P−「銀行税和解」

◎石原新税がもたらしたもの

 「石原新税」と呼ばれた東京都の大手銀行に対する外形標準課税(銀行税)訴訟で東京都と銀行側が和解で合意、提訴以来ほぼ三年ぶりに決着した。双方とも「名より実」を取った形だが、銀行税が浮き彫りにしたのは税制の矛盾と地方分権時代を迎えながら、自前の財源に窮する自治体の実態だった。来年度から全国一律に法人事業税の一部を資本金など外形基準による課税方式に切り替えることになったが、これとて東京都の銀行税が引き出した産物だ。
 石原慎太郎知事が銀行税導入を発表したのは二〇〇〇年二月。旧自治省が税負担の公平性を損なうとして都に再検討を要請、全国銀行協会も「銀行を狙い打ちにした」として絶対反対を表明、都と石原知事を相手取って行政訴訟を東京地裁に起こし全面対決に突入した。
 バブル期以来の都民の間に染みついた銀行不信や有力政治家、識者の「理解」を背景に石原知事の攻勢は続いたが、昨年三月の東京地裁の判決は銀行税の導入を決めた都条例を違法・無効とし、今年一月の東京高裁判決も都の控訴を棄却した。一審、二審とも銀行側の勝訴となったが、高裁判決は「課税は違法ではないが、税率は高すぎる」と、一審よりも都側の主張を認めた。
 都は司法の最終判断を求めて上告するが、四月の都知事選で石原氏は圧倒的勝利で再選される。和解の道が検討され始まったのはその直後からだ。どこまでも訴訟を続けた場合、石原知事の政治的失点も覚悟しなければならない。国民的人気の高さ、政界の先行き次第では「石原新党」が現実味を帯びるかもしれない。仮に最高裁で都が敗訴となれば、財政的負担も大きい。
 一方の銀行側も不良債権処理が思うように進まない。銀行の体力も目に見えて落ちている。都も銀行側も、原則とは別に現実の問題が立ちはだかっていたのである。
 合意内容は都が3%の税率を0・9%に軽減し、訴訟不参加行を含め約三千百七十三億円のうち、約二千二百二十億円に還付加算金約百二十三億円を返還する。そのための補正予算を編成、条例も改正する。議会承認を得た上で、正式に都、銀行側それぞれが上告を取り下げることになる。
 「石原新税」が巻き起こした地方の自主課税権は、今では地方税財源の充実策として当たり前になっている。だが、誰も考えなかった旧地方税法のこの権利の活用を気付かせたのは石原知事だ。
 補助金と地方交付税しか頭になかった地方自治体や地方議会が、初めて自分で税を決めることを知った。赤字法人に課税する事業税の外形標準化にも道を開いた。「税の公平性」という理念に抵触しながら、国と地方の税制を動かしたのは、ひとえに政治力だった。
 地方分権整備法が施行され、地方分権の根幹を支える地方税財源の三位一体改革にまでなんとかたどり着いた。銀行税は形の上では挫折したが、もたらしたものは大きい。(2003年9月15日)