【限界集落】

◎水源の里の苦衷を心に刻め

 65歳以上の高齢者が住民の半数を超える集落を想像してみたことがあるだろうか。「日本のふるさと」を描いた原田泰治さんの絵は、消えゆく古里の情景と人々の暮らしを描いている。日本の原風景に心を和ませる人は多い。その古里に消滅の影が忍び寄っている。

 全国1800余の市町村のうち、過疎地域自立促進特別措置法が定める過疎地域に指定されている775市町村を対象とした国土交通省の調査によると、65歳以上の高齢者が半数を超える「限界集落」は7873集落あり、その3分の1が消えてなくなる恐れがあるという。
 そんな集落を抱える市町村の首長や地域の代表が東京に集まって、集落の再生を訴える集会を開いた。集会は「全国水源の里連絡協議会」の設立総会である。

 「水源の里」は、文字通り山奥・中山間地で清流を守りながら下流域の都市生活に欠かせない「水」を供給してきた。その水源の地が高齢化の波に押し流されるように疲弊、集落の存亡の危機に瀕している。敢えて「限界集落」とは言わなかったのは、刺激的な言葉を使うよりも、より多くの国民に水源の大切さを訴える気持ちを込めてのことだ。

 協議会設立に奔走した京都府綾部市の四方八洲男(しかた・やすお)市長は、会場となった東京・永田町の都道府県会館に全国から駆けつけた91市町村の首長や担当者らに「自立」と「誇り」を持つよう訴えた。
 「ここに並んでいるペットボトルは、皆の水源の水を持ってきた。東京の水ではではない。今までは都市の人たちは私たちが守る水源のことを見て見ぬふりをしていたが、皆の努力で大きな関心を寄せるようになった。日本も捨てたものではない。我々に、決意と自立の精神があれば(この苦難は)乗り越えられる」

 総会参加者の事例報告は、水源の里の実相を浮き彫りにした。
 「葬式があると一つの家が消える」「地域が助け合って除雪していたが、人手がなく今はそれができず、買い物にも行けない」「集落が機能するよう努力しているが限界だ」
 総務省の調査でも、限界集落の「1人暮らし」は増える一方だ。助け合いにも限界があり、病気にでもなれば打つ手もなくなる。
 景気を謳歌する大企業がある一方で、中小企業の悲鳴は大きくなるばかり。巨大化する都市に隠れて、地方都市の不振は隠しようもないのが現実だ。「格差」が、いたるところで顕在化している。

 限界集落は、その格差が行き着くところまで行ってしまった状況を端的に示している。
 「もう時間がない。時間がたてば、それだけ集落が消滅する」。集会の各地の事例報告は悲痛にさえ聞こえる。
 総会が開かれた同じ日の30日、政府は地域活性化統合本部で地方再生戦略(いわゆる増田プラン)を決定した。その中に、地方再生を強力に推進するため、地方を@地方都市A農山漁村B人口が少ないうえ高齢者割合が高く、基礎的条件の厳しい集落―に3分類、支援策を省庁横断で進めることを決めた。Bが限界集落を対象にしたものである。

 水源の里が自然環境や国土の保全に果たしている役割は大きい。また、地球温暖化防止などの多面的機能を併せ持つ。さらに、近年関心が高まっている文化・伝統芸能の宝庫でもある。無資源国・日本にとって、水源はかけがえのない安寧と安全・安心をもたらしてくれる貴重な資源だ。「水と空気はただ」などと思わぬほうがいい。
 総会は最後に、活性化に取り組む市町村を支援する「水源の里再生交付金制度」の創設を国に求めることなどを決めた。
07122日)