(29)−「日米地位協定」

◎日米対等がむなしく響く

 沖縄県宜野湾市にある沖縄国際大学の敷地内に米海兵隊の大型ヘリコプターが墜落・炎上した事故は、在日米軍が集中する沖縄の矛盾を浮き彫りにした。同時に、事故原因究明に不可欠な機体検証に沖縄県警は手も出せないなど、日米地位協定の欠陥もあらわにした。
 米世界戦略の拠点として重要性が増す在日米軍の訓練頻度が高まっていることを考えると、同様の事故は国内各地で起こりうる。米軍基地を抱える自治体は、北海道や青森県、東京都など十四都道県。米軍の再編問題で関係自治体の基地への関心が高まりを見せている最中に事故は起きた。
 事故が起きたのは今月十三日昼過ぎ。幸い、住民の生命にかかわることはなかったが、沖縄の墜落事故は、決して他人事ではない。
 今回の事故に政府は緊張した。普天間飛行場の移設はめどが立たず、沖縄県内でも移設見直しの声が高まりつつある。米側は早期移設を再三日本側に迫っているからだ。
 一九九六年暮れの日米特別行動委員会(SACO)合意を、沖縄基地整理・縮小の唯一の頼みとする政府に、新たな基地処方せんはない。
 事故発生で、沖縄県議会をはじめ、米軍基地に隣接する県内自治体は、日米地位協定の抜本見直しと普天間飛行場の県外移設、加えてSACO合意の見直し要求を相次いで決議した。政府の対応次第では、九五年の米兵による少女暴行事件で爆発、日米安保の根幹を揺るがした県民感情が再現されるかもしれない。
 政府の緊張感が具体的対応に結び付いていないことを端的に示したのは、去る十九日の稲嶺恵一知事と細田博之官房長官の会談だ。海外視察の日程を切り上げ帰国、急きょ上京した知事は、夏休み中との理由で小泉純一郎首相と会えなかった。普天間飛行場の危険性を取り除き、早期返還を求める知事に官房長官は、誠実な対応と米国との話し合いを述べただけ。
 事故への怒りに加え、県民感情を逆なでしたのは、米軍が事故現場を封鎖して機体の残がいを片付け、事故解明に欠かせない県警の機体検証も、日米地位協定を盾に拒否したことである。そして、事故原因究明が不明なまま、イラク作戦を理由に飛行が再開された。県のみならず、政府も飛行中止を求めていたにもかかわらずである。
 日米地位協定は、六〇年の締結から一度も見直されていない。米軍に絡む事件や事故が起きる度に、協定の運用改善で処理された。古びた協定では対応できなくない事実は放置されたままだ。
 地位協定見直しには二国間の力関係がはっきり表れる。米軍機事故をきっかけに、ドイツやイタリアで地位協定改定や運用規定の見直しができたのは、粘り強い対米交渉があったからだ。日本でも米軍機の低空飛行訓練や夜間発着訓練(NLP)への反発が強まっている。米軍の都合だけを優先するようでは、日米の「対等な関係」はむなしく響く。(2004年8月20日)