」兼用

東国原英夫知事の勢いはとまりそうもない。
 タレント時代の物腰の良さ、軽妙さを県政にいかんなく取り入れ、予想以上の活躍を続けているといって間違いない。好調な県産品の売れ行きはもとより、「知事に会いたいツアー」までが県庁に押し掛ける現象を誰が予想しただろうか。
 県民の支持率も東京・永田町がうらやむほどの驚異的な高さである。ある試算によると、宮崎を売り込む知事の経済効果は400億円を超えるし、間接効果を含めると、その倍近い金額になるというから驚きである。
 こんな元気ぶりを見せ付けられたので、強面(こわもて)の県議会も、知事就任当時は「お手並み拝見」とばかり悠長に構えていたが、いつまでもそんなわけにもいかなくなった。

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 こんな東国原人気を中央政界が放っておくはずはない。
 道路特定財源問題では、貧弱な地方道路の整備を訴える知事として、一般財源化を主張する民主党との公開討論に臨んだし、永田町政治の行き詰まりの打破を掲げて、21世紀臨調共同代表の北川正恭氏(早大大学院教授)らが首長学者、国会議員らに呼び掛けて設立した「せんたく」の世話人でもあった。
 「地方の声」をアピールするのに、これまで改革派知事らが勢ぞろいすることはあったが、行政経験が浅い東国原知事が並み居る知事を差し置いて国政の表舞台に立つのは、それだけ国民に訴える魅力的≠ネ存在だということである。

 最近、地方自治体の間で「東国原知事がうらやましい」という声が聞かれる。
 自治体の首長にとって最も気になる「人気」(支持率)は高いし、「地元の売り込み」も東国原の名前で労せずしてできてしまう。つまり、首長の頭からいつも離れない地域活性化を、いながらにしてできる。
 加えて、永田町には東国原人気にあやかろうとする政治家が少なくなし、官僚の牙城である霞が関での「顔」もよく利くのだから、「うらやましい」と思うのももっともだ。

だからといって、東国原知事と同じことが他の知事にできるわけではない。
 高級官僚出身、国政からの転出、地方政界出身など知事の出自は様々だが、行政や政治のプロができないことを東国原知事はやってしまう。プロができないことを、あっさり実践している。それを県民や国民が求めているのだとしたら、多くの知事はこれまで目が届かなかったのは何なのかを、嫌でも考えさせられてしまう。
 知事の仕事は激務である。庁内、県議会の仕事だけでなく外部からの陳情は引きも切らない。地方分権改革が動き出して以来、全国知事会議は頻繁に開かれるようになったし、それに向けた戦術・戦略の打ち合わせもあれば、ブロック会議もある。
 そんな激務の身にもかかわらず、昨年の東国原知事は在京の民放テレビキー局の番組に頻繁に出演していた。忙しい県政の合間をぬって宮崎を留守にするわけだから、スケジュールは超人的だったであろう。

東国原人気にあやかろうとする誘いは当分なくなりそうにない。今年初め、知事は1年目のような「PR行脚」を可能な限り抑えたいと言った。これまでのような分刻みのスケジュールを続けていては体がもたないだけでなく、県政のリーダーとしての仕事にも十分手が回らなくなる恐れがあるからだ。
 芸能タレントから知事になるのは珍しいことではないが、これまでは身の処し方に適切さを欠き短命で終わった知事がいた。
 世間の目は移ろいやすい。人気も支持率も、ちょっとしたきっかけで大きく動く。東国原知事といえども、油断は禁物である。

08413日)