Q−「道路公団総裁解任」

◎改革の正念場はこれからだ

 日本道路公団の藤井治芳総裁の解任が確実となった。石原伸晃国土交通相が求めた辞表提出を拒否したための強硬措置で、国交省の解任手続きが始まった。
 石原国交相が道路公団の財務諸表をめぐる疑惑をただそうと藤井氏を呼んで五日行われた事情聴取は、石原氏が納得できる場にはならなかった。このため石原氏は事情聴取後、藤井氏に民営化を控えた道路公団の経営は任せられないと判断、小泉純一郎首相の了承を得て六日午前中に辞表を提出するよう通告した。
 ところが藤井氏は辞表提出を拒否した。道路四公団の民営化は、小泉第二次改造内閣の大きな目玉である。表向き民営化賛成と言いながら、内部では逆なことを言う。批判が強い財務の実態も隠ぺい、辞表提出にも応じない。これでは解任しか道はない。
 政府部内に藤井氏の更迭論が浮上したのは今年七月、道路公団の幹部が公団の債務超過を示す「財務諸表」を藤井総裁が隠ぺいしていたとする疑惑を月刊誌で告発してからだ。藤井氏は国会答弁などで疑惑を否定したが、公団の調査で財務調査の事実が確認され、さらに釈明も二転三転して問題化、道路四公団改革の民営化推進委員会も藤井氏更迭を要求していた。
 石原国交相は先月二十二日の新内閣発足後の会見で「藤井氏は民間企業ならクビだ」と切り捨て、国民から信頼される経営陣の下で民営化が進められなければならないと語っている。自民党総裁選で政局が揺れていたこともあるが、藤井総裁更迭は時間の問題だった。
 五日国土交通省で行われた事情聴取は、予定をはるかに超える五時間近くに及んだ。事情聴取後、藤井氏は「(公団の)民営化は必要だ。私は何も悪いことをしていない」「政治家は出処進退を自ら決めるが、私は政治家ではない」と辞表提出の意思がないことを示唆していた。
 新内閣発足で政局を乗り越えた小泉首相にとって、郵政事業の民営化と並んでマニフェスト(政権公約)の柱となる道路公団民営化を、国民により印象づける意味でも総裁交代は必要だった。加えて、国会解散も迫っている事情もあった。だが、藤井氏の辞表提出拒否は予想外だった。
 藤井氏は一九六二年、旧建設省に入省、道路畑を中心に歩み、事務次官を経て二〇〇〇年に道路公団総裁となった。
 政府の藤井氏解任決断は、伏魔殿にも似た道路公団改革に対する政府の強い意思を見せつけた。
 しかし、これで公団の隠ぺい体質が一気に解決されるとは限らない。民間企業経営の経験者と目される後任の総裁人事は難航しているようだし、政府が来年の通常国会に提出する民営化関連法案の内容がどんなものになるかも判然としない。
 法案は国主導の高速道路建設を主張する国交省の仕事だ。自民党道路族の攻勢も避けられない。公団が真の意味で民営化が実現できるかは、むしろこれからが正念場だ。(2003年9月23日)