【沖縄の道州制】

◎あなた任せの単独州はあり得ない

沖縄県内の有識者らによる「沖縄道州制懇話会」(座長・仲地博琉球大学教授)が仲井真弘多知事に提出した道州制に関する第一次提言(5月13日)は、沖縄の特殊な条件を示した上で、「特例型の単独州」を目指すべきだ、とした。
 特例型とは、例えば海洋境界にある沖縄の地理的な事情を考え、関税や出入国管理権など国境管理の権限移譲や基地負担の軽減、および基地返還跡地の利用に関して地域の自主的判断が可能になる仕組みとその権限移譲を指す。
 地方分権改革推進委員会が進めている事務事業の見直しの域を超えるものだが、関税や出入国管理は本土復帰前、琉球政府が実際に行った業務であり、基地問題に絡む仕組みの見直しは、いわば、「これなくして問題解決の前進はない」と長く国に求め続けてきた課題である。

道州制問題で、地理的、歴史的、文化的な特異性を背景にした「沖縄らしさ」を追求することは当然だが、提言は@理念・目的A事務権限の基本原則――について懇談会の考えをまとめただけで、それ以上の具体的な踏み込みはない。
 道州制移行に際しての国と地方の役割分担、税財政制度や道州議会のあり方、市町村の位置付け道州との関係といった肝心な問題は、今後の議論を経て、1年後の最終報告で提言するという。

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一昨年2月の第28次地方制度調査会の答申をきっかけに道州制論議は本格化した。
 自民党が道州制調査会の活動を活発化させ、党の態勢を調査会から推進本部に格上げした。近く、「限りなく連邦制に近い道州制」を盛った第3次中間報告をまとめる。
 道州制の導入をいち早く主張してきた経済界は、日本経団連が「道州制は究極の構造改革」と位置付け2015年の導入を提言している。
 そして、今年3月に出た政府のビジョン懇談会の中間報告は、中央集権体制の打破と「地域主権型道州制」(分権型国家)への転換を柱に据え、グローバル経済への対応を求めている。
 こうした中央の動きに呼応するように、北海道特区構想をはじめ、関西、中四国、九州各ブロックで経済界を中心にさまざまな「道州絵図」が描かれている。特に注目されるのは、関西地区の経済団体と自治体が連携した「関西広域機構」や九州地区の政財界の緊密な連携だ。

こうした流れに乗っていなかった沖縄県が、今回ようやくスターとラインについた。
 今回の提言だけで懇話会が目指す単独州の青写真を描くことはできないが、言わんとするのは、府県統合による広域行政の実現・効率化など行財政改革による国の将来像を目指す道州像ではないということである。
 独自の文化を謳歌した琉球王国の歴史や戦後の施政権分断による米軍統治といった、他都道府県にはない歴史的経験を、沖縄の地理的特性を生かして21世紀の新たな展望に役立てようとする狙いがある。

提言を一読して思い起こすのは沖縄県が1996年にまとめた、21世紀を展望したグランドデザインの「国際都市形成構想」だ。大幅な規制緩和と国からの権限移譲、そして、アジア交流圏の玄関口としての沖縄の地理的優位性を最大限に生かそうという構想は、沖縄を「特別自治区」と位置づけることができる画期的な内容だった。
 構想は基地問題が災いして日の目を見ることはなかったが、90年代半ばの地方分権改革の萌芽と軌を一にした先取的なグランドデザインだった。理念も目的も現在の道州制論議に重なる。
 懇話会が10年前の構想を念頭に置いて論議をしたかどうかは分からないが、提言の行間に国際都市形成構想の理念がにじみでている。
 2年前、超党派の沖縄県議会議員や首長、民間人が韓国・済州特別自治道を訪問した。済州島と付属の島嶼からなる済州道は一昨年7月、高度の自治権を与えられた特別自治道となった。沖縄県の国際都市形成構想が特別自治道の下敷きになったという。

沖縄県が単独州を目指すことは、仲井真知事の選挙公約でもあった。しかし、仲井真県政はこれまで道州制について具体的な内部討議をしていない。全国知事会の道州制論議でも沖縄県から、これといった発言は聞こえてこない。
 端的に言って、道州制に対する県の態度は腰が引けていた。分権改革でも沖縄から見るべき発言はなかった。
 道州制は分権改革の到達点であり、その位置付けに油断があってはいけないし、そのための中身も慎重に吟味されなければならない。
 沖縄県が消極的な理由はいくつか考えられる。
 沖縄振興策との絡みがあるかもしれない。基地問題で折衝する上で、自治問題を出しにくいのも確かなようだ。つまり、国との間で波風を立てず良好な関係を維持するために、独自色を出すことのマイナスをおもんばかっていることは間違いない。

その腰の重い沖縄県が道州制を直視せざるを得なくなったのは、前述したように道州制論議が本格化した流れに乗り遅れまいとする危機感が働いたからだ。
 確かに第28次地制調の答申で示された区割り案は、いずれも沖縄を単独州としているが、政府のビジョン懇首脳は沖縄を単独と位置づける考えに否定的だ。自民党の推進本部幹部も沖縄の位置付けを日米安保問題の枠内でしか考えていない。
 道州制論議は今年から来年にかけて大筋の方向付けが決まる。
 公約を掲げた知事が動こうとしないことに業を煮やした地元経済界や議会、首長、学識経験者らが語り合って昨年8月設立したのが「沖縄道州制懇話会」である。
 道州制の最大の問題は、論議が東京・永田町、霞が関中心に繰り広げられ、地域や国民の関心が極めて低いことである。府県合併が具体的に動き出せば県民の反応も前面に出るだろうが、現状はそこまで行っていない。

沖縄が意図するのは単独州だから、府県や複数県の合併を迫られるブロックに比べれば、県民の関心を高めることはそう難しいことではない。
 懇話会は提言に当たって、「特に、沖縄県の積極的な取り組みを期待したい」と念を押した。県の対応の弱さにくぎを刺したのだ。
 率直に言って、懇話会が沖縄単独州の設計図を描くことは容易でない。
 専門家、有識者を幅広く動員できる他のブロックのようなことはできないかもしれない。しかし、これからの論議で避けて通れないのは、税財政問題、州議会の権限、位置付け、基礎自治体のあり方といった各論の中身である。
 さらに、単独州とはいえ、国との関係をどうするかも重要だ。例えば、国の財政を抜きに考えにくい沖縄の経済振興の取り扱いも、一歩間違えば、自治の根幹を揺るがしかねない問題になる。
 沖縄県は、懇話会に道州制度移行への処方せんを任せるだけでなく、自ら単独州を目指して県民世論の集約に資する判断材料を用意しなければならない。

08519日)