【判官びいき】

◎東国原知事は役者だった

(「政治・行政」の15、16、17関連)

 宮崎県の東国原英夫知事は1年前の就任以来、タレント時代の知名度を生かして県産品のトップセールスで各地を走り回り、今ではスーパーでも地鶏など「宮崎産」が並ぶほどになっている。県庁に知事を訪ねる旅行企画もあるほどだから、「知事の犯罪」で張られた宮崎県の悪いイメージは払しょくされたと言っていいだろう。
 知事のイメージを全く変えた東国原氏は、腰が低く誰にでも愛嬌を振りまく。こんな知事の人気が低かろうはずはない。地元紙の世論調査で8割を超える支持率があるというから、全体主義国家の元首にも匹敵する。
 その東国原知事が、東京・紀尾井町のホテルで開かれた、道路特定財源の是非とガソリンの暫定税率を巡る民主党との公開討論に臨んだのだから、マスコミが放っておくはずもない。

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 東国原知事は、やっぱり「役者」だった。
 公開討論を仕掛けた民主党の菅直人代表代行の次に意見表明をした知事は、開口一番、「(この公開討論の)始まる時間も、話す時間も最初に言ってきたのと違う。私はインフラ(社会資本整備)の悪い宮崎から来るのだから(ころころ)変えないでほしい。信用できない」と先制パンチ。
 意見表明では、宮崎の社会資本がいかに貧弱であるかを、スクリーンに映し出した図表を見ながらまくし立てた。事前に聴衆に配った資料には「宮崎の道路をどげんかせんといかん!」とある。
 1年前の知事選に飛び入り立候補したときは、知事の犯罪で地に堕ちた宮崎を「どげんかせんといかん」と有権者に熱く訴え、大勝利を手にした。
 前々日の東京マラソンを完走したが、「公開討論のエネルギーは残してある」と民主党の論客菅代表代行に一歩も引かない構えで討論に臨んだ。
 公開討論に先立って菅氏は宮崎県の道路事情を視察している。「民主党はちゃんと現場を見て(道路財源問題の)モノを言っているのですか」と知事は牽制していた。
 東国原氏とやり合うには、宮崎の道路を見ていないでは済まない。駆け足の視察だったが、菅氏なりに問題意識を確認したのだろう。個別の道路をあれこれ言うことはなかったが、道路の必要性を認めた上で、「その決定がどうなされているか」を討論で指摘した。
 昨年暮れの「道路整備中期計画」の根拠が国交省の役人の思惑で決められ、さらに、高速道路整備の全体計画を決める「国幹会議」がセレモニー化している事実を挙げながら、「中期計画はずさん」と断罪した。

 菅氏は、さすがに政界きっての論客である。論理的で体系的な道路行政批判につけ込むスキがあるとすれば、具体的名を挙げての地方道をどうするかしかない。
 時間の制約はあったが、全国知事会の麻生会長(福岡県知事)も東国原知事も、道路特定財源が何にでも使える一般財源とされ、暫定税率が廃止されると地方財政に深刻な影響が表れると数字を示して反論するにとどまった。
 伏魔殿とも称される国交省を頂点とした道路機関の実態は、国民にはとうてい分かるはずもない。菅氏は、それこそがメスを入れなければならない病巣だという。それを抜きに、道路整備の透明化は不可能だと言った。

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 私は最前列で公開討論を聞いた。
 討論の最後に司会者から「どちらが勝ったと思うか」と問われた東国原氏は「5分5分」とし、民主党に対する不信感は取れなかったと感想を語った。
 同日の民主党の道路論は菅氏に加えて、逢坂誠二氏(衆院議員)も首長(北海道ニセコ町)経験を踏まえた見解を紹介しながら論戦に加わった。逢坂氏は地方分権改革の実践者として「改革派町長」として知られている。
 公開討論の勝ち負けを言う意味はあまりない。感想を交えて言うならば、民主党側は麻生、東国原両氏の問いに政治・行政論で応えた。両知事をあまり刺激しないよう受け答えしながら、現行の道路行政の仕組みの問題点が具体的に示した。
 当事者を別にすれば、討論の説得力は民主党側にあったと思う。
 そんな感想を持って、同日夕から夜のテレビニュースでどんな扱いになるのか興味を持って見た。

 ところが、民間テレビ局のニュースは私の印象とは逆で、両知事の意見に菅氏らが防戦一方になっているような構成になっていた。
 2時間近くに及んだ公開討論、記者会見をごく短いニュースに編集するのだから仕方がない面はあるが、テレビニュースの主役は、やはり東国原知事だった、ということである。
 野党とはいえ、ねじれ国会のプレーヤーの菅氏が公開討論の主役になったのでは、興味が半減する。やはり、民主党の論客を相手に立ち回り「追及」する。対する菅氏らは「釈明」に追われる。そんな形の方が「ニュース性」があるとの判断があったのかもしれない。
 ニュース報道を、そのように引きつける「何か」が東国原氏は持っている。1年生知事がベテラン政治家をやり込める、そんな「判官びいき」感覚は、報道の世界では珍しくない。
(08年2月23日)

民主党との公開討論で宮崎県の道路整備の悪さを説明する東国原知事(08年2月19日、東京・紀尾井町のホテル)