【そのまんま東知事への手紙】

●拝啓 東国原英夫知事殿


 知事就任以来のお忙しい日程を連日テレビ、新聞で拝見しております。忙しさには慣れたお体だとは思いますが、地方行政という公務は「衆人監視」の下ですから、精神的には相当のプレッシャーではないでしょうか。
 これからは、未知の地方行政を歩む毎日となるでしょう。長い間、地方分権に関与してきた経験を踏まえて、何がしかの参考、お役に立てるのではないかと考え、手紙を書きました。
 知事選での2人の官僚出身を相手にした戦いは、口では言えない程の苦しさがあったと思います。しかし結果は、有権者がどれだけ新宮崎を考えていたかを浮き彫りにしました。失礼ながら、新知事への期待は、ご自分が考えていた以上のものではなかったのではないでしょうか。
 県民が東国原知事に託したのは、自分たちの生活、生き方が裏切られないような開かれた県政です。
 行政に携わるものは、仕組みや慣習を重視するあまり、変化に対しては消極的です。
「前例がない」。行政が実情に合わないと陳情しに行った県民が、県庁職員のこんな言葉を聞くのは珍しくもありません。
 マスコミ界に籍を置く立場から言えば、幹部を含めて県庁職員は東国原知事の「お手並みを拝見」と冷めた目で見ていることは明確だし、オール野党の県議会も同じです。
 選挙が終わってしまえば、目の前に現われるのは現実だけです。知事室には毎日、幹部職員が報告や決済を求めて列をなすでしょう。各種団体の代表からの陳情も続くと思います。
 報告に来たり判断を求める部下の話を真剣に聞くことはもちろん必要です。が、部下は法律や条例を参考にしたり、国の方針、考えを並べながら、知らず知らずのうちに慣例にのっとった応えを引き出そうとします。
住民の陳情にも、いつもいい顔だけをするわけにはいきません。業界代表への対応は、よくよく注意しなければなりません。
 地方行政の難しさは、地方分権が叫ばれながら国の干渉は相変わらずだし、住民自身も必ずしも分権・自治をわが事としていないことです。意識の高い住民は少なくありませんが、まだまだ「長いものには巻かれろ」式の考えが残っています。
行政のテクニックは少しずつ慣れると思いますが、県庁に対する県民の目です。県民にとって県庁は「お上」です。国の役人より県の役人の方が頭が固い、と見られるのは、県が国に分権を求めている現状を考えると矛盾するようですが、これが現実です。国よりも県庁の方が権威的だ、厳しい目で見ています。
 そのことはジャーナリストとして、いつも感じていることです。
 就任直後から鳥インフルエンザに振り回されていることは、天の配剤とお考えになってはいかがでしょうか。
 宮崎の知事選に限らず、これまでの選挙は「行政経験の豊富な人物」として、何の疑問もなく地元とかかわりのある官僚を担いできました。
 その、相も変わらぬ「中央、霞が関信仰」が間違いだったことは、相次いだ官製談合を見れば明快です。宮崎の場合は、県職員として頂上を極めた前知事の驕りが極まったと言えるでしょう。
 地方行政は住民と身近なだけ、国政よりも難しい分野です。かといって、いたずらに複雑な行政の仕組みを金科玉条とする職員の敷くレールに乗ることは、自分を見失うことになりかねません。「行政の常識」という得体の知れない化け物に振り回されないで、「県民が住民が何を求めているか」を原点に据えるようにしてください。
 12年前の東京都知事選、大阪府知事選でそれぞれ青島幸男、横山ノック氏が当選し、「青島現象」「ノック現象」と騒がれました。今回は「そのまんま現象」です。
 12年前とは政治状況も社会状況も全く違います。「そのまんま現象」が新しい地方をつくる潮流になるよう期待しています。(07年1月29日)