D(道路)N(日銀)A(あたご=イージス艦)】(上)

◎怒りを忘れた首相

 道路特定財源が、これほどデタラメな使われ方をしていたとは……。
 昨日(14日)行われた参院予算委員会の道路特定財源問題に関する審議のことだ。本来の趣旨に反した事例は既に何度も指摘しているとおりだが、特定財源の不適切な支出事例は、芋づる式に現れてくる。病巣は深いとしか言いようがない。
 同日の委員会で国交省関連の公益法人の職員旅行に道路整備特別会計(2006年度)から支出された事例として、新に22法人が明らかになった。道路整備特会は道路特定財源が原資だから、言い訳はできない。
 公共用地補償機構や日本道路建設業協会など、少なくとも13法人は費用の半額以上を同特別会計から支出されている。このうち、河川情報センターと先端技術センターなどは丸抱えだった。

 国交省の調査結果を冬柴国交相が明らかにした。公共用地補償機構は、03年―07年度に2160万円を職員旅行に充てている。これら法人は、何の罪の意識もなく既得権として慰安費に流用していたのである。
 個別の法人を国交省ではなく、第3者の調査チームに調べさせたら、どれほど不正な使われ方をしていたのか白日の下にさらけ出されるだろう。
 冬柴国交相が言うような、職員旅行のあり方を見直す必要がある、といった程度では済まない。福田首相は国民に疑念や不快の念を与えるような支出は避けるべきだと答弁しているが、真剣さがほとんど伝わってこない。
 旧建設、運輸、国土の3省庁が一つになった公共事業の大半を所管する国交省だ。社会保険庁の流用の比ではないことは想像に難くない。是非、第3者機関を設置して徹底的に調査、実態を暴きだすべきだ。

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 同日の委員会審議に少しばかり期待が持てそうと思ったのは、首相の口から道路特定財源の修正案に「与党として検討する時期に来ている」という言葉が出たことだ。特定財源の一般財源化、暫定税率の期間、中期計画の見直しも検討の対象になると言っている。
 今までの、全く動くそぶりもなかった首相の口から出た初めての前向きなせりふだ。冷静と言えば聞こえはいいが、首相は野党の追及に存在感のある答弁はほとんどなかった。
 政治はころ合いを見て接点を探るものだ。その指示があって初めて動き出すのだが、首相にその気配はなかった。だから、与野党は引くに引けず「がぶり四つ」の状態を続け、互いに相手の非を攻撃する域を出なかった。
 07年度は3月末で終わる。時間がなくなった今になって首相が重い腰を上げたのは、多数与党を背景に時間切れを狙って打った大ばくちではない。既に「3分の2条項」を使ってしまった首相が、再度同じ手を使うことは党内も国民も許さない。それを承知でやる覚悟もない。
 状況から推し量れば、強気の半面、首相の指示を待っていた与党幹部が、一向に聞こえてこない首相の気持ちを待ちきれずに、野党との修正協議の環境づくりをしたということだろう。
 10年間、総額59兆円の道路整備中期計画が「机上の論」であることは、過去の整備計画を見るまでもなく明らかだ。計画の達成度が低調なだけではない。国土交通省傘下の公益法人などが、道路整備とは全く無関係なカネを道路財源から惜しげもなく使っていたのだから、さしもの冬柴国交相が謝るしかなかったのは当然である。

 昨年暮れになってどうにか決着した薬害肝炎問題で象徴的だった、緊急課題に対する首相の腰の重さが、今通常国会でも直されることはなかった。道路特定財源であれ、日銀総裁人事であれ、イージス艦衝突事故といった首相の差配が試される問題で、相変わらず自ら先頭に立つそぶりはなかった。
 そして、その重要問題への対応の真意を疑わせたのは、首相に不祥事に対する「怒り」がなかったことである。道路特定財源の不正支出、イージス艦衝突事故処理の不手際に首相が叱る場面はなかった。
 道路整備計画を隠れ蓑にした国交省外郭団体の「天も怖れぬ所行」なのに、国交相同様、首相から「怒り」の言葉が聞こえてこない。聞こえないどころか、「関心がない」とさえ思わせてしまう。
 イージス艦事故も、国会で野党の女性議員にたしなめられた翌日、犠牲になった父子の家族を訪ねて涙を流した。その姿がテレビで映されても印象が薄いのは、事故発生以来の首相の動きに問題の重大さが見えなかったからだ。
 首相は自衛隊の最高指揮官である。その首相が事故を心から怒って見せて、初めて首相の気持ちが家族にも、国民にも伝わる。それがなくて、首相の気持ちを分かれと言ったところで誰も振り向かない。

 官僚は政治家の言動に敏感だ。それが、首相や閣僚からのものであれば、手のひらを返すがごとく変身する。
 自分たちに矛先が向かっていないと判断すれば、官僚は頭を低くして問題が沈静化するのをじっと待つ。形だけの改善項目を並べて検討する姿勢を見せておけば、どうにか急場はしのげる。
 そんな官僚の習性を正すのが政治家たるものの「怒りの表明」である。道路特定財源問題について言えば、冬柴氏は連立与党公明党の有力議員である。(08315日)=続く