(57)―「本格化する道州制論議」

◎理念なき道州論を排せ


 国家像と地方のあるべき姿を具体的に論議する、政府の道州制ビジョン懇談会がスタートした。来年三月までに中間報告をまとめ、政府が三年以内に策定を目指す具体的なビジョンの論点整理を行うという。
 道州制問題はこれまで、中央、地方を問わず、それぞれの立場、立場でさまざまな「道州像」が言いふらされてきた。これを機会に目標を定めた具体的な論議が行われるよう期待したい。
 もちろん、ビジョン懇が動きだしたからといって、それぞれの「思惑」がなくなるわけではない。逆に市町村合併に続く、さらなる行財政の効率化を求めた府県合併論が強まる可能性もある。
 道州制が具体的な政治課題に上ったのは小泉政権の時だ。昨年二月、第二十八次地方制度調査会(首相の諮問機関)が「道州制の導入が適当」と答申したことを受けて同年秋からさまざまな議論が始まった。
 小泉改革の継承をうたう安倍晋三首相は道州制担当相を任命、前政権から引き継いだ北海道を対象とした道州制特区推進法を成立させ、道州制の導入に大きく踏み込んだ。
 自民党の道州制調査会は、道州の区域割りを含めた具体案を夏の参院選のマニフェスト(政権公約)盛り込む方向で五月までに報告書まとめる方針だ。
道州制に積極的なのは政府、与党だけではない。経済界の方がずっと古い。高度成長に併せる形で行政区域の拡大を主張してきた。
 その経済界の考えを体系付けたのが日本経団連の長期ビジョンで、「二〇一五年をめどに道州制の導入」を提言した。
 全国知事会が先にまとめた「道州制の基本的考え方」は、国や中央レベルでの活発な導入論を見過ごせなくなって、取り急ぎ知事会の総意を提示したものである。
 道州制論議は、現状では「永田町、霞が関、経済界」対「全国知事会など地方団体」の構図だが、目下のところは国や中央主導になっていることは否めない。
 特に、道州制特区推進法は制約だらけで、「特区」にあるべき実験的・挑戦的色彩は極めて弱い。中央省庁の抵抗がいかに強かったかということだ。
国と都道府県、市町村の役割を具体的に整理して、道州という新たな広域行政区域を実現する現行制度の改革意欲がなかったことを端的に表している。
本来、道州制論議は、中央省庁再編を含めた統治機構の大変革を目指す国家戦略を視野に置いたものでなければならない。そして、分権改革の到達地点として道州は位置づけられるものだ。
 そのためにも、安倍首相の強い指導力が必要だ。官僚の抵抗を排する首相のリーダーシップがないから、府県合併のような単純な論議に矮小(わいしょう)化されてしまう。
こんな状況を放置すると、道州制は分権改革とは似ても似つかぬ行政システムになりかねない。
 国民の意思に反するような新制度がつくられることがあってはならない。(07年5月12日付)