【どうする消費税】

◎あいまいな提言には説得力がない

全国知事会に欠ける「政治論」

 霞が関と都道府県の関係を風刺画的に描くなら、「雲上」に住まう高級役人に陳情しようと天に上る階段に地方の役人が土産を手に列をなしている。

分権改革が動き出したあたりまでの霞が関の光景はこんな絵柄だった。
 霞が関とは、もちろん中央省庁が並ぶわが国の行政官庁の中心であり、そこで行政の針路を決める舵取りをする官僚群のことである。参考までに付け加えれば、「霞が関」と微妙な関係を持つ「永田町」は国政を司る中央政治の拠点である。
 こんな話を持ち出したのは、分権改革が曲がりなりにも時代の潮流となって第2ラウンドの改革期とされながら、このところ改革の前途が何だか怪しげな雲行きになってきていると感じるからだ。

 これまでも何度か指摘してきた。
 永田町と霞が関に、ある種の「分権疲れ」が表れ、これに全国知事会など地方6団体が知らず知らずのうちに巻き込まれ、分権の流れをおかしくしてしまっている、と。

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 地方団体のこうした底流が噴き出したのが、横浜市で開かれた全国知事会議(71718日)の議論だった。
 会議の焦点は地方消費税の取り扱い。厳しい自治体財政をやり繰りするのも限界にきている。知事会の本音としては消費税の地方の取り分を増やしたい、そのために消費税アップがなされたとしても仕方がない、である。
 議論は、明確な消費税アップを求める意見と消費者心理に配慮すべきとの意見がぶつかり合う熱い展開となった。
 だが、知事会議が採択した提言は「地方消費税の充実を求める」とのおとなしい言葉で収まった。
 ストレートな消費税アップの要求を控えたのは、さまざまな理由がある。

 住民の生活を預かる首長が、自治体の財政が苦しいから自由に使えるカネが欲しいと考えるのは皆同じだ。
 だが違うのは、住民に窮状を率直に訴え理解を得るべきだとする意見と、今の経済状況で税負担を問うのはいかにも「センシティブだ」と、消費税アップを直接的に打ち出すことに反対する意見に知事会内部が分かれたことだ。

ややこしいのは、「地方消費税の充実」と表現を軟らかくしたところで、現在の消費税5%のうち地方分の1%を増やすことは不可能だ。地方の取り分を増やすことは、消費税全体を引き上げることである。知事会の本音は別のところにあるということである。
 福田首相は先に「消費税引き上げやむなし」を言い出しながら、反響の大きさに前言を撤回し「23年先の話」と言い直した。いかにも、自身の発言の重みを考えない首相の政治哲学のなさだった。
 今の経済状況は、「不況下の物価高」だ。給料は上がらない、企業合理化は雇用情勢の悪化を招いている。そんな中で政府が、国民生活を直撃する消費税アップを言えるはずはない。ましてや、解散・総選挙に走り出した政局を見れば、「消費税」は禁句だ。
 だから、知事会の結論も「(消費税は)税制全体の抜本的改革の中で検討する」という、政府の方針の焼き直しの説明で終わってしまった。

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 これまでの知事会のやり方であれば、今回の消費税論議も提言の取りまとめで一件落着だった。ところが、今回は事情が違った。
 知事会の麻生渡会長(福岡県知事)は記者会見で
 「現在の消費税率5%の範囲の話ではない。消費税全体を増やすことを求めている」
 「日本は先進国の中でも消費税は低すぎだ。財政赤字を積み重ね、無理しすぎている」と明言している。
 消費税問題はなお、くすぶり続けているということである。
 知事会議の提言が穏便になったとはいえ、知事会の本心が揺らいだわけではないということなのだが、知事会の主張が「軟らかい表現」(麻生会長)にとどまったことのインパクトの弱さは否定できない。
 消費税アップの政治的メッセージを堂々と発すべきだ、とする強硬論者の松沢成文神奈川県知事の言い分は多くの賛同を得られなかった。だが、地方財政をここまで追い込んだ責任のかなりの部分を負わなければならない国への注文としては、提言はいかにも弱い。知事会の存在感、影響力にも響くことを肝に銘じた方がいい。

 万事、「しゃんしゃん大会」で終始したかつての知事会は、およそ住民と直接向き合う自治体の首長の集まりとは程遠い組織だった。
 その悪しき体質を変えたのが、地方の税財政を見直す「三位一体改革」が始まってからだ。知事会が「サロン」から「闘う組織」に変貌して、補助金廃止・見直しを直接求めるようになった。
 その「闘う組織」を「実績をかちとる知事会」に発展させようと公約して発足したのが、現在の「麻生知事会」である。
 この麻生知事会の路線を巡って横浜市で開いた全国知事会議が紛糾した。
 次回は、その問題を取り上げる。

08727日)