G−「首都機能移転」

◎ほごになった国会決議

 国会決議は、こんなにも軽いものなのか。衆院の国会等移転特別委員会が衆院議長に提出した首都機能移転に関する中間報告のことだ。
 報告は一応、引き続き首都機能移転の実現を求めてはいる。しかし、移転先決定に向けた具体的な見通しは示さなかった。国会や中央省庁を東京以外の都市に移す十二年前の国会決議は、事実上、ほごにされてしまった。
 今国会中には、どうにか候補地を一カ所に絞るはずではなかったのか。来年の通常国会には何とかしたいということらしいが、先送りが当たり前になってしまった問題が急に息を吹き返すとも思えない。
 首都機能移転問題は、一九七七年の第三次全国総合開発計画(三全総)で国の重要課題と位置付けられた。その後、東京の過密・一極集中の是正、地価暴騰の切り札とされ、衆参両院はバブル経済末期の九〇年に国会等の移転を決議、国会等移転法が成立した。そして、首都機能移転を待ったなしの課題にさせたのが九五年初めの阪神大震災だった。
 高度経済成長期を経ていびつに膨らんだ日本の姿を、二十一世紀に向けて多極構造国家に変身させるための「大手術」が首都機能移転である。そしてバランスのとれた国家像を追求する改造計画と位置付けられた。
 首相の諮問機関の国会等移転審議会は九九年暮れ、「栃木・福島」「岐阜・愛知」「三重・畿央」を答申した。国会は昨年の通常国会で一地域の絞り込むはずだったが、経済情勢や候補地に挙げられた関係地議員の綱引きで先送りになった。
 国家プロジェクトである首都機能移転が経済事情と無縁ではない。橋本龍太郎内閣の財政構造改革でも、改革期間(一九九八―二〇〇三年度)中に新首都建設事業への財政支出は行わないとし、審議会の作業スケジュールを変更させた。
 同じことは小泉純一郎内閣でもいえる。首相は今年三月十日の参院決算委員会で首都機能移転についての質問に「新たな問題が起きると、今手を付けている問題の障害になる」と、政治課題とする考えがないと強調している。
 移転費用は最大で十二兆数千億円が見込まれる。デフレ不況の長期化による経済情勢の悪化は、小泉改革の先行きを不透明にしているが、国民の関心が低い首都機能移転問題にかかわっている余裕も首相にはないようだ。
 国会等移転特別委員会の報告は、移転先を一カ所に絞らず「分散移転の検討」や「新たな協議機関での検討」などとした。問題に取り組むに当たって「―検討する」は「何もしない」に等しい。
 首都機能移転が政治課題として浮上したときと今の状況にさほどの違いがあるとは思えない。先送りで移転問題は遠くに行ってしまった感もあるが、真剣な移転論議に戻すべきだ。お粗末なのは、首相官邸が新しくなった、衆参の議員会館建て替え計画もあるから「移転は現実的でない」という国会議員の感覚だ。(2003年5月29日)