【「道路」か「ガソリン」か】

◎場当たり政治は国民の信を失う

【注】「政治と行政」の「ガソリン税率」参照

「道路」か「ガソリン」か―の道路特定財源を巡る与野党の攻防は、地方を巻き込んで熱くなる一方だ。
 「100ドル原油」は少しばかり値を戻したが、原油価格の高騰は次第に生活物資の値上げとなって国民生活に押し寄せている。手軽に使えたマイカーも、最近ではガソリン価格が気になってきた。
 そんな中で道路特定財源のガソリン価格の暫定税率(1リットル当たり約25円、軽油は約17円)をどうするかが攻防の始まりだ。

 現在、ガソリン価格は1リットル150円前後で推移している。暫定税率を外せば、125円だから自家用車族は大歓迎だ。バス、トラック、タクシー業界も値上げは客離れにつながる。産業界は、総じて値下げ歓迎と言っていい。
 ところが行政は暫定税率の維持、継続に躍起になっている。暫定税率が導入されて30年余だ。道路整備を加速させるため設けられた措置が、繰り返し繰り返し延長されてきた。
 なぜ、そんなことになっているのか説明が全くない。ただひたすら、廃止すると道路整備ができなくなるという泣き言である。
 さらに、暫定措置は他の税制改正とまとめて1本の法案になっているので、道路財源だけでなく国民生活に関わるほかの税制も巻き添えにしてしまう、と脅しにも似た言い方をしている。
 4月からの08年度政府予算の見込みだと、道路特定財源の総額は5兆4000億円。このうち、2兆6000億円(国分が1兆7000億円、地方分が9000億円)が暫定税率によって得られる税収。もし暫定措置が廃止されると、その分だけ穴があく計算になる。

 通常国会が開会、福田首相の施政方針演説に対する各党の代表質問が行われた今月21日、全国知事会など地方6団体は暫定税率の廃止に反対する緊急の共同声明を発表。首相官邸で行われた「国・地方の定期意見交換会」でも、税制改正法案の年度内成立に向けて一致協力することを確認した。
 この日以降、地方自治体は知事、市町村長らが次々と記者会見をしたり、期待した税収が減少した場合のシミュレーションを公表したりして、道路整備事業が事実上ストップしかねないと危機感を訴えた。
 立ち上がったのは自治体だけではない。地方議員らが道路特定財源の堅持を求めて東京・永田町で総決起大会を開き気勢を上げた。
 地方自治体や地方議会は「暫定税率が廃止されると道路整備は進まず、地方財政にも重大な影響を及ぼす」として、「値下げより道路」を訴えている。

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 ところで、この道路特定財源問題が思わぬ行政と政治の裏をさらけ出してしまった。
 財源の一部が国交省職員の宿舎建設費やレクリエーション用具の購入費に充てていたことだ。同省は24日に「法律に基づいた適正な支出」と説明、冬柴国交相も翌日の記者会見で「問題ない」発言した。
 ところが25日夜になって同省の事務次官が突然会見、レクリエーション費の支出をやめる、宿舎建設も新規については厳しく抑制すると訂正した。
 道路財源問題が燃え盛っている最中に、冬柴国交相が平然と「問題ない」と記者団に語っているテレビ映像を見たとき、直感的に事務方(官僚)の「仕掛け」を感じた。冬柴氏は連立与党の公明党の大幹部だ。しかも、自民党の「独走」をたしなめるのが公明党に期待される役割なのに、その気配は少しもなかった。
 道路整備を管轄する担当相だから国交省の肩を持つのは分かる。しかし、暫定税率が問題になっているこの時期に、職員のレクリエーションや宿舎建設に道路財源の一部とはいえ充てるのは「適正な支出」「問題ない」と片付けていいものか。いかにも「お上意識」であり、流行の若者言葉で言えば、「KY」(空気が読めない)である。
 それで、「これはまずい」となって、訂正会見となったのである。

公明党はかつての宗教色が強かったころに比べれば、国民政党としての性格がにじみ出るようになった。選挙でもそれは証明されている。
 ところが、連立与党を組むようになってからの同党の動きに納得できない有権者が増えている。先の参院選の大敗は、公明党創設以来の厳しい審判だったはずだ。
 官僚にとって政治家は、「気前のよい理解者」であることが「いい大臣」ということになっている。官僚が敷いたレールを文句も言わずに進んでいけば、官僚との間に波風は立たないし大臣任期をまっとうできる。
 中央官庁の事情を知っていれば、国交相の発言を訂正する事務次官の記者会見の隠れた意味は直ぐ分かるが、一般の国民から見れば、不思議な出来事と思ってしまうだろう。
  大臣の在任期間は、長くても2−3年。そのうち内閣改造が行われ新しい政治家が就く。官僚は、やりにくくてもその間を我慢すれば事は済む。こんなことは、永田町でも霞が関では常識と言っていい。

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 話題を替える。
 道路特定財源の暫定税率は「地域のために維持」、と福田首相は国会で答弁した。高速ネットワークから外れ、生活道路の整備も十分でない地域は確かに多い。暫定税率の維持はそんな地域も対象にしたはずなのだが、振り返ると幹線道路の整備が優先されている。
 自民、公明の与党は先の参院選で地方の強烈なしっぺ返しに遭った。いわゆる、地方の反乱である。地方自治体を、そして地方議会を動員して行った道路財源確保の一大キャンペーンにも似た世論対策は、参院選のトラウマから抜けきれないでいる表れだ。
 国会の状況次第では、総選挙が早まる可能性は否定できない。「地方のための道路整備」と党を挙げて言っているのも、どこか選挙対策の気配が漂ってくる。

 ところで、暫定税率賛成、反対の熱い論戦の後ろで、国民がどんな考えを持っているか、当の自治体も地方議員もはっきりつかめないという。国民は冷静に事の成り行きを見守っていることを忘れてはならない。(
08128日)