C−「市町村合併の西尾私案」

◎タブーを排し論議深めよ

 地方制度調査会の西尾勝副会長(国際基督教大教授)が提示した、いわゆる「西尾私案」は全国の町村長らの猛反発を呼んだ。私案どおりになれば、小規模町村は解体に追い込まれるかもしれない。強制的な合併を拒否し自主的な街づくりを目指す町村長らが反発するのも当然だった。
 二〇〇五年三月末を期限とした国の合併特例措置は、時間がたつごとに強制的色彩が色濃くなっている。自主的な合併を尊重する、と国がいくら強調しても小規模自治体の危機感は募るばかりだ。そんな状況で昨年十一月公表されたのが西尾私案である。
 地方分権は地方の自主性を尊重し、画一的な地方とはひと味違う個性的な生活共同体をつくることに本来の目的がある。この趣旨から言えば、西尾私案は、国の方針をだめ押しするものと映ったとしても仕方がない。特例措置の期限切れ後は、未合併自治体の統合を強力に進める制度の創設などにそれが表れている。
 だが、私案は同時にこれまで見過ごされてきた重要な指摘をしている。
 合併でできた新たな自治体において旧市町村単位に創設する自治組織の検討などは、合併で消滅しかねない地域の自治の確保に役立つはずだ。自治組織として屋上屋を架すとする反対論はあるが、合併不安の解消には効果的だろう。
 もう一つは、特例措置の期限切れ後の基礎的自治体の在り方を示したことである。
 総務省は期限内に合併しろ、しなければ優遇措置は得られないと迫るばかりで、期限切れ後の処方せんをなんら示していない。合併しなくても住民生活に密着した行政運営ができる自治体はあるだろう。しかし問題は「合併できない」自治体が存在するということだ。近隣市町村から「合併したくない」と突き放される自治体がないとはいえない。これらの町村を基礎的自治体としてどうするかということである。私案は法律で定めた事務の一部を他の行政主体に移すことも一案とした。
 参考までに過去数年の地方分権改革論議をおさらいしてみる。
 地方分権推進委員会の論議は分権の受け皿として当面、国の権限を都道府県に、次の段階で市町村への移譲を進めることとした。ところが分権問題の論議が本格化すると、受け皿としての基礎的自治体の体制整備が急務とされるようになった。
 すなわち、一九九七年七月の地方分権推進委員会の第二次勧告、翌年四月の地方制度調査会答申はいずれも市町村合併の推進を政府に求めた。その後合併特例法が強化され、合併が強力に推進されるようになった。
 西尾私案は合併問題について強烈な問題提起をした。方法論に問題点はあるが、悪いところは今後の論議で是正すればいい。西尾氏もそのつもりで提示した。私案は五月連休明けにまとまる地方制度調査会の中間報告の柱となる。それまでに丁々発止の分権論を続けてもらいたい。(2003年3月23日)