(41)―「暗雲漂う補助金廃止」

◎地方は安易な妥協をするな

 今月中の決着を目指す国と地方税財政の三位一体改革の雲行きがおかしくなってきた。国から地方へ三兆円の税源を移譲するため積み残しになっている六千億円の補助金廃止で、
安倍晋三官房長官が厚生労働、文部科学など関係七省に割り振った廃止目標に対する回答額があまりにも低く、またも再回答が求められたからだ。
 各省の削減案に対する態度は厳しい。このままでは、地方は「政治判断」という名の巧妙な決着を迫られるかもしれない。改革の最終年度を前に、地方団体は腹を据えて向き合わなければならない。
 官房長官が七省に示した補助金削減目標は合計で六千三百億円。このうち最大が厚生労働省の五千四十億円で、全体の八割を占める。つまり、目標が達成されるかどうかは、厚労省の回答次第だ。
 ところが厚労省は、生活保護費・児童扶養手当の国庫負担率を下げることなどで総額九千億円の税源移譲ができるとの見直し案を提示している。しかし、この見直し案は、明らかに地方への負担転嫁になる。
 もとより、これらは地方が要求した削減リストにもない。昨年十一月の与野党合意で決まった三位一体改革の全体像でも、地方の猛反発で先送りになった、いわくつきの問題だ。
 厚労省案に反発して九州市長会は、今年七月の政令指定都市の市長会に続いて同省に受給世帯数などのデータ報告を停止することを決めた。末端での行政が大混乱に陥るのは避けられない。
 さらに、今回の削減案で注目されるのは学校や福祉施設などの施設整備費だ。地方は裁量が拡大するとして削減するよう求めているが、財務省は施設整備は建設国債を使うとして削減に反対している。借金が財源だから地方に移譲できないというわけだ。「削減に同調しないよう」財務省からの圧力もあるという。生活保護費の負担率引き下げ、施設整備費の削減に対する厚労省、財務省の強い態度が各省の様子見につながっている。
 今回の六千億円の補助金廃止には含まれないが、補助金廃止の最大の眼目は義務教育費国庫負担金の8500億円の取り扱いだ。与党内の異論が強く、昨年暮れの政府・与党合意で暫定削減で急場をしのいだが、決着はついていない。
生活保護費、施設整備費の問題も義務教育費同様、先送りされたままで今日に至っている。政府部内の補助金削減に対する不統一ぶりは、一年前のごたごたが、何一つ片付いていないことの表れである。 
 地方六団体が総決起大会を開いて抗議決議を次々と政府に送りつけるのも、政府の不統一に合わせるように自民党の政調部会が役所の言い分を後押しし始めるなど、改革の先行きに不安が高じているからにほかならない。
 小泉首相は「何でも私にやらせないでほしい」というが、三位一体改革は一応、来年度が最終年度とされる。現状の混迷を脱するには首相の指導力に頼るしかない。二〇〇七年度以降の第二期改革につなげるためにも、首相の決断を求めたい。(2005年11月17日付)