(49)―「新分権改革推進法案」

◎分権改革の精神思い起こせ 
 
 国と地方の役割分担を見直す「地方分権改革推進法案」が閣議決定された。政府は法案成立後、有識者七人による分権改革推進委員会を発足させ、分権一括法案の二〇一〇年国会提出を目指す。
 政府は法案審議と並行して道州制導入の検討も進めることにしている。分権改革は、小泉内閣の三位一体改革に続いて第二ラウンドを迎える。
 だが、この第二ラウンドは生やさしくない。一つは中央省庁の省益を乗り越える政治の仕組みができるかであり、もう一つのポイントは、地方自治体側の意識と態勢整備の問題である。
 前内閣の経済財政諮問会議は、首相の直轄機関として主要閣僚と民間有識者で構成、省庁のみならず対与党でも優位な組織として小泉政治の機関車役を果たした。
 この政治手法は、橋本龍太郎元首相による構造改革、行政改革の政治戦略を生かしたものである。「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)の共同代表で、東京市政調査会理事長の西尾勝氏は、「経済財政諮問会議型」の組織ができるかどうかが、ポスト三位一体改革の成否を占うと強調している。
 西尾氏の指摘は、一九九五年からの第一次分権改革に当たった地方分権推進委員会の行政関係検討グループ座長としての経験を踏まえたものだ。西尾氏は、政治家が果たさなければならない役割は、一段と高まっているという。
 一方、分権改革を叫ぶ肝心の自治体をめぐる今春以降の不祥事は、福島県の佐藤栄佐久前知事の収賄容疑での逮捕まで行き着いてしまった。裏金問題の梶原拓・前岐阜県知事、県出納長が逮捕された和歌山談合事件での木村良樹知事の責任は大きい。
 首長が直接の当事者ではないものの、幹部職員を含めた常軌を逸した問題が明るみとなって大量の処分者を出した自治体は、政令都市を含めて少なくない。自治体の構造的腐敗を国民は目の当たりにしているのである。
 作家の故有吉佐和子さんが、かつて公害・環境問題を告発した著作になぞらえれば、「複合汚染」が自治体を侵していると言えるかもしれない。
 もちろん、ひんしゅくを買うような自治体はごく一部だ。多くは真の自治を追求していると思う。見過ごすことができないのは、岐阜県などで職員組合自体が不祥事に手を染めていることだ。庶民感覚、公僕の何たるかを忘れたおごりとしか言いようがない。そして、自治体を監視する立場の地方議会が機能しなかった事実である。
 国の形を問う出発点となる分権改革は、一般住民の賛同があって初めて前進する。政治家や官僚がおぜん立てするのでは、中央集権と何ら変わらない。住民を啓発するのは自治体の義務だ。その力を背景に地方から政治を動かす。
 安倍晋三首相の指導力が必要なことは論をまたない。そのためにも、自治体は分権の精神・理念を思い起こし、説得力のある組織とならなければならない。(2006年11月1日付)