(21)−「道路公団総裁解任」

◎藤井氏解任で幕を引くな

 日本道路公団の藤井治芳総裁の解任は、石原伸晃氏国土交通相が更迭の意向を明らかにして約一ヶ月ぶり、九時間に及んだ聴聞から一週間後の最終結論である。藤井氏の抵抗で泥仕合の様相を呈した解任劇だったが、中曽根康弘、宮沢喜一両元首相への引退勧告や参院埼玉補選投票、衆院選公示前に改革姿勢を示した形だが、道路公団問題はなお尾を引きそうだ。
 解任理由は、未曽有の改革を行うときに公団総裁としての適格性を欠き、国民の信頼を著しく損ねたというもので、日本道路公団法一三条第2項に基づく。後任は当面置かず副総裁が代行する。
 藤井氏の解任は既定の路線だった。
 昨年六月スタートした道路四公団民営化推進委員会の更迭要求に加えて、先月発足した小泉第二次改造内閣で行革担当相から国交相に就いた石原伸晃氏は就任早々、藤井氏更迭の意向を表明していた。今月五日の事情聴取とその直後の辞任要求、そして十七日の聴聞は自発的辞任を拒否した藤井氏に対する解任の手続きでしかなかった。
 特殊法人トップの藤井氏の抵抗という前代未聞の事態は、小泉純一郎首相の構造改革に対する反抗でもあった。公団改革の象徴と位置付けられた総裁更迭は、高速道路建設に絡む政治家の関与を藤井氏自身が明らかにするなど政治的疑惑にまで発展した。
 藤井氏が石原国交相の事情聴取でイニシャルで挙げた有力政治家の存在がそれだ。藤井氏は自らを「改革者」と言い、「何も悪いことはしていない」と身の潔白を主張している。道路行政のドンと呼ばれた建設官僚時代は、政治的圧力を排し泥をもかぶることもあったとも語っている。
 一方、国民にとって分かりにくいのは、藤井氏解任に至る小泉首相や石原国交相の言動だ。石原氏は藤井氏の事情聴取に先立って「更迭」方針を明言していたし、事情聴取後の記者の質問には「解任」を断言した。首相も「国交相に任せている」と自ら目に見える形で動くことはなかった。
 国交相の一連の強硬発言は首相の意を体したものであろう。
 国交相による事情聴取が民主党と自由党の合併日に重なったこと、藤井氏のイニシャル発言が政界に巻き起こした波紋を考えれば、藤井氏の公団総裁としての資質・適格性の問題とは全く無縁とは言いにくい。
 政治的疑惑が発覚した以上、国会は藤井氏を証人喚問するなど立法府としての事実解明に乗り出さなければならない。野党は既にその要求をしているが、与党側の反応は鈍い。国交省も調査の必要はないと言っている。選挙をおもんばかってのことだろうが、東京地検が捜査に乗り出したと言われている。
 道路民営化法案は来年の通常国会に提出される。公団改革はなお道遠い。法案の内容、その後の国会審議がどうなるか。藤井氏の解任で幕を引いてはならない。(2003年10月26日)