(54)―「財政健全化法案」

◎健全化の基準をどうつくる

 政府は「地方公共団体財政健全化法案」を国会に提出した。一部の裕福な自治体を除くと、地方財政の窮状が全国的に顕在化していることへの危機感の表れである。
 夕張市の財政破綻が政府の背中を押したのは間違いないが、現行の「地方財政再建促進特別措置法」では対応しきれなくなったからだ。
 政府は今国会での成立を目指し、二〇〇八年度から段階的に施行、〇九年四月の全面施行を想定している。
 新法案は、自治体の財務内容を判断する指標として、現行法が定める単年度の標準的な収入に占める赤字比率に加えて@公営事業も合わせた連結赤字比率A毎年度の借金返済額の比率B公社、第三セクターなどを合わせた連結債務残高比率―を毎年度公表するよう求めている。
 この四指標のうち、総務省が定める基準を一つでも超えると、早期健全化段階に移行し「財政健全化計画」を策定、さらに悪化した場合は再生段階に進んで「財政再生計画」の策定を義務付ける。
 もちろん、「計画」の実施状況はいずれも毎年公表されることになる。
 法案が成立すれば、一時的に借入金で赤字を穴埋めした夕張市のようなことはできなくなるし、住民が知らないうちに、たまりにたまった借金で、地域が立ち行かなくなることはなくなる。
 だが法案は、財政健全化の方向を示しただけで、その肉付けはこれからだ。
 健全化の判断基準は、総務省が法案成立後に基準値を設定するが、この基準値をどう作るのかという問題がまずある。
 財政状況が異なる自治体に全国一律の基準値を当てはめるのは難しい。しからば、個々の財務の実態を勘案した幾とおりもの基準値が必要なのか。
 いずれも、市町村に重大な影響をもたらしかねない。場合によっては、国会審議の波乱要因となりかねない。
 もう一つは、「健全化」「再生」の二段階で進められる再建の中で、再生段階での再建を促進するために設けられる「再生振替特例債」の発行だ。
 これは、再建のために生ずる不足額を振り替える地方債の発行を特例的に認めるものだ。しかし、特例債は「借換債」であり、当座をしのぐための借金であることに変わりはない。返済の先送りと言われても仕方がない。
 貸し手側の責任についても同じだ。膨大な負債の責任の一端が金融機関側にあるのは明白だ。夕張市の問題でも浮き彫りになった。法案では借金を棒引きにする債務免除は盛られなかった。
 自治体財政が今日のような事態を迎えた背景は単純でない。地方行革に真剣に取り組んだ自治体がある一方で、その努力が欠けたのも少なくない。経済環境の変化も大きい。
 同時に、自治体が細々と積み上げてきた経費節減努力が、政府の三位一体改革で消し飛んだ事実を忘れてはならない。分権改革が進む中で顕在化した地方財政の悪化は、第二期分権改革の行方を占う。(07年3月15日付)