【霞が関の抵抗】

◎変わらない官僚の体質

 地方分権改革推進委員会が、中央省庁から聴取していた国と地方の役割分担についての検討結果(48日)は、事実上の「分権ゼロ回答」だった。分権委が求める見直しに反論したり、「検討」をにおわせるだけで、前向きな判断は何も示していない。
 丹羽宇一郎委員長(伊藤忠商事会長)は委員会で「個人的には頭にきている」と省庁の態度に怒りを露わにしたのも無理はない。
 分権委は早ければ5月末に福田首相への第1次勧告を提出する予定だが、このままでは地方への大幅な権限移譲を勧告に盛り込むことはできない。
 ヒアリングの相手をこれまでの部長・審議官級から局長級に格上げして権限移譲の決断を迫るというが、霞が関の抵抗が弱まるとは、とても思えない。

今回の検討結果は、分権委が昨年11月、個別の行政分野や事務事業の抜本的な見直し・検討の対象として「医療」「道路」「生活保護」「農業」など重点7項目と、「福祉・保健」「労働」「教育」など10項目について各省庁に回答を求めていたものに対するものである。
 その回答がどんなものか。
 例えば農地転用許可(4f超)の都道府県への移譲について、農水省は「農業生産への影響」や「全国的視野での食料安定供給」などとして見直しに反論。
 生活保護についての国と地方の協議の場をつくることに厚労省は「適正化対策を実施している」と現状で十分だとの判断を示している。
 国交省は、国道や一級河川についての「国の権限を限定する方向で検討」としたが、見直しの時期や範囲ははっきりしないままだ。
 つまり、分権委が移譲を求める権限移譲は、ほぼ「全国的な視野」などを理由に国が関与することの正当性を主張した。
 増田総務相は関係閣僚との折衝に乗り出すようだが、政権の足元がぐらついている状況で、果たして閣僚がどこまで本気で権限移譲に理解を示してくれる大きな期待は持てそうもない。
 今の政治状況を見れば、閣僚の関心は「分権」どころではないというのが本音だ。霞が関の「ゼロ回答」もそんな永田町の様子を横にらみしたものだ。

分権委の奮闘を見ていると、この国の政治と行政の体質が1990年代の「失われた10年」の教訓が少しも生かされていないことに気付く。
 行政の仕組みが構造的疲弊を起こしていることが明確になったにもかかわらず、霞が関の改革は省庁再編がなされただけで、本質的な行政の組み換えは実現しなかった。
 橋本改革も結局は経済財政問題で挫折したし、その後の小渕、森内閣では見るべき改革は全くなかった。
 そんな古い体質の自民党を「ぶっ壊す」と叫んで国民の喝采を博した小泉氏が首相となり、小泉改革が走り出したのである。
 だが小泉改革が目指した「三位一体改革」は、国と地方の税財源を根本から見直すはずのものが、逆に地方自治体の行政運営を財政的に追い込む結果となってしまった。
 助金削減、税源移譲が十分に進まない中で地方交付税が大幅に削減されたからである。

三位一体改革が終わり、分権改革は第2ラウンドに入った。いわゆる、「第2次分権改革」のゴングがなり、丹羽委員会が奮闘している。
 丹羽委員長は経済界の論客だが、経営者としても出色の人物だ。総合商社・伊藤忠商事の会長。社員の収攬術は経済界でも群を抜く。大会議場で社員と徹底的に論議する経営者はそうざらにいない。
 その丹羽氏から見ると、権限・権益保持に汲々とする官僚のつかみどころのない説明は、議論すれば互いに分かり合える民間企業の社員とは異次元の存在と映るだろう。

丹羽氏は経済財政諮問会議の民間議員でもある。同会議は国の指針「骨太の方針」をまとめる中央省庁の上位に位置する組織だ。
 丹羽氏は官僚の煮え切らない態度に怒りながら、各府省の回答の内容の如何にかかわらず国民の期待に応える勧告を出すと言っている。

永田町が分権委を見る目は、必ずしも好意的ではない。
 「改革疲れ」の霞が関と永田町が、分権改革の実を求めるでもなく、名ばかりの改革の旗印を残しておくための組織と見ていることも事実である。
 分権改革で国を攻める側の地方に、そうした現実を直視し改革の態勢立て直しに邁進するうねりを期待したいものだ。
0849日)