(36)―「全国知事会会長選」

◎与し易しと思われては困る

 三位一体改革の行方を占う上からも注目されていた全国知事会の会長選は、麻生渡福岡県知事が増田寛也岩手県知事を抑え当選した。自ら「調整型」を任ずる麻生氏が、梶原拓前会長(前岐阜県知事)の懐刀として地方六団体の補助金改革案取りまとめに奔走した増田氏の挑戦を退けたことは、知事会の今後を予測する上で幾つかの注目すべき点が表れたと言える。
 新会長に決まった後で記者会見に臨んだ麻生氏は、自信たっぷりに三位一体改革の実を挙げるため全国市長会、全国町村会など地方団体と協力する必要性を強調。その上で、政治や中央行政にグローバル時代の構想が欠けているとし、志の高い国家運営を目指すべきだと注文を付けた。
 麻生氏の言葉は、それほど新味を感じさせるものではない。問題は、分権改革をどう実践し、国と五分以上の闘い・折衝ができる態勢をつくるかだ。三位一体改革が実質的に動きだした今、その先に都道府県と市町村との間のあつれきが表面化するのは間違いない。
 梶原前会長は、独特な指導力で地方六団体をまとめ上げ、政府と真っ向勝負を挑みながら国と対等な協議ができるまでに組織を固めた。それを支えたのが「闘い」の強い意志と団結である。
 三位一体改革の現状は、補助金削減、税源移譲も地方団体が求めたものとは程遠い内容だ。この難問をどう解決に導くか。麻生氏は「闘い、かつ成果を勝ち取る知事会」にしたいという。そのための地方団体間の真摯(しんし)な議論を率先して仲介・調整に乗り出すと意欲を見せた。
 だが、都道府県と市町村の関係は、ある意味では国と地方団体のそれ以上に複雑なことは周知の通り。梶原体制でできた国と地方の関係を第一段階とすれば、第二段階の麻生体制は、麻生氏が言うように成果を実現することだが、地方の総意をまとめる調整は容易でない。特に、抱える事情が全く異なる市町村の利害調整は並大抵ではない。
 昨年の知事会論議一つをとっても、当時の梶原会長は執ような追及に「議事運営に不満であれば、この場で私の不信任を提示してくれ」と切り返し意見を集約した。「調整」という言葉は耳当たりがいい。しかし一方で、利害が錯綜(さくそう)する問題で、これほど難しいことがないのも忘れてはならない。下手をすると、国に不統一を突かれかねない。
 霞が関の中央省庁は、調整型の麻生氏の会長就任を総じて好意的に評価している。ある政府筋は「補助金関係の役所は話せる相手と受け止めている」と語った。闘うべき相手から歓迎される新会長は、与(く)し易(やす)し、と見られているのかもしれない。
 三位一体改革に弾みをつけるため、新体制は改革派の若手を中心に、ベテラン知事が脇を固める重厚な形が望ましいという分権論者の声が多かった。しかし結果は違った。梶原路線がどう継承、進展するのか注目したい。(2005年2月19日付)