【地方分権改革推進要綱】

◎これで分権改革は大丈夫なのか

 地方分権改革推進委員会が福田首相への第一次勧告をまとめた528日、丹羽宇一郎委員長は記者会見で、前日、国家公務員制度基本法案の成立のめどが立ったことを引き合いに、「難しい問題だったが、福田首相の政治決断で決まった。首相はやってくれる」と語った。
 難航しながらまとめた勧告に、首相は政治判断で応えてくれるとの期待をにじませたものである。勧告を受け取った首相は「しっかりと受け止めて対処する」と、丹羽委員長をねぎらった。

 だが、政府の地方分権改革推進本部が決定した「地方分権改革推進要綱」は、分権委が期待したものとは言いにくい。
 確かに要綱は、「第一次勧告を最大限に尊重する」として勧告に盛られた幼稚園と保育所の機能を一緒にした「認定こども園制度」の抜本的な運用改善など37項目のうち28項目を勧告通り取り込んだ。
 しかし、分権委の求める地方への権限移譲に最後まで抵抗した国土交通省所管の直轄国道や1級河川については「原則として都道府県に移管する」としたが、移譲対象はいずれも「関係自治体と調整」、実施時期も「第二次勧告まで」にそれぞれ具体案を得ると先送りしている。つまり、国交省の検討に委ねたわけである。

要綱で勧告の内容が全く骨抜きになったのは農地転用の許可権限だ。農地の転用には農相の許可が要る。その権限を都道府県に移し、国との協議もやめるというの勧告の内容だった。
 ところが要綱は、にべもなく勧告の意図をかわした。分かりにくい官僚言葉だが記してみる。

「秋に予定されている農地制度改革で、農地転用許可のあり方について、国民への食料安定供給を旨とし、農地の保全確保を図るための国と自治体との合意形成プロセスの整備を含め、第一次勧告の方向により検討を行う」といった具合である。

この文面を読んで直ぐに意味が分かる人はまずいないだろう。どうにでも解釈できる典型的な官僚の文章である。「悪文」の見本と言っていい。
 要するに言わんとするのは、食料の安定供給と農地の保全確保を前提に秋の農地制度改革で論議するが、「食料確保は国の責任。地方には任せられない」ということだ。
 自民党の地方分権改革推進特命委員会が特に問題にしたのも農地転用許可権限の移譲だった。農水省や自民党農水族が言うように、農地は国でなければ守れないのか。その言い分を国民のどれほどの人たちが信ずるだろうか。
 耕作放棄地に見られる中山間地の疲弊が、場当たり的な農政がもたらした現実であることへの反省が少しも聞かれない。
 食料問題が差し迫っている現状を逆手に取って、農地転用許可権限を国の聖域とするなどは、高度経済成長期以降の食料・農業政策の失敗を棚に上げた暴論でしかない。

中山間地の疲弊が政策の失敗であることは論を俟たないが、それ以前に「農村対策」の欠如があることを忘れてはならない。農村対策とは、地域社会としての農村の位置付けがないまま、農作物の単なる「生産地」としてしか扱わなかった政治・行政の瑕疵と言えるかもしれない。
 農地の転用許可権限が都道府県に移譲されると、農水省や自民党農水族が懸念するような農地転用がないとは言えない。
 しかし、最近の世界的な食料問題は農作物を戦略物資として位置づけた。第一次産業が「復権」する兆しは表れているのである。戦略物資に気付きながら、工業用地や住宅地に無計画に転用するほど都道府県が場当たり行政を続けるとも思えない。

福田首相は分権改革推進要綱を決定した会合で、各閣僚に対して分権改革を強力に推進する具体的な制度設計ができるよう先頭に立ってもらいたい、と指示した。
 だが、この首相の指示がどれだけ効力があるか疑問だ。
 自民党族議員と結託した官庁の巻き返しを許してしまった要綱の柱が、勧告が狙った骨太な権限移譲に姿を変えるとは考えられない。
 要綱は政策に直結する。政府の地方分権改革推進本部は、来年秋の臨時国会へ提出する新分権一括法案の骨格となる「地方分権改革推進計画」を来年夏ごろまでに策定する。
 分権委はそれに向けて、この夏に国の出先機関の見直しを中心とした中間報告をまとめ、秋から来年春にかけて第二次、第三次勧告を提出する。要綱は、そのスタートを切った。

08622日)