H−「三位一体改革」

◎分権会議の存在が問われる

 地方分権改革推進会議が地方税財政の三位一体改革について小泉純一郎首相に提出した意見書は、税財源を地方に移譲する肝心の問題を先送りにするなど、分権改革を担った機関らしからぬ内容となった。
 意見書は、三日に公表した最終案にあった税財源移譲の「基本的な考え方」の一部を削除したほか、税財源移譲の先送りを弱めるような文言に修正された。しかし、全体として補助金の廃止・縮減、地方交付税の段階的縮小を迫る一方で、税財源移譲は将来の増税を含めた税制改革の中で行うとした方向性は変わっていない。一読して「財政論」の色彩が濃い。
 地方制度調査会は先に、個人住民税の拡充など基幹的な税の移譲を求める意見書を首相に出している。ともに、経済財政諮問会議が今月中にまとめる三位一体改革の工程表のたたき台となるものだ。税財源移譲で全く異なる考えが首相の二つの諮問機関から出されたねじれをどう決着させるのか。地方分権問題に対する小泉首相の真価が問われるだろう。
 最終案から削除されたのは、「税源移譲を含む税源配分の見直しは、単純に国税から地方税へ税収が移譲されるかのように受け止められるべきではなく」としたくだりだ。
 この表現では、税財源の地方への移譲は「先送り」というより「移譲しない」と読めてしまう。国の財政事情を盾にした財務省の主張を、分権会議が追認したと批判が集中していた。地方交付税改革の目玉とされた「地方共同税」も中長期的な選択肢となった。いずれも分権派委員の反発に配慮したものだ。
 もともと首相に提出されるはずの最終案が、土壇場で何故修正されなければならなかったのか。そこが問われなければならない。
 分権会議は一昨年七月に発足して以来、委員間の調和が欠けていた。昨年十月末にまとめた五分野・百三十五項目の「事務・事業の在り方に関する意見」あたりまでは特に問題はなかった。ところが、議長代理の水口弘一氏の試案提示で財政派と分権派の対立が一気に表面化。両派の溝が埋まらないまま最終案の取りまとめ、そして削除・修正というドタバタ劇を演じてしまった。
 意見書には神野直彦東大教授ら四委員が反対であることが明記された。
 本来、全会一致であるべき諮問会議の結論がなかったことの意味は大きい。それと、地方が分権会議に対して抱いた不信感はもっと重大である。
 地方分権整備法の施行を実現させた地方分権推進委員会の審議は、第一次分権改革と言われた。そして、分権委の仕事を引き継ぎ、第二次改革を目指したのが分権会議だ。その分権会議が小泉改革の柱である三位一体改革をうたいながら、税財源移譲を不透明にした。
 しかも、諮問にない増税を含めた税制改革を主張したことも理解を超える。分権会議は原点に立ち返らないと、存在意義さえ問われかねない。(2003年6月5日)