【ガソリン税率】

◎立法府は知恵がないのか

 「ガソリン国会」は、道路特定財源の暫定税率の扱いを巡って与野党が一歩も引かない対立を続け、これに今度は地方自治体が加わって収拾がつかない状況になっている。
 暫定税率を維持しなければ、道路建設は予定通り進められなくなり、地方への影響は計り知れないと政府・与党は言う。
 対する野党の盟主の民主党は、国直轄の公共事業の地方自治体の3分の1負担をやめて1兆円を捻出して地方の裁量の下で道路整備ができ、地方分権にも合致する、と主張している。
 一方、地方は暫定税率が廃止されると、その分減収になるだけでなく国からの補助金も減る結果、道路建設だけでなく道路の維持管理に必要な財源も確保できなくなると、首長や議会は盛んに窮状を訴えている。

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 道路特定財源は、揮発油(ガソリン)税、自動車重量税などの国税、地方道路譲与税、自動車取得税など地方税を合わせて8種類。08年度見込みでは、その総額は5兆4000億円。暫定率廃止になると国が約1兆7000億円、地方が約9000億円の計2兆6000億円の減収になる。
 昨年暮れに閣議決定した道路整備計画は、これを基に組み立てているから、暫定率廃止となれば、計画自体が財源を失い国も地方も計画実施ができなくなる。4月からの新年度予算編成が宙に浮きかねないのだから、国も地方も大慌てになるのは当然だ。

 だが、何かおかしくはないか。
 道路特定財源の上乗せは1974年に時限立法で導入、以来30年余にわたって暫定延長を繰り返してきた。暫定措置がこんなに長期間続いたのは、その時々の社会、経済状況があるとはいえ、政策自体に問題があった、失政と言われても仕方がない。
 これまでの内閣や政治の経緯、責任に目をつぶったまま、何の反省もなしに目先の問題に対応しようというのでは、国民の視点に立った政治とは、とてもいえないし、これからも繰り返される可能性は高い。
 さらに問題なのは、この暫定税率延長が農産品関税の軽減税率の適用や投資促進税制など、その他の租税特別措置と一緒に同じ法案にまとめられていることである。
 ガソリン値下げで国会が紛糾すれば、租税特別措置法改正案が成立しないまま3月の年度末を迎えてしまう。そうなれば、国民生活にさらに大きな支障が出るのは避けられない。
 それでは困るから法案を通そうというのだろうか。あたかも、国民生活を「人質」にとって道路財源確保を狙ったと見られても仕方がない。

政府、与党はそれでも、不安なのか、現行税率を2−3カ月延長する議員立法を検討中だという。国会に上程した租税特別措置法案が野党の抵抗で年度内成立が難しくなって、一足飛びに議員提案で暫定税率延長を決めてしまえと考えたのだろう。
 さすがに、これには与党内でも異論があって思惑通りにはいきそうもないが、衆院の圧倒的多数を逆手に取った、こんな「禁じ手」を万が一にも使うようなことになれば、議会制民主主義を自ら否定する暴挙となることが分からないのか。

民主党の考えだって納得できるものではない。不足する財源をどう手当てするのか明確でない。仮に、建設国債を増発するとなれば、財政再建に逆行するものとの批判は免れない。説得力のある財源の裏付けを国民に示すべきではないか。
 民主党はマニフェスト(政権公約)で、2011年までに基礎的な財政収支(プライマリーバランス)を黒字化することを公約している。公約との整合性はどうなるのか。
 同党には、暫定税率の延長に公然と賛成している議員もいる。予想される解散・総選挙で政権奪取を言うのなら、党内意見の統一ができないような「ぶざまな」姿を見せるべきではない。

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 暫定税率がなくなれば道路整備計画に大きな影響が表れるのは、その通りかもしれない。
 暫定税率の廃止でガソリンは1リットル当たり25円、軽油は同17円程度下がる。ガソリンが「安くなる」ことに反対する人はいない。道路整備だって、何ものにも替えがたい最優先課題の自治体が多い。単純に二者択一とはいきにくい問題だ。
 政党がそれぞれの立場で相手を打ち負かそうとしても、互いに深傷を負うだけで、大人の政治とは言えない。
 
 道路財源がすべて道路建設や維持・管理に使われていると思っていたら、道路とは関係のない職員宿舎の建設やレクリエーション費にも充てられていたことが露呈した。
 税率の延長や財政再建の美名の下で、多くの国民はこんな財源の「流用」があったなどとは考えもしなかっただろう。何をか言わんや、である。
 既得権などとうそぶくようだと、年金財源を好き勝手に使ってきた社会保険庁と何ら変わるところはない。
 道路整備が必要ないなどと言うつもりはない。しかし、道路整備のあり方が、その内容も含めて適切に行われているか、過大なインフラ投資がなされていないか――などを十分精査し、一般財源化の拡大と併せて与野党は真剣に論議したらどうか。
 もちろん、永田町や霞ガ関だけの狭い論議ではなく、地方の実情をよく見た上で整備計画を策定してほしい。そのために起きるであろう問題については、与野党が一体となって対策を練ることだ。

ねじれ国会をいいことに、与野党が政争を繰り広げている印象を国民は抱いている。いい加減にしないと、国民は姿、形を変えて政治不信を突きつけるだろう。(08127日)