【せんたく】

◎政治の閉塞感を打破できるか

 針路が定まらない「ねじれ国会」は、自己の正当性をぶつけ合う与野党の主張が、空しく飛び交う冬の寒空を見ているようだ。
 こんな政治は1日も早く終わりにして、それこそ福田首相が言うような「国民の、消費者の目線に立った」行政を誰もが期待している。
 ところが国会は「その日暮らし」のようだし、解散含みの政局のせいか、浮き足立った国会議員を静める良薬はない。

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 通常国会が始まり、首相の施政方針演説に対する各党の代表質問が始まった時期を見計らったように、知事や学者、経済人らによる国民運動組織が発足した。「地域・生活者起点で日本を洗濯(選択)する国民連合」(略称・せんたく)である。
 1月20日、東京都内のホテルで開いた記者会見には、発起人代表で、マニフェスト(政権公約)選挙の発案者でもある北川正恭・早稲田大学大学院教授(前三重県知事)や古川康(佐賀県)、松沢成文(神奈川県)、山田啓二(京都府)、東国原英夫(宮崎県)の各現職知事のほか、経済界から池田守男(資生堂相談役)、茂木友三郎(キッコーマン会長)両氏、労働界から連合事務局長の古賀伸明氏らが、また学識者の佐々木毅・前東大総長、西尾勝・東京市政調査会理事長(元東大教授)が並んだ。

「せんたく」が目指すのは、組織の名称にあるように「地域・生活者起点」で日本を「洗濯」しようというものだ。洗濯するだけでなく、地域が、そして生活者が政治・政策を「選択」できるよう政治や行政の仕組みの変革を求めている。
 変革を実現するため、国政に対しては超党派の議員連合の設立を呼び掛け、次の総選挙は政策を軸とした政権選択選挙と位置づけている。
 現職知事や有識者に加えて、経済界、労働界代表参加した「せんたく」が発足し政権選択選挙を目指すのは、冒頭に書いたように政治が漂流している現状への危機感からである。
 発起人代表の北川教授は、マニフェスト選挙を前々回の統一地方選に組み入れ、その後、国政選挙に広げた実績を持っている。
 マニフェストは、「お祭り」的な色彩が濃かった選挙を、身近な生活の充実を実現するための機会と捉える選挙に進化させた。
 選挙の時だけの「公約」を、その根拠、公約実現のプログラムなどを有権者に示し、その判断を仰ぐ選挙スタイルは、日本の政治の体質を根底から変える。その基盤ができつつある中で、現実の政治が「政策選択」ができないようでは、何のためのマニフェストだったのかとなりかねない。

 北川教授が言うように、今の国会は国民に選択を求めるだけの議論や体系的な政策ができていない。同時に、意識変革が表れているとはいえ、地方も国民もいまだに「お上意識」が抜けていない。
 その意味では、「せんたく」の発足は、マニフェストをさらに次の段階に進める第2ラウンドの運動と位置づけ、今後の展望を注視したい。
 加えて「せんたく」の発足を注目したいのは、「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)が持っている大きな影響力を最大限に活用できる仕組みを持っていることだ。
 現職知事や学者グループが集まった政策提言組織は数多い。その提言に見るべき点があることも事実だ。現に、全国知事会など地方6団体がつくっている「委員会」「研究会」は、6団体の行動指針ともなっている。
 だが、それらの提言は率直に言って政治を動かす力はそれほど大きくはない。親団体も含めて組織自体に「政治力」が欠けるからだ。
 その意味では、21世紀臨調が母体となった「せんたく」は、政治を動かしうる力を備えたと言っていいだろう。そして、超党派の国会議員連合が結成されるならば、総選挙に向けて一石を投ずることになるかもしれない。
 
 具体的な地方分権改革が始まってからの流れを振り返ると、各論に入った分権改革は、一枚岩だった地方6団体の間に複雑な溝ができつつある。「ふるさと納税」や「法人2税」の問題など、とりわけ財源に関わる自治体間の思惑は消えることはないだろう。さらに、拡大すると言ってもいい。
 市町村合併による全国組織のバランスも変わっている。これまでの改革のリード役を果たした全国知事会の指導力だって足元がぐらついていることは否定できない。6団体が足並みをそろえて国と対抗できるテーマは限られてきている。
 つまり、地方6団体を中心とした、国を向こうに回した分権改革の攻勢は曲がり角にきたということである。新しい運動体を核にして、6団体が協力支援態勢をとる、重層的な仕組みを北川教授らが準備していたということだ。
 
 「議員連合」が政界再編につながるという短絡的な見方はどうかと思うが、「ねじれ現象」は国会だけではない。与野党それぞれの党内も「ねじれ」ている。
 戦略家の北川教授が、そんな現状を見極めて布石を打ったことは間違いない。分権改革は、「行政論」の域を越えた。これからは「政治論」を軸に据えることを忘れてはならない。人間は生まれつき、政治的動物である。分権改革をより浸透させるためにも、政治色は欠かせない。((08年1月23日)