(32)−「普天間飛行場移設」

◎解決のチャンスを逃すな 

 沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場の移設問題は、根本から見直す時期にきている。鳴り物入りで発表された名護市への移設も、今では世論も見放し、代替施設建設のめどさえ立っていない。日米両政府の間で在日米軍の再編協議が進んでいるこの機会を、沖縄基地問題解決の糸口にすべきだろう。
 政府は、一九九六年暮れの日米特別行動委員会(SACO)合意に基づく移設に固執しているが、当初予定された「五―七年以内」の返還時期は、とっくに過ぎた。約束を守れない日本政府への米政府のいら立ちは、政府筋によると「臨界点を超えている」ほどだ。
 対日不信感は、普天間問題についてだけではない。ブッシュ米大統領が昨年十一月に米軍の世界的規模での再編方針を明らかにして以来、事務レベルによる水面下での折衝に続いて本格的な協議が始まった。
 ところが、今夏までは米軍再編の中心となるべき日米交渉が、日本側の政治的事情で一向に前進しなかった。
 昨年十一月に総選挙、そして今年七月に参院選挙があったからだ。国政選挙を控えた微妙な時期に、在日米軍機能を一段と強化する再編論議は、日本側として触れてほしくない問題だった。
 普天間問題については、嘉手納基地への統合案も浮上するなど、米側自身が合意の見直しを提示した。イラク問題での緊密な日米協調の裏で、在日米軍の再編問題は牛歩状態だったのである。そんな状況の下で、八月に沖縄の米軍ヘリ墜落事故が起きた。
 米側は/(1)/陸軍第一軍団司令部(ワシントン州)のキャンプ座間(神奈川県)への移転/(2)/第一三空軍司令部(グアム)を横田基地の第五空軍司令部と統合―などのほか、在沖縄海兵隊の本土への一部移転、海軍厚木基地(神奈川県)の米海兵隊岩国航空基地(山口県)への移転構想を日本側に示した。
 小泉純一郎首相は先ごろ、沖縄米軍基地の一部を本土へ移転する方針を明らかにし、防衛庁に関係自治体の意向を確認するよう指示した。同時に国内にとどまらず、国外への移転も考えられるとの認識も示した。いずれも、普天間飛行場の移設が暗礁に乗り上げている事実を首相自らが認めたからだ。
 普天間飛行場の移設は、ようやくボーリング調査が始まったが、反対住民の抵抗で本格工事のめどは立っていない。稲嶺恵一知事が、普天間移設容認の条件とした代替施設の「十五年使用期限」は、米政府が全く相手にしていない。
 移転方針がすんなり通るとも思えないが、首相が一部とはいえ、沖縄米軍基地の本土への移転を表明した意義は大きい。沖縄基地問題の解決に向けて、日本政府の積極的な対米交渉はなかった。それだけに、今回の米軍再編は日本政府にとって基地問題進展のまたとない機会であるはずだ。普天間問題解決の鍵が、そこにある。普天間合意の見直しのまたとないチャンスである。(2004年10月22日付)