(26)―核心評論「普天間返還」

◎姿現した米軍の戦略見直し
 SACO合意再検討は必至

 こう着状態にある沖縄・普天間飛行場の返還・移設の見直しが現実となったようだ。
 米政府が非公式ながら普天間移設の遅れに不満を表明、早期の問題解決を迫ったのは、返還方式の再検討を意味する。二月中旬行われた日米両政府の外交・防衛当局の会議で事態打開の検討開始で合意したという。
 近く本格的な日米折衝が始まるようだが、それで移設問題がにわかに進むほど事は簡単でない。
 名護市辺野古沖に建設が決まった軍民共用の代替施設に代わって嘉手納空軍基地への統合や海兵隊訓練場を国内や海外に移転する案が浮上しているが、具体的な論議の俎上(そじょう)には上がるかどうかは不明だ。
 難渋の末、地元を説得した名護市辺野古沖の代替施設の扱いをどうするのか。訓練場の移転が可能なのか。さらに、嘉手納基地への統合もすんなり運ぶとは考えにくい。
 仮に現行の普天間返還方式が変更になるようだと、普天間返還を盛り込んだ一九九六年暮れの日米特別行動委員会(SACO)最終報告の見直しにならざるを得ない。つまり沖縄の基地問題を一九九六年以前の振り出しに戻すようなものだ。
 日本政府としても、沖縄基地問題はSACO合意の着実な実施で解決することに変わりはないとしているが、本音は外交問題で新たな難問を抱えたくないということのようだ。
 だが米政府は現に最終合意の見直しにつながる返還方式の再検討を打診した。普天間移設の大幅遅れに米政府が業を煮やしたは、日米同盟の強化が一段と進む一方で、沖縄基地問題という足元の懸案が牛歩状態で、ブッシュ政権が進める米軍の変革・再編(トランスフォーメーション)に影響しかねないからだろう。 昨年十一月、ラムズフェルド米国防長官が沖縄基地を視察、そして一カ月前にはアーミテージ国務副長官が来日した。
 国防長官は普天間基地の現状に強い懸念を表明したという。国務副長官の来日は、表向きは北朝鮮をめぐる六国協議だが、別に在日米軍再編問題があった。
 副長官は、ブッシュ政権入り前の二〇〇〇年十月にまとめた対日政策提言「アーミテージ報告」が展望したとおり、日本の対米防衛協力が整備されたことに満足の意を表明している。日米関係の現状は、報告の筋書きどおりというわけである。
 米政府は時に大胆に政策転換をする。ち密な情勢分析と高度の戦略構築があってのこと。台湾海峡の緊迫化や朝鮮半島情勢を横にらみしながら、不可能とされた普天間返還を約束した。以後、日米同盟がいかに強化されたかを見れば、米外交のしたたかさが明らかだ。
 米軍の変革・再編は在日米軍の態勢変化をもたらすだけではない。日本を一段と深く米戦略に組み込む狙いがある。現状維持が常識と思われた沖縄基地が、再編という形で動きだす可能性が高まったのは、米軍の戦略見直しからきている。そして、見直しで沖縄県民が求める基地縮小、とりわけ海兵隊の大幅縮小につながり、同時に米軍の変革・再編を実現できる。米政府がそう踏んだからだろう。(2004年3月1日、共同通信客員論説委員)