(45)―「岩国住民投票」(在日米軍再編)

◎地元無視への重い結果

 山口県岩国市で、米海兵隊岩国基地への米海軍厚木基地(神奈川県)の空母艦載機受け入れの是非を問う住民投票が行われ、反対が圧倒的多数を占めた。
 日米両国政府は昨年十月に合意した在日米軍再編の中間報告で岩国基地への空母艦載機移駐を盛り込んだ。在日米軍再編にかかわる住民投票は今回が初めてとなったが、岩国市民は「拒否」回答を示した。投票結果に法的拘束力はなく、政府も投票結果で再編計画を進める考えを変える気はない。
 しかし投票結果が再編計画に関係する自治体の対応に影響を与えることは避けられない。今月末とされた最終報告まで残された時間はあまりない。沖縄をはじめとする関係自治体に対する政府の説得は暗礁に乗り上げたままと言っていい。政府は極めて難しい局面に立たされたといえよう。
 基地問題をめぐる住民投票は、沖縄・米軍普天間飛行場の移設をめぐって移設候補地となった名護市の住民投票(一九九七年十二月)に先例があるだけだ。問題なのは、再編計画が互いに関連し合い、個別の処理ができない仕組みになっていることだ。
 例えば、再編の柱である沖縄を例に取れば普天間飛行場の移設は、中南部三基地の返還や海兵隊司令部の移転、訓練機の本土基地への分散と一体になっている。
 在日米軍再編計画は、日米両政府の最終的な詰めの協議が行われているが、計画全体を左右する普天間飛行場の移設問題は、沖縄側がキャンプ・シュワブ沿岸部移設案に反対、政府と対立したままだ。
 岩国の住民投票の結果が沖縄の主張をさらに強めるようだと、関係自治体に再編反対の連鎖を起こしかねない。
 岩国市の井原勝介市長は、空母艦載機の移駐は住民生活に大きな影響があるとして撤回を主張、住民投票に持ち込んだ。
 だが今回の投票結果が岩国市の最終的な民意ではない、というのが政府の見方だ。岩国市はこの二十日、周辺七町村と合併するため井原市長はその前日に失職する。合併七町村は艦載機の移転容認に傾いており、二井関成県知事も容認姿勢をにじませている。地元経済界も国の経済支援を求めて受け入れの立場だ。一カ月後の市長選の結果次第では、民意が逆転しないとは言い切れない。
 在日米軍再編という安全保障にかかわる問題が住民投票になじむのかどうか議論がある。国策と住民生活の兼ね合いが難しいことは名護市の住民投票の時も浮き彫りになった。
 米軍再編の日米交渉が、肝心の地元の頭越しに結論が出され、加えて具体的な説明を欠いたまま、安全保障論≠フ建前だけが強調された中間報告から四カ月が過ぎた。最終的に米軍再編を実現するためには地元の理解を得ることが必要だろう。地元の意向を参酌することもなく再編計画を進めた政治性のない政府の責任は重い。(2006年3月14日付)