D−「日米同盟」

◎基地問題を忘れるな

 イラク戦争と米朝関係の緊張は、以前にも増して在日米軍の存在感を大きくしたようだ。
 沖縄や三沢基地など列島に展開する在日米軍の南と北の要衝から実戦部隊がイラクに派遣されたからだけではない。小泉純一郎首相は、戦闘開始に際して、わが国を攻撃する意思を持つ国は「米国と戦うことを覚悟しなければならない」と強調した。朝鮮半島情勢を念頭に置いた発言だが、在日米軍の役割をこれほどはっきりと言った首相はいない。
 在日米軍の抑止力を強調するのはいい。しかし、その基地が抱えている問題にも同じくらい関心が示されなければ、基地問題の解決は程遠い。
 例えば「沖縄の夜明けが来た」と言われた一九九六年四月の普天間飛行場返還の日米合意は、「五―七年以内の返還」とされながら、その期限は約束は守られなかった。
 そもそも、この日米合意は米兵による卑劣な少女暴行事件が引き金になった。全国に広がった事件糾弾の動きに日米関係は揺れた。普天間返還には世論の沈静化と基地の安定使用を実現させようという狙いがあった。
 返還は普天間飛行場の代替施設を県内に造ることが条件だったため代替施設の候補地選定は難航したが、最終的には日本政府の大掛かりな経済振興策や二〇〇〇年七月の主要国首脳会議(沖縄サミット)開催をだめ押しとして名護市辺野古沖への移設が決まった。
 移設先決定に際して沖縄県知事と名護市長は、代替施設の使用期限を「十五年」と条件を付け、政府もこれを尊重し対米折衝で取り上げる旨、閣議決定し約束した。
 だがこれまでの日米交渉の内容を振り返ると、この条件が守られる保証はほとんどない。知事は、問題解決がない限り代替施設の着工はあり得ないと再三繰り返すが、政府筋は、日米両政府、沖縄県とも「偽歌舞伎を演じているだけ」と漏らしている。
 在日米軍の四分の三が駐留する沖縄では、その分、米兵絡みの事件・事故が引きも切らない。その都度、日米地位協定が問題になるが、日本政府は運用改善でお茶を濁すだけで、見直し要求には否定的だ。
 米軍三沢基地は極東アジアをにらんだ「ヤリの穂先」から、中東地域まで作戦範囲を広げた。F16戦闘機の墜落事故も相次ぎ、燃料タンクや訓練用ミサイルの投棄も起き住民不安が消えることはない。沖縄におけるF15戦闘機の事故も今年に入って数え切れない。
 いずれの基地も事故原因がはっきりしないまま、訓練が再開され地元の反発を招いた。地元からの抗議に日米地位協定が厚い壁になっている現状の打開をどうするのか。足元を見過ごして日米同盟強化はあり得ない。
 一九九六年四月の日米安保共同宣言以後、日米同盟は強固になりつつある。そして今、国会で本格的な有事法制論議が始まろうとしている。小泉首相は基地問題の深刻さをもっと認識してほしい。(2003年4月27日)